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「失われた30年」後の日本企業のあるべき姿と人材育成とは?
MOOK『シン・日本的経営』でJMAが提言したいこと(1)

公開日:2024/06/25 更新日:2024/06/27

日本能率協会(以下JMA)では、2024年2月にMOOK『シン・日本的経営』を刊行しました。数多くの経営者や研究者が、産業界の「失われた30年」を振り返り、これからの日本企業のあるべき姿について語る本書。刊行を通じてJMAの伝えたかったこと、その内容を踏まえた人材育成のあり方などについて、経営・人材革新センターカスタムソリューショグループ民間ソリューションチームエキスパートの岡田健作が語ります。

「次の日本的経営」で産業界の発展に貢献するために

 JMAが大切にしているのは、さまざまな施策や提言を通じて産業界の発展に貢献していくことです。今回の『シン・日本的経営』という冊子も、経営革新のヒントにしていただくことを目的に発刊致しました。

 本書では、失われた30年で何が起こっていたか、何が課題だったのか?ということをもう一度紐解きます。それをもとに、「次の日本的経営」とはどのようなものであるべきかを考えるきっかけにしていただければと考えています。 

「日本的経営」とはどのようなものだったのか

 日本企業を特徴づけるのは、「年功序列」「企業内労働組合」「終身雇用」の3点と言われてきました。こうした特性が、伝統的に日本人の考え方と時代に合っていて、それで成功を実現してきたのがバブル前までの時代だったと言えます。

 ただし、これら3点は企業を運営するハード面での特徴です。最近クローズアップされている「人的資本経営」の重要な観点として、「戦略と企業風土を紐付ける」ということも重視されていますが、企業風土について理解するには、こうした日本的ハードから醸し出された企業風土とは何だったのかを、もう少し読み解く必要があります。

私が思うに、その企業風土とは、同じメンバーで仕事をし続けることから生まれる仲間意識やチームワーク、チームを支えるメンバーとして仕事を完遂する責任感、そして「ここで働き続けられる」という安心感――最近の言葉で言えば「心理的安全性」――なのではないかと思います。こうしたことが、従来の日本企業の強みの源泉になっていたと言ってよいでしょう。

こうした企業風土が日本人に合っていたと考える手がかりは江戸時代にあります。江戸幕府を開いた徳川家康が大事にしたのは、一つは「天下泰平」。一番嬉しいのは食事に苦労しないことであり、米で経済を回すためにも安全に仕事ができる環境を作りました。もう一つはお家騒動を避け、優れたリーダーを選別するため「後継者選び」の基準を明確にしたことです。こうしたことが、260年続いた時代を通じて日本人のDNAに根付いていったのではないか。『シン・日本的経営』ではこうした点について、歴史家にも語っていただいています。

日本の経営が迷走してしまった理由

 失われた30年は結果が出なかった30年でもあります。そうした状況を打開するために、ESG経営、コーポレート・ガバナンス、ジョブ型人事等々、さまざまな新しい経営手法を取り入れることになったわけです。これらはどれも素晴らしいものなのですが、多くの経営者は、何となく違和感を覚えながら導入されていたような気がしてなりません。

 また、新しい手法を導入するに当たり、「自社の強みを活かせるか」という点については検討される場合が多いですが、「風土に合っているのか」については検討されるケースが少ないように感じます。確かに風土は捉えづらい要素ではあるため難易度が高いのは事実なのですが。

 どんな考え方も大事なのは本質を掴むことです。本質を捉えたうえで、目的は何か、その目的に一番近い打ち手は何か、導入したときに社内にどんな反応が起こるのかを検証していく必要があります。

 たとえば、『シン・日本的経営』でご登場いただいたアライアンス・フォーラム財団会長の原丈人さんは、業績の本質を考えれば、それは「社員の頑張りから生まれる」ということであり、だからこそ、株主よりまず社員を大事にし、社中の協力を取り付ける「公益資本主義」の考え方が必要だと説いていらっしゃいます。

 次の日本的経営とはどのようなものであるべきか

『シン・日本的経営』でお話を聞いた経営者の多くが口にしていたのが「不易流行」という言葉でした。たとえば株式会社竹中工務店取締役社長の佐々木正人さんは、昔から脈々と存在する「棟梁精神」を守りつつ、実際の建築には最新の技術を入れていくという話をされていましたが、これもまた不易流行。日本人らしさ、強みは何か=不易をしっかり置いて、そのうえで何を変えるべきか=流行を考えていく視座を提供していただいたと感じています。

顧客のニーズの変化や技術革新、グローバル化などによる自社の可能性についてはどんどん変革をしていけばよいと思います。ただし、それとともに日本人が大事にしているものや日本企業に合っている部分まで急に刷新しようとすれば、アレルギーを起こしてしまう可能性もあります。「土台」としての日本らしさを大事にしながら、「その上に乗るもの」を変化させるからこそ、踏ん張りがきく。これまでの問題は、そうした土台について、しっかり確立できていなかったところにあると思っています。

ただ「日本人らしさ」も変わってきている可能性はあり、「年功序列」「企業内労働組合」「終身雇用」による経営が今も正しいとは限りません。しかし、「シン・日本的経営」の定義は非常に難しい。たとえば、法政大学教授の米倉誠一郎先生は、「違いや個性に価値を生み出す経営」を挙げ、コーン・フェリー・ジャパン株式会社コンサルタントの綱島邦夫さんは「『人を喜ばせる』という企業の原点に立ち返ること」と言われました。こうしたさまざまな定義に触れて、ぜひ皆さんでも考えてみていただきたいと思っています。

~つづく(1/2)~

● 講師プロフィール

岡田健作(おかだ けんさく)氏
一般社団法人日本能率協会
経営・人材革新センター エキスパート

キャリア開発、コミュニケーション強化、事業戦略・マーケティング、組織変革、問題解決などの側面から企業経営や人材育成をサポート。東洋経済社刊「シン・日本的経営」では全体監修に携わる。

<資格>

  • NLPマスタープラクショナー
  • DiSCインストラクター
  • 経営学修士(MBA)

<主な担当>

  • リーダーのためのマネジメント基礎コース
  • 管理能力開発コース
  • 新入社員実務基本コース

<リンク>
Think!別冊『シン・日本的経営』
バブル崩壊後、自信を失った多くの日本企業は欧米流の「カタカナ」経営手法を導入してきたが、上手くハンドリングできているとは言い難い。「失われた30年」と言われるが、そもそも日本企業の取り組み全てが失敗だったのか。さまざまな人物の言葉から日本的経営について考えることで、日本企業の強みや特長を活かす「シン・日本的経営」を提案する。