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不確実な時代を生き抜く「OODAループ」の考え方
社会環境が複雑化し、想定外のことが起こることから「VUCA」と呼ばれる現代において、「OODAループ」という思考法が注目されています。数段階のプロセスを繰り返すところからPDCAと比較されることもありますが、どちらが優れているということではなく、目的の異なる思考法といえるでしょう。ここでは、「OODAループ」の考え方と、そのメリットについて紹介します。
「OODAループ」とはなにか
OODA(ウーダ)ループとは、Observe(観察)、Orient(状況判断、方向づけ)、Decide(意思決定)、Action(行動)の頭文字からできた言葉です。もともとは、航空戦に挑むパイロットの意思決定のためのプロセスとして発明されたもの。航空戦では上司の命令を待たずして、自らの意思で判断・行動する必要があるところから生まれた概念で、そのときの行動の流れを形にすることで「OODAループ」という思考法が生まれました。
ビジネスシーンにおいてのOODAループは、想定外のことが起こるVUCA時代の中で、柔軟かつ迅速な意思決定をするための思考法として注目されています。また昨今では人間の知的作業を自動化するAIの登場やSNSの発達により、リアルタイムで情報を収集できる時代になりましたが、その情報を人間の想像力と思考力で補い、瞬時に行動していくためにも役立つとされています。
PDCAとの違い・使い分け
OODAループは、フレームワークの思考法としてPDCAと比較されることが多いようですが、両者は異なる思考法であり、活用するのに適した局面が異なります。それぞれどのようなビジネスシーンで使われるか、違いを見てみましょう。
PDCAは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字からできた言葉です。計画を立てる→実行する→計画を達成できたかチェック→評価を見て、次の計画へつなげていくというように、改善しながらサイクルを回し、続けていきます。
PDCAが生きる局面は、すでに世の中にあるサービスや計画が起点となっている場合です。典型的なのが工場での作業を改善したいような場面で、製造業の生産管理や品質管理などの管理業務を考える思考法として普及しています。
PDCAの要は「計画」です。そのため、流動性が高く、計画通りに進まないビジネスには適していません。また、イノベーションが起きることも想定されていません。
一方OODAループは、VUCA時代に新しい商品やサービスを開発するのに適しています。綿密に計画を立てたとしても、先の読めない状況の中では計画通り進めることが難しく、また計画自体がすぐに陳腐化してしまいます。こうした状況に臨機応変に対応するために、スピード感を重視するOODAループが向いているのです。
OODAループを取り入れることによるメリット
OODAループを実践することで、次のようなことが期待できるでしょう。
1 状況の変化に柔軟に対応できる
パイロットがその場で判断するのと同様、現場に判断を任せるのがOODAループ。環境の変化に対し、組織全体が体制を整える前であっても臨機応変に対応できます。
2 意思決定が早くなる
現場で判断して行動を決めるので、実行までの時間が短くて済みます。
3 生産性が向上する
指示を待つ時間が不要になり、個人が自ら考え動くようになるため、生産性が上がります。
4 DXの推進にも適している
PDCA型の思考は、DXには向きません。なぜなら、DXは事業の変革であり、デジタルを活用した新しい事業の開発でもあるからです。技術も価値観も刻々と変わる中では、一つのことを深めるPDCA型の思考より、臨機応変に答えを出すOODAループが向いているのは明らかでしょう。
OODAループの手順
では、OODAループで考える手順を見ていきましょう。
Observe(観察)
OODAループは、市場や顧客、競合などの状況を観察することから始まります。客観的に事実から「生のデータ」を収集します。
Orient(状況判断、方向づけ)
Observe(観察)で入手したデータを分析し、瞬時に状況を判断し、今度の戦略の方向性を定めます。
Decide(意思決定)
Orient(状況判断、方向づけ)で決めた方向性を行動レベルまでに落とし込むための意思決定を行います。複数の選択肢から最も効果的だと思われるものに決定します。
Action(行動)
Decide(意思決定)で決めたことを行動に起こしていきます。
ここからはPDCAサイクルと同様に、Observe→Orient→Decide→ActionのOODAループを何度も繰り返し、精度を高めていきます。
OODAループを実践する際の課題
OODAループを実践するにあたっては、以下のようなことがらが課題になっているケースが多いようです。
1 メンバー個々の自律性
OODAループを導入しても簡単に機能するものではありません。柔軟で臨機応変な対応が求められるため、メンバー個々の自律性が必要です。個々に求められる裁量が大きい分、メンバーがその裁量を行使できるだけの判断力を持っていないと難しいでしょう。
2 組織規模
とくに大企業にとってはOODAループの導入自体が課題となっていることがあります。各人が自律性を発揮するということは、統制が難しいということでもあり、組織規模が大きければ大きいほどその点がデメリットになりうるというわけです。
そのようなデメリットに目を向け始めると「OODAループを導入したらむしろ意思決定が遅くなるのでは」というマイナス面への意識が先行してしまい、「うちでOODAループを実践できると思えない」という考え方が組織全体に浸透してしまうのかもしれません。OODAを取り入れて意思決定のスピードを上げるべきという危機感はありつつも、「できない」と結論づけられるという結果になってしまうのです。
では、これらの課題をクリアしてOODAを導入するためにはどのようにしたらいいのでしょうか。
まず、メンバー個々の自律性については、現場をまとめるリーダーがサーバント・リーダー(相手に奉仕し、その後に相手を導くタイプのリーダー。支援型リーダー)を目指すのも一つの方法です。リーダーがメンバーを信頼し、権限委譲を行っていくことで、個々の自律性が育ち、自律型組織へと変化していくことにもつながり得るでしょう。
組織規模については、たとえばオフィシャルでないPJTチームなどの小さな組織を作り、まずはその中だけでOODAループにトライしてみるのもよいでしょう。小さな成功体験を作っていくことから始めてみようというわけです。
OODAループの実践を助ける組織、人材とは
ここまでのことから、OODAループの実践を助ける人材や組織のポイントを整理しておきましょう。
①社員一人ひとりの自律性
②過去の成功体験にとらわれない変革マインド(デメリットを恐れない)
③権限委譲(任せる)
④サーヴァント型のリーダー
また、現場レベルで判断を進めるには、各人の発想の質を高める必要があります。そのためには経験の積み重ねも必要ですが、これをバックアップするために、社内で経験や情報を共有できているのが理想です。それが可能なフラットな組織であることも重要といえるでしょう。
まとめ
OODAループを実行するのには難しさもありますが、今後ますます不確実性が増し、変化していく世界を生き抜くためには、これまでの思考法を見直してみることも大切です。
今後のビジネスにおいてAIやSNSの果たす役割はますます大きくなっていくと言われています。そしてそれらは、人間の判断力が加わることでより大きな活用効果を発揮します。日本企業がグローバルな市場で競争優位性を構築するためには、データをもとにした迅速な判断と行動で軌道修正をし続け、事業のスピードと成功確率を高めていくことが重要であり、OODAループはそのための有効な手段といえそうです。
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