5分でわかるビジネストレンドワード
社内でのエンパワーメントをどう進めるか?
何事も予測困難な現代において、変化する環境に適応しながら組織を運営していくため、個人の力をより一層引き出す「エンパワーメント」の考え方が注目されています。エンパワーメントとはどういうことか、またその進め方や導入の際の注意点を紹介します。
エンパワーメントの本来の意味
エンパワーメントという単語には本来、「力を与えること」という意味があります。現在では主に「人間性の尊重」や「人の持っている力を引き出し、潜在能力を最大限発揮させる」などのニュアンスで使われています。
とはいえ、エンパワーメントという語は使われるシーンによって解釈が異なります。人事領域で使われるエンパワーメントについて理解するためにも、ビジネス以外の場面で用いられてきた意味を紹介しておきましょう。
市民運動、女性運動、国際開発などの場面で
市民運動、女性運動、国際開発の場面では、「当事者自身の意識化」「能力の獲得」「生活の変革」といった概念が加わり、「人が潜在的な能力を発揮できる、公平な社会の実現を目指す」という意味で用いられてきました。
教育の場面で
教育を受ける人の本来持っている潜在的な力や価値を引き出し、自分自身で人生を切り開くために必要なスキルや自信を身につけさせるという意味で使われます。エンパワーメントを意識した教育では、子どもたちに何かを教えるのではなく、彼らの本来持つ能力を引き出すというアプローチが取られます。
看護、介護、福祉の場面で
看護、介護、福祉の場面では「患者や障がい者が主体性を持ってプロセスに関わる」という意味で用いられ、患者や障がい者の自立がゴールとされます。患者や障がい者が自己選択、自己決定する力をつけて、本来持つ能力や権限を発揮することの重要性が議論されています。
人事領域で使われる場合の意味
人事領域では、「権限委譲」「自律性の促進」「能力の開花」という意味合いで用いられることが多いようです。従業員に対してその潜在的な能力を尊重し、判断や決定の権限を与えることによって、個人の自律性の促進や能力開花につながるとされ、そのことで企業活動が発展することを目的に導入されています。
なぜ必要か?なぜ注目されているか?
会社組織でエンパワーメントに取り組むことで、以下のようなメリットが考えられます。
個人の能力が発揮されやすくなる
従業員がエンパワーメントされ自発的に考えて仕事に取り組むことによって、潜在能力を発揮しやすくなります。従業員のやりがいや働きがいも高まります。
意思決定が早くなる
VUCA環境の中では、ビジネスにもよりスピーディな意思決定が必要とされます。現場に一部権限委譲を行うことで意思決定が早くなります。
組織の自律性が高まる
従業員が権限を与えられることによって、当事者意識を持って仕事に取り組めるようになるなど、組織の自律性が高まります。
エンパワーメントを実現するためのステップ
企業や人事領域においてエンパワーメントを実現するために意識しておくべきステップを紹介します。
ビジョンを明確にする
エンパワーメントの効果を発揮するためには、企業や組織の目指す方向性、ビジョンを明確にすることが必要です。目指すべき方向性が明らかになることで従業員の理解が深まり、エンパワーメントが実現しやすくなります。
情報を公開する
企業の方針や経営戦略など経営に関する情報を公開します。企業が従業員を信頼していると意思表示し、従業員に企業の方針に沿った行動をとってもらうためにも有効です。
段階的に権限を委譲する
権限委譲は一気に行うのではなく、段階に応じて行うことで、突然の混乱やトラブルを回避できます。「権限の範囲」「報連相の基準」「上司は普段どのように意思決定しているか」など伝えたうえで権限委譲に移るとよいでしょう。
自由を認める
従業員の目標達成に向けて「手段」と「発言」の自由を認めることが必要です。発言しやすい環境やフラットな組織文化を構築することで、新しい発想が生まれやすくなります。
失敗を許容することを伝える
エンパワーメントされた従業員は自己の判断で行動するため、ある程度の失敗はつきものです。そこで、失敗を許容することをあらかじめ伝え、上司が部下の失敗をフォローできるような体制を作っておくことで、従業員が挑戦しやすくなり、エンパワーメントのメリットが生かしやすくなります。
支援する
上司や管理者は権限を従業員に丸投げするのではなく、定期的に業務の状態を把握することで、失敗、トラブルが起きた時にもフォローしやすくなります。上司は、トラブルに対して部下に指示を与えるのではなく「どう処理するか」を一緒に振り返り支援すると、部下のり問題解決力も高まります。
進める際に気をつけるべきポイント
エンパワーメントをうまく進めるためには以下のような点に留意するとよいでしょう。
介入しすぎない
権限委譲と言いながらも、上司は部下の仕事の進め方や考え方が気になってしまうことがあります。部下の仕事に上司が介入しすぎてしまうと部下のやる気がなくなり、エンパワーメントが機能しなくなってしまいます。
育成する視点を持つ
上司が自分で仕事を進めてしまう方が効率がよいため、部下には簡単な仕事しか渡さないケースがありますが、これでは権限委譲が行われたとはいえません。部下の成長に向け、多少非効率でも育成の視点で考えましょう。
いきなり大きな権限委譲をしない
部下に大きな課題を与えたり、幅広く権限を与えたりすることによって、部下が致命的な失敗をしてしまうケースがあります。いきなり大きな権限委譲をすることは避け、「越えられそうな課題」「限定的な権限委譲」などステップを踏みましょう。
VUCA時代、個人の主体性を高め組織力を強化することは、企業にとって必要不可欠なことです。エンパワーメントを進めるステップ、注意点を意識しながら導入を検討してはいかがでしょうか。
●関連情報