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サクセッション・プランの策定に必要なこと

公開日:2022/10/03 更新日:2023/09/13

事業を継承する後継者を育成する「サクセッション・プラン」は、企業の長期的な存続のために欠かせないものとして多くの企業で注目されています。他の従業員の人材育成との違いや導入の仕方について解説します。

サクセッション・プランの意味と、注目されている理由

サクセッション・プラン(Succession plan)を和訳すると「継承・相続計画」で、「後継者育成計画」を意味します。将来、会社組織を牽引する幹部・経営者候補となる人材を育成し、必要な資質を備えさせるとともに、適切な人材を選出する計画のことです。

 昨今、中小企業では人材不足等による後継者不足の課題に悩まされているケースがあり、後継者を育成するサクセッション・プランが注目されています。一方、上場企業においては、サクセッション・プランの必要性について、日本取引所グループによる「コーポレートガバナンス・コード」(企業の経営の透明性を明確にするため、利害関係者が守るべき行動規範を示したガイドライン)では以下のように言及されています。

「取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。」(補充原則4-1③)

コーポレートガバナンス・コード
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf

このことからも、サクセッション・プランは中小企業における後継者不在の課題を解決するだけでなく、大企業にとっても、経営の透明性を明確にするために取り組むべき重要な課題の一つと言えるでしょう。

従業員育成との違い

サクセッション・プランとその他の従業員育成の違いとして、「主体者」と「目的」が挙げられます。階層別、職種別などの人材育成は、人事部門や管理・企画部門が主体となって従業員に研修やフォローアップを実施するのが一般的です。
組織のビジョンや目的に基づき、求める人材像を示し、従業員自身の望むキャリア開発と重ね合わせながら、成長支援することを目的とします。一方、サクセッション・プランは、経営層が自ら主体となり、幹部や後継者候補を対象に長期的かつ計画的で、経営者視点に立った育成を行います。

サクセッション・プランの取り組み状況・課題

サクセッション・プランは企業にとって重要な課題ではあるものの、現状取り組んでいる企業はあまり多くありません。

 経済産業省が行った「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査(2020年度)」によると、次期社長・CEOの選定に向けて、後継者計画のロードマップの立案を実施していないと回答した企業が54%あり、特に何もしていないと回答した企業が48%ありました。この調査から、後継者計画に関する取組や議論・共有を行っていない企業が依然多数派であることも浮き彫りとなりました。

「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査(2020年度)」(p22)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/R2_itakuhoukokusyo.pdf 

日本企業でサクセッション・プランの取り組みが進みづらい理由として、次のような実態があるようです。

  • 社員をゼネラリストとして育成することが多い日本企業は、経営者を高度専門職として育成する文化が乏しい。
  • 現社長・CEOの主観的な判断を中心に、人選・育成計画が行われてきている。

サクセッション・プランにおける育成の全体像

サクセッション・プランは、経営層としてふさわしい人材を育成することが目的です。経営方針・経営戦略を踏まえ、「より長期的視野に立った育成」を行います。また、ある一部門の中で専門性を高めるのではなく、全社横断的に経営層としての期待レベルに達するよう全分野においての育成が必要とされます。 

具体例として、次のような施策が考えられます。

  • 全社的視点・グループ全体最適の視点でのマネジメント能力を備えさせるために、事業部門を超えた戦略的なローテーションを行う。
  • 簡単には達成できないようなハードルの高い仕事や課題などタフ・アサインメントを与え、急激な成長を遂げられるように修羅場を乗り越える経験をさせる。赤字事業部門のトップ等のポジションを想定しておくこともある。
  • 資質・能力(ポテンシャル)を引き上げるべく、社外取締役との11での面談や外部専門家によるコーチングなどにより、個々人の成長課題に気づく機会を与える。

人事はサクセッション・プランにどう関わるか

サクセッション・プランは経営層が主体となって施策を行うものです。
しかしながら、「候補者の選出」や「育成計画の企画・立案・運用」を具体化・推進するには、人事担当役員や人事部門の積極的な関与が欠かせません。

どのようなステップで行うか

経済産業省が発表している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下CGSガイドライン)」では、サクセッション・プランを進める際の7つのステップが示されています。ここではその7つのステップを解説します。

CGSガイドライン
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/cgs/180928cgsguideline.pdf

CGSガイドラインによる7つのステップ

1. 後継者計画のロードマップの立案
社長・CEOの就任から想定される交代時期に向けて「いつ頃、誰が、何を、行うのか」のスケジューリングを行います。立案にあたっては「現在の社長・CEO選任プロセス」「育成プロセス」をあらためて確認し、課題を洗い出す必要があります。社長・CEOが原案を作り、指名委員会等で議論し、後継者計画のロードマップを作成します。

2. 「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定
「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定は、社長・CEOを選任するまでの根幹にあたる部分です。「あるべき社長・CEO像」は社長・CEOに必要な資質・能力などで構成されますが、企業の経営理念や長期的な経営戦略に融合している必要があります。

3. 後継者候補の選出
2で策定した「あるべき社長・CEO像」に合う候補者を選出します。企業規模や取り組む期間によって人数は異なり、選出人数は数名〜数十名程度です。交代まで時間に余裕がある場合、数十人程度リストアップしておき、選抜していくこともあります。

候補となる人材は社内にいない場合は、企業価値の向上のために、プロの経営者を外部から採用することも検討する必要があります。 

4. 育成計画の策定・実施
後継者候補の保有している資質・スキルを「あるべき社長・CEO像」に必要とされる資質・スキルと比較し、足りていない部分を補うために最適な育成計画を策定します。後継者候補が目標レベルに達するために育成計画を実施していきます。取り組む期間によって異なりますが、各部門を経験させるジョブローテーションでは、社員として業務を経験させ、スキルがついたら経営に参加させることで、業務スキル・経営スキルを共に高められます。

 そのほか、企業トップとして備えておくべきガバナンスやリスク管理などの知識をつけるために、社内研修や外部研修を活用する場合もあります。 

5. 後継者候補の評価、絞込み・入替え
選出された候補者については「あるべき社長・CEO像」に照らして評価を行っていきます。育成計画の実施状況や効果を、面談や360度評価などでモニタリングしながら、候補者からの絞込みや候補者の入れ替えを行って最終的な候補者を選抜します。

6. 最終候補者に対する評価と後継者の指名
最終候補者を対象に「あるべき社長・CEO像」に照らして評価を行います。この評価結果を元に指名委員会で議論し、取締役会で最終的な候補者を確定、指名します。 

7. 指名後のサポート
指名された候補者に対し、現社長・CEOから業務や取引関係の引き継ぎを行います。適切な後継者指名が行われたことについて適時開示するなど、株主などのステークホルダーへ説明を行います。

サクセッション・プランは、後継者の育成だけでなく、長期的な企業存続と組織活性化にも不可欠です。人事部門は、経営者・役員陣の後継者育成の思いを具体化する立場にあり、経営理念や長期的な事業計画に照らし合わせた視点が今後ますます求められるといえるでしょう。

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