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株式会社 共和電業

公開日:2024/08/28 更新日:2024/08/28

組織風土改革の変遷と定着

人的資本経営においても、戦略と組織風土の一貫性を確保すべきとされている。優れた戦 略を立案しても、それを実現する組織能力が伴っていないと絵にかいた餅状態になるとい うことだ。組織風土改革は難易度が高いため、企業の多くは重要性を理解しているものの 手つかずの状態になることが多いとされている。
今回のお取組事例は、同じ課題をもつ企 業の推進上のヒントなるのではないだろうか。

株式会社 共和電業

実験研究用の応力測定機器、および工業用・土木建築用の計測・計装機器の開発・製造・ 販売などを手がける共和電業様。社員一人ひとりの主体性を引き出し、部門横断的な対話が 自然と生まれるような職場環境の醸成を目指して、2019 年度よりこれまでの組織体制の見 直しに着手されました。2020年7月からは「自律と協働の職場づくり研修」を導入され、 2021 年 1 月には全社員で共有したい心構えや行動をまとめた「KYOWA WAY」を策定する など、組織風土改革に意欲的に取り組まれています。

研修導入の経緯や、実施後の変化、今後の展望について、取締役上席執行役員 技術本部 ⻑の坂野浩義様、取締役上席執行役員 経営管理本部⻑の下住晃平様、執行役員 技術本部 副本部⻑の上杉太郎様、経営管理本部 人財開発部⻑の印牧⼸人様にお聞きしました。

聞き手は、日本能率協会(JMA)の専任講師である株式会社スプリングフィールド代表取締 役社⻑ 春野真徳氏です。(本文中敬称略)

(左から上杉様、坂野様、印牧様、下住様)

●自由闊達な議論を生む風土醸成に向け、研修導入を決意

(春野)
今回導入していただいた「自律と協働の職場づくり研修(以下、自律・協働研修)」をはじめ、御社が組織風土改革に着手された経緯をお教えください。

(坂野)
きっかけは、2018 年に大手自動車メーカーの執行役員だった方の講演を聞いたことでした。複数の部門からメンバーを募って経営課題に取り組む CFT(クロスファンクショナルチーム)活動について知り、ぜひ当社にも導入したいと考えたのです。翌 2019 年 1 月にはその方を講師として招き経営層や上級管理職向けにセミナーを実施。同年 3 月から「製品の品質維持向上」をテーマに CFT 活動を始めました。

部門間の利害関係などを意識せずに話し合えるような場を目指したのですが、思った以上に会話が弾まず、しばらくは期待したような成果が出ませんでした。そこで初めて、経営課題について活発に議論していくには組織風土改革が必要で、そのためには「心理的安全性」や「ファシリテーション」を学ぶべきだと痛感したのです。

(春野)
なるほど。そこで弊社にお声がけいただき、私から「自律・協働研修」をご提案させていたくことになったわけですね。一人ひとりが主体的に考えて行動し、成果を生み出していく組織づくりを目指すもので、カギとなるのはおっしゃる通り「心理的安全性」です。

(坂野)
はい。具体的には 2020年7月、技術本部を対象とする研修として、初めて実施をお願いしました。CFT 活動の経験などを踏まえて、技術本部の状況に照らして考えたとき、新製品開発が思うように進んでいないという課題がありました。世代間の価値観のギャップがコミュニケーションのハードルになっていましたし、一部の社員の間で“他人ごと感”が蔓延していたことも原因でした。まさに心理的安全性向上が重要だと思い実施に至りました。

(春野)
その後、さまざまな階層や部門の方々に向けて実施させていただきましたが、下住さんはオブザーバーとして、当初から多くの研修にご参加いただきましたね。

(下住)
複数の研修現場を見ましたが、最初はメンバーたちも余所余所しく、緊張している感じがしました。しかし、ロールプレイを通じてだんだんと表情が良くなり、発言も活発になったのが印象的でした。大人しいタイプの社員ばかりが同じグループになったこともありましたが、役割分担をしっかりと行い、ファシリテーターやムードメーカーを自然にこなしていました。議論も活発に行われており、当社社員にはこんなにも高い潜在能力があるのだと嬉しく感じました。

(春野)
この研修では、社員の幸福度と生産性が密接に連動していることや、理想の職場の実現には心理的安全性を確保する人間関係が大事であることを学んでいただいた上で、「理想の職場 10 か条」を作成していただき、さらに実際の職場で 10 か条の普及に取り組んでいただいています。これらを経て、上杉さんは職場の雰囲気に変化を感じていますか?

(上杉)
そうですね。まだ道半ばではありますが、相手の存在を肯定的に認める「ストローク」や、良いところを積極的に褒める「フィードバック」などは、社内で徐々に浸透しているなと感じます。また「理想の職場」についても、普段はなかなか思い至らないテーマですが、研修をきっかけに、みんなが働きやすい職場とは何か、自分たちのパフォーマンスを最大限に発揮できる環境とはどういうものかを、それぞれの立場で考えるようになってきたのは良い変化だと思います。

(春野)
研修全体を運営されている印牧さんのお立場からはどうお感じですか?

(印牧)
「理想の職場 10 か条」をテーマとするディスカッションは、とても良い変化につながったと感じています。感度の高い社員は、研修という限られた時間の中でも「上意下達ではなく、自分たちも会社に対して意見を発することができる」という、我々のメッセージをちゃんと受け取ってくれています。研修の様子を見ていると、「あっ!今、彼らの心と身体が動いたな」と感じることがよくあります。そういう意味でも良い研修ができたと思っています。

とはいえ、当初は「自分一人がやっても、どうせ会社は変わらない」というネガティブな意見も少なくありませんでした。しかし、研修を経験した社員の数も徐々に増え、経営陣も良い変化を感じてこの研修に対し前向きなメッセージを日ごろから発信してくれるようになりました。社内の雰囲気が前向きに変化し、社員たちも「こういう職場改革に自分が取り組んでも、職場で浮いたり孤立したりしない」といった安心感を抱いてくれていると思います。

●研修で明らかになった問題解決に向け、人財育成体系の再構築に挑戦

(春野)
一方で、新たに明らかになった課題もありました。研修後、現場で働いている各階層の約30名のみなさんにインタビューしたところ、2つの重要な指摘がありました。1つは、上位の階層の人たちから下位の人たちへのフォローアップがうまく機能していないこと。もう1つは、自身のキャリア形成の先行きが見通しにくく、特に中堅層以下の方々が強い不安感・絶望感を感じているということでした。これを改善するために、上級管理職研修を導入するとともに新任管理職研修の内容を刷新されましたね。

(印牧)
はい。もともと「KYOWA WAY」の求める人財像と現実には残念ながらキャップがあり、ここを埋めるためには、職場風土改革とともに、人財育成体系を再構築していくことが必要だと考えていました。また、単なる学びの場としての「研修」ではなく、その内容を「経営方針」としっかりと繋げていくことも重要です。新任管理職研修以外の全社的な管理職研修がなかったので、そこも変えたいと思っていました。

そこで、経営課題の解決をテーマにした研修を行いながら、新任管理職を上級管理職がフォローアップするような育成の仕組みを構築しようと考えたのです。具体的には、新任管理職や新任主任のメンバーが「KYOWA WAY」や「理想の職場づくり」を実現するためのアクションプランを策定し、職場実践する過程で上級管理職研修参加メンバーにフォロー・サポートしてもらう仕組を導入しました。言うなれば、複数の研修プログラムを複合的に実践してもらい、経験学習サイクルを習慣化していこうという取り組みです。さらには、人事評価制度見直しのタイミングに評価者・被評価者研修を実施し、春野講師にご教示いただいている「測定可能な目標設定」を実施することについても強化を図っております。

(春野)
素晴らしい取り組みだと思います。手応えや反響はいかがですか。

(印牧)
これまで約2年間、この仕組みで上級管理職・新任管理職研修を行ないましたが、受講者による達成度評価の評点だけを見ても、着実に数値が上がっているのがわかります。

また、部門⻑会での議論もレベルアップしていると感じています。以前は、各部門⻑が形式的に集まるだけでしたが、24 年度からは目的から再定義のうえ「部門単独では解決できない問題の解決に向けた討議を実施する場」として機能しています。部門⻑会の討議により諸問題を解決することが、上級管理職研修の成果だと考えています。

ほかにも良い変化はたくさんあります。例えば「職場の雰囲気は変わりましたか?」というアンケート調査の結果を見ると、2023 年秋に初めて「変化を感じる」という回答の割合が「変化を感じない」の割合を超えました。これは大きな節目だったと考えています。また「技術部門の管理職の方と接していると、意見をよく聞いてくれる方が多く、とても話しやすいと感じます」といった別部門の社員からのコメントも寄せられるようになりました。これも過去にはなかったことで、研修効果の表れではないかと自画自賛しています。

(左から印牧様、上杉様、下住様、坂野様)

●社員の成⻑に向けたキャリア形成⽀援や次世代リーダーの育成へ〜今後の展望

(春野)
今後の御社の研修展開について、目標や展望をお聞かせください。

(下住)
今日お話ししたように、当社においては人財育成改革と研修展開のおかげで、管理職の意識も組織風土も大きく変わってきました。次のテーマとなるのが、グループ全体にこのプロジェクトを広げ浸透させていくことです。

2021年、私は子会社の甲府共和電業で研修を行いました。そこは40人ほどの小さい事業所で、坂野の協力を得ながら進めましたが、小さい組織は変わるのも早いので、職場の心理的安全性の高まりとともに短期間で良い風土が醸成されていくのを感じることができました。一方で、山形県には約 200 名の社員を抱える子会社(山形共和電業)があり、共和電業グループのメイン工場でもあります。社員数も多いですし、地域独特の気質もありますから、管理職層の意識改革や社内の風土改革には手間も時間もかかるかもしれません。すぐに成果は出なくても諦めず、地道に研修を継続していくことが重要だと考えています。

(上杉)
私は、一人ひとりがリーダーシップを発揮する「シェアドリーダーシップ」のような考えを社内に浸透させていきたいです。大企業は人財が豊富なので適切なチーム形成が可能ですし、ごく小さな会社はまとまりやすい規模感があり効率的に動けます。しかし当社はその中間ぐらいの規模感なので、やらなければならないことは多いのに人財の数が十分ではありません。だからこそ、個々の社員たちが「自律と協働」の下、それぞれの役割と責任においてリーダーシップを発揮していくことが必要だと思うのです。リーダーとは特定の誰かのことではなく、みんながそれぞれの立場で「自分はリーダーだ」と思い行動できる状態が理想です。

さまざまな研修のおかげで、問いかけに対して積極的に発言できる社員は増えました。さらに進んで、誰かの問いかけがなくても自発的に発言し周りを巻き込んで行動できるようになると、シェアドリーダーシップが浸透してきたと言えるのでしょう。

(印牧)
人財開発部としての次の目標は、社員の主体的なキャリア形成を促すことです。 一人ひとりが中⻑期的な理想の人財像を言語化し、ロールモデルを見つけて成⻑していけるようなプロセスを確立したいと考えています。

当社は、社員の危機感を煽るよりも、「この会社にいれば安全だ」と感じてもらうことで、社員が能力を発揮するタイプの企業ではないかと推察しています。社員にはポテンシャルが高い人財が多く、数字での検証はできていませんが、このスタイルのキャリアメイクが一定の成果をあげるではないかと思います。

また、重要なのは次世代リーダーを育成するサクセッションプランですね。リーダーとしての資質・能力を身につけるためには、さまざまな組織風土を経験することが不可欠です。候補となるような社員には、責任ある立場で経験を積んでもらいたいので、積極的に権限委譲していくことも必要でしょう。

当然ながら、人財育成体系は、経営目標の達成と組織風土改革の実現を目的としています。経営ビジョンや経営戦略を新たな人財育成体系にしっかりと反映し、私の任期中に実現したいと思っています。

(坂野)
私が目指したいことは2つあります。一つは「自ら問いを創り出し、それに対する考えを対話の相手から引き出せる人財を増やすこと」です。研修のおかげで意見を言える社員はだいぶ増えましたが、問いかけによって考えを引き出す力の育成はまだこれからです。こうした人財が増えれば、ファシリテーションもうまく進み、部下の考えや思いを引き出すこともできるようになるでしょう。もちろん、すでにできる社員もいますが、その数をもっと増やしたい。それが当社の新しい事業創造の契機にもなると思いますので。

もう一つは「やりがいの創造」です。最近、特に若手や中堅層から「やりがい」という言葉をよく耳にします。彼らはおそらく「やりがい探し」をしているのでしょう。ぜひ、それに応えて働きやすさとともにやりがいを提供できる会社でありたいと。

春野さんの研修で、「関係の質」の向上から始まり、「思考の質」「行動の質」を経て「結果の質」の向上にたどり着く組織のグッドサイクルを学びました。一人ひとりがこのサイクルを回す中で、やりがいも高まるはずです。一方で、管理職やベテラン社員にとっては、誰かに成⻑機会を提供することもやりがいを生みます。人が成⻑するのを見て気分が悪くなる人はいませんから。そのようなやりがいを生む環境づくりを目指したいと考えています。

(春野)
おっしゃる通りですね。一般の社員の方々には「チャレンジすること」でやりがいを見いだしてほしいですし、管理職やベテラン社員の方々には「メンバーを成⻑させること」にやりがいを感じていただきたいですね。

本日はありがとうございました。

編集後記
本文にあるように、そもそも心理的安全性が当社には欠けているというご相談からお付き合いが始まりました。共和電業様の素晴らしいところは、本文に登場する坂野取締役をはじめ、田中義一社⻑が自ら研修に⾜を運び社員の様子を観ていただいていることです。概ね 3年で成果が形になってきたと見ていますが、経営層に「変わらなきゃ」という決意があり、それが重要なポイントであったと思います。

また、人財開発部の印牧部⻑の存在が大きいと思います。受講者のアクションプランについて細やかなフォローアップを社内でしてくださり、時には重たい相談ごとも受講者から受け一緒に考え対話を大事にされています。

今回の活動を通じて自分で考え行動し(自律)、学びあい助け合い(協働)、成果を生み出していける組織風土の変革に向けて、可能性を広げる取り組みを共和電業の皆様とともに実践してまいりたいと思います。