組織のクリエイティビティは関係性の中で成立する|言葉を超えて「関係の質」を高める組織開発 vol.4
研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。
組織開発・組織変革と“楽器”―。一見、遠いところにあるように思えますが、言葉の限界を超えて組織の「関係の質」を高めることに、「リズム」は大きな作用をもたらします。組織メンバーの参加意識・協働意識や、創造性につながるアクティビティ「ドラムサークル」を切り口に、人間の本能への理解を踏まえた組織開発の取り組みについて、深代達也講師にお話を伺っていきます。
組織のクリエイティビティは関係性の中で成立する
-「自由にやってOK」と言われても、こんな感じでやっていいのかと、周りの人がどう思うのか気になる人もいそうですね。
(深代)
人によっては不安を感じますね。でも、まず自分なりに思い切ってやってみようとしたら、周りは変だと思わずに、「とても工夫してやろうとしている」と感じる。周囲がそのチャレンジを歓迎し、面白いと感じ、クリエイティブだと受け取るありようこそが、「創造性がある」ということなのです。
誰か創造的な人がいて創造的なものを生み出す、というのではなく、クリエイティビティは関係性の中で成立するのです。
仕事の中で言われた通りやるのではなく、工夫を入れてやって、「あ、いいね」って言われたら、どれだけ嬉しいでしょうか。
そんな仕事が増えたら、もっともっと工夫しようと思えるのではないでしょうか。
「コーポレートドラムサークル」の体感ワークの中では、今やっていただいたように、一定のリズムを互いにキープしながら、指示命令通りにドラムを叩くのでなく、一人一人が自分なりの叩き方にチャレンジしていただきます。
想定外の叩き方や、ユニークなリズムが飛び出してきます。そしてその瞬間に一人一人の心の中に起こっている出来事がとても大切なのです。
例えば、「勇気をもって違う音やリズムを出してみようとすること」、これはまさに創造性の源です。ですからそのチャレンジを最大限に皆で楽しみ、讃えていきます。
そして、誰かから出てきた違う音やリズムをしっかり聴いて、「お、面白いねそれ!その音に自分がどう乗せていけばもっと面白い全体になるかな?」といった創造的な相互作用の連鎖が起こっていきます。
もちろんここでは、摩擦やぶつかり合いもあり、そこから互いが軌道修正することも体験します。まさに本来的な自律性をもったチームを実現できます。
メンバー全体がリズムに乗り柔軟に機能しあってGROOVEがうまれると、最後には当初のリズムアンサンブルとは全く違うアンサンブルがうまれてきますし、自ずから笑顔や拍手がうまれてくるのです。
こうした体験をしながら、それを自分の仕事やチームの現状に置き換えて考えてもらったりします。
-ちょっと消極的にみると、やはり社会から評価され、成果は出さなければいけないですから、自分なりの工夫をするチャレンジは称賛するけれど、彼はもう少しうまくできるのではないかと思う人もいるかもしれません。
その工夫が、正直に言うと少し下手だなと思ってしまった場合は、どうなるのでしょう?
(深代)
そういう場面は往々にしてあるかもしれませんが、メンバーに対して「下手だな」と思っただけで終わってしまったら、そう思った人自身が今以上成長しないと思います。あるいは、それ以上、組織を成長させられないと思います。その場合、どう考え、何をすればいいのかも「コーポレートドラムサークル」の体感ワークで考察してもらいます。
-あら探しをしたり、誰かのマイナスポイントを話題に出しがちな集団も、残念ながらあるように思います。
(深代)
例えば「コーポレートドラムサークル」の最中に、実際それをやってもらえば、その行為がいかに無意味で時間のムダであるか実感できるのではないでしょうか。
先の社会構成主義的な見方で言うと、ネガティブな言葉を使って周りに表現すると、ネガティブな状態が実現することを自らどんどん助長するのです。「予言の自己成就」というのが社会学でありますよね。
今、おっしゃったようなケースというのは、社会的に自己効力感/関係効力感(ある結果を得るために適切な行動を自分/自分たちの組織はとれる、という自分/自組織に対する有能感・信頼感)を下げているわけですよ。ですから、とても問題です。
失敗をどう語るかが、未来を変える
-仲間のチャレンジをネガティブに語ることが、自分で自分を縛ってしまうようになってしまうのですね。
(深代)
それがまさに対話の重要性だったりするのです。未来や過去のことを対話することによって、未来の予想の仕方を制約しているわけですから。
-チームで起こった過去の出来事、失敗についてもどう捉えるかによって、これからできることや方向性が違ってくるのですね。
(深代)
そうです。失敗、いいじゃないですか。
失敗をどういう形でこれからに活かせばいいのかと考える見方と、失敗したらもう出来ないと決めつける見方とでは、全然、違うのですよ。
いかに自己効力感や関係効力感を高めるようなコミュニケーションができるか、ですよ。
「やはりこの部下とはうまくいかない」とか、「やはりあの部門はこうだから、うまくいかないに違いない」という予想や信念では、実際に「うまくいく」わけがありません。
だから、自己効力感が低くなったり、関係効力感が低くなったりしてしまうのは問題です。
過去のことを言うことによって、未来を制約してしまうのですね。
「あいつはできない」とか、「この人、下手」という思いがもし起こったとしても、その状況を変えるようなコミュニケーションをするのが科学的です。こういう行動をすればいいとやってみせたり、もっと細かく教えてみたり。こちらの働きかけによって、相手は少し変わるかもしれないですよね。
~つづく(4/5)~
◆深代 達也(ふかしろたつや)プロフィール◆
一般社団法人日本能率協会 KAIKAプロジェクト室 主管研究員
組織開発分野セミナー講師:チームビルディング、組織力向上、モティベーションマネジメント、エンゲージメント向上
米国NLP協会認定トレーナー、DiSC公認インストラクター、Ocapiプラクティショナー
米国REMO社HealthRhythms&HealthRhythms Adolescent Protocolファシリテーター
“トレーニング・ビート”認定トレーナー、ドラムサークルファシリテーター協会会員
日本能率協会総合研究所にて、バランスト・スコアカードや人事革新・組織活性を中心としたコンサルティング&人材育成に従事。同研究所経営コンサルティング部長を経て「人と組織の可能性の最大化」を使命とする株式会社可能性コンサルタンツを設立。その後現職。
現在は、音楽なども活用した組織開発の推進支援、企業理念共有支援、エンゲージメント向上支援、インフルエンサーに向けたチームをエンパワーする力向上などの現場指導・人材育成等を推進している。