オープンな職場環境が回復を促進する|メンタルヘルスが組織を強くする vol.4
研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。
過労や職場環境が原因でうつ病などの精神疾患を発症したとして、2014年度に労災認定された人は497人(前年同比61人増)に上り、過去最多を更新したことが、6月25日厚生労働省の集計で分かりました。また、2015年12月から、改正労働安全衛生法に基づき、従業員数50人以上の企業には「ストレスチェック」が義務づけられるなど、企業側は従来以上に、従業員の職場環境の改善をすることが求められてきます。
「組織と人の活性化」を専門の一つとする羽地朝和氏(日本能率協会専任講師)に、「メンタルヘルス」という切り口から健全な職場づくりについてお話を伺っていきます。
vol.4 オープンな職場環境が回復を促進する
―では、回復して戻ってくる人たちに対する企業の受け入れ体制について教えて下さい。
(羽地)
これは、他のテーマでもそうかもしれませんが、日本は、敗者に対して非常に冷たいと言いますか、一度脱落すると立ち直るチャンスがない風土があると思います。
アメリカばかりをよく言うつもりはありませんが、米国企業ではメンタルヘルスの問題はまずありません。それは、敗者=チャレンジした人という事で、復活するチャンスが与えられるということがあります。
一度メンタルで不調になったとしても、いつでも復活できるという安心感があれば、安心して休め、治療に専念することができます。
けれども今は、一度脱落したら、もう二度と管理職にはなれない、浮かび上がれないと思ってしまうので、隠して我慢をすることで、病状が深刻になり、結局上手くいきません。
復活した成功事例をたくさん作り、復活した人たちを賞賛し、ある意味でヒーローにする、良い事例として扱うことが大事だと思っています。
日本では、一度も失敗をせずに上にいった方が良いと思われがちですが、実際、そういう人はリスクを取っていないという見方もあると思います。 日本の制度や社会システム、企業の中では、敗者はなかなか復活できないという風土がありますので、このことは、日本の社会や様々な組織で必要なことだと思います。
-かなりセンシティブな部分だと思いますが、こういう事をオープンにして、企業で共有する場を作る必要もあるということですね。
(羽地)
そうですね。メンタルヘルスは、隠すと上手くいきません。正しく理解することが何よりも大切です。
例えば、日本では、精神科の病院に行くことを、あまり人には言いません。「アナライズ・ミー」というロバート・デニーロ主演の映画がありました。パニック障害になった組織のトップが著名な精神科の治療を受けるという内容ですが、アメリカではストレスがかかるほど仕事をバリバリやって、有名な精神科で診察してもらうというのがステータスなのです。
一方、日本は、一度精神科に行くと、社会からはじき出されるというイメージがどこかにあるので、隠します。このテーマを隠さないでオープンにして、自慢するくらいになって欲しいと思います。
「自分の弱さを受け入れて問題を直視する」人こそ、本当の意味でタフですし、成功する人ですから、オープンにすることが重要ではないかと思います。
-オープンな環境をつくるには、メンタルヘルスに対する、正しい理解・真の理解が必要だと思います。このテーマをより理解する為に、この映画以外に、適切な書籍などがあれば教えて下さい。
(羽地)
最近では「ツレがうつになりまして」は有名ですよね。漫画だったものが、テレビドラマにも、映画にもなりました。
バリバリ仕事をしていたスーパーサラリーマンの夫が、ある日突然死にたいと言い出したという、実話をもとにした漫画です。漫画ですから面白おかしく描かれていますが、鬱から回復していく過程などは、きっと共感できると思います。
~つづく(4/5)~
◆羽地 朝和(はねじ ともかず)プロフィール◆
一般社団法人日本能率協会 専任講師
株式会社プレイバック・シアター研究所 所長
大手企業から中堅企業を対象に、人材育成コンサルティング業務に従事。その他、精神科クリニック・精神病院でのグループセラピー、大学・専門学校等で人間関係論などの教鞭も取っている。