今どき研修テーマ&メソッド図鑑
「失われた30年」後の日本企業のあるべき姿と人材育成とは?
MOOK『シン・日本的経営』でJMAが提言したいこと(2)
日本能率協会(以下JMA)が2024年2月に刊行したMOOK『シン・日本的経営』。本書で論じられた「次の日本的経営のあるべき姿」をご紹介した前回に続き、今回は、そうした経営を支える人材育成について、引き続き経営・人材革新センターカスタムソリューショグループ民間ソリューションチームエキスパートの岡田健作が語ります。
育成の観点からできること1→強い現場を支える課長を育てる
シン・日本的経営の取材を通じて気づいたことは、このシン・日本的経営を支えるのは「管理者」であるという点です。改めて考えると、日本の産業の強みは「高品質な製品やサービス」であり、それを生み出すのは「強い現場」です。筋の良い戦略は必要ですが、戦略を実現する現場が強くなければ戦略実現できません。そしてそのために必要なのが管理者、いわゆる課長の力です。ところが最近は組織のフラット化等の理由で、管理者が能力を発揮する機会が少なくなってきています。
現場で何をするか、しないかを決められる課長は、実は大きな権限を持っています。実際、イノベーションを起こしている会社で話を聞くと、課長に「自分の時間の10%をイノベーションに使ってよい」と明確に伝えていたりします。課長の役割は維持管理なのか、業績を拡大するためのイノベーションなのかは企業によっても異なりますが、課長の権限について改めて定義し直し、どういう教育や育成ができるかを考えることはとても重要なのです。
もちろん「課長が重要だ」と考えている企業は多く、現に階層別研修では課長研修が最も多く行われています。ですが、人事制度で課長の職務は定義されていても、その定義は昔から変わっていなかったり、営業部門、企画部門など多くの職種を統合した当たり障りのない内容になったりしているケースは多いもの。そうではなく、「今本当に成果を出す管理者の役割とは?」という点を再定義し、今の自社の経営にあった内容に考え直す必要があります。
また、昔と比べるとプレイングマネージャーが増えていますが、プレイングマネージャーの問題点は、放っておくとどんどんプレイヤーに寄ってしまうところ。それで会社の求める成果が出ているならよいのですが、それは少数派だと思います。教育は成果を出すためのもの。「求める成果とは何か」を決め、マネジメントがどうあるべきかを考えていくべきでしょう
育成の観点からできること2→経営者に必要な「軸」を育てる
『シン・日本的経営』で多くの経営者へのインタビューをして感じたのは、経営者は多くの社員やその家族の人生を左右する決断を下す責任のある存在であり、「過去の成功パターンが通用しない中での決断は本当に大変だ」ということでした。
決断は、意思決定とは違うと私は考えています。意思決定が「多くの情報がある中で、情報を得て決める」ことだとすれば、決断は、真剣に考え、リスクやリターンを織り込んでも、「結局はよくわからないなかで決める」ことです。よくわからない中で決めるには、自分の中の「軸」が重要。つまりこれからの経営者にとっては、その軸をいかに明確にするのか、感覚的に捉えられがちな軸をどう言語化するかが重要なのだと気付かされたとも言えます。
課長や事業部長は、自分の事業部の中で成果を出すことを求められます。しかし、経営者は全社を見て、将来の10年先15 年先の長期の未来を見据えていく必要があります。言い換えれば、課長や事業部長がやっているのは「意思決定」で、経営者がやっているのは「決断」なのです。
事業単位で経験を積んでも、決断のスキルを身につける機会はなかなかありません。つまり、課長や事業部長が「経営者の目線はこうだ」「企業全体の考え方はこういうものだ」ということを体験し、自分の考え方とこう違うんだということを認識する機会を作ることがとても重要です。そうした機会を意図的に作るという意味で、研修や育成には大きな意義があると言えるでしよう。
「あるべき姿の言語化」から実際の育成までサポート
JMAソリューションの強みは、各企業の事情に合わせてプログラムをカスタマイズできることにあります。たとえば先ほどお話した課長育成についても、「維持管理を大事にしていきたい」企業、「イノベーションができる課長を作っていきたい」企業といったように、企業によって求められるものが異なります。JMAソリューションでは、それぞれの状況を把握したうえでその企業課題にマッチしたプログラムを設定することができます。「DNAや答えの出し方は一社一社違う」という前提に立ち、それを明確にしてプログラムに落とし込んでいくのが私たちのやり方です。
何よりも大事にしているのは成果を出すことです。私自身も、成果を出すために行動を変える、その行動に結びつくような気づきやスキルをご提供できたときが一番嬉しいと感じます。スキルのインプットは講師がある程度コントロールできます。しかし、難しいのは「気づき」を生むこと。たとえば受講者同士で対話してもらい、何に気づいた、違いは何だった、共通点は何だったといったやりとりから丁寧に、行動につながる「気づき」を引き出していく……そうしたきめ細やかな対応ができるのも私たちの強みです。
ぜひお伝えしたいのは、多くのお客様企業と対話をさせていただきたいということ。どうか気軽に声をかけてください。これまで「あるべき姿を言語化するべき」などと言ってきましたが、言語化は難しいテーマです。私たちがその言語化自体をサポートします。
個人的にも、やはり会社が成長でき、社員の皆さん一人ひとりに喜んでいいただけるような人材育成ができるのが一番の幸せです。次の経営を考え、それを支える人材育成をともに考えていきましょう。
● 講師プロフィール
岡田健作(おかだ けんさく)氏
一般社団法人日本能率協会
経営・人材革新センター エキスパート
キャリア開発、コミュニケーション強化、事業戦略・マーケティング、組織変革、問題解決などの側面から企業経営や人材育成をサポート。東洋経済社刊「シン・日本的経営」では全体監修に携わる。
<資格>
- NLPマスタープラクショナー
- DiSCインストラクター
- 経営学修士(MBA)
<主な担当>
- リーダーのためのマネジメント基礎コース
- 管理能力開発コース
- 新入社員実務基本コース
<リンク>
Think!別冊『シン・日本的経営』
バブル崩壊後、自信を失った多くの日本企業は欧米流の「カタカナ」経営手法を導入してきたが、上手くハンドリングできているとは言い難い。「失われた30年」と言われるが、そもそも日本企業の取り組み全てが失敗だったのか。さまざまな人物の言葉から日本的経営について考えることで、日本企業の強みや特長を活かす「シン・日本的経営」を提案する。
MOOK『シン・日本的経営』でJMAが提言したいこと(1) 「失われた30年」後の日本企業のあるべき姿と人材育成とは?