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リモート環境で低下の危機?社員の「エンゲージメント」をどう高めるか

公開日:2021/08/03 更新日:2023/09/13

在宅勤務によるリモートワークが進むなか、部下の気持ちがつかみにくくなり、チームのエンゲージメント低下に悩むマネージャーが増えています。そこで部下やチーム全体のエンゲージメントを高める施策をご紹介します。

エンゲージメント

エンゲージメントが低下している背景は?

新型コロナウィルス感染拡大の影響によって在宅勤務によるリモートワークが普及した結果、チームや従業員同士のエンゲージメントが保ちにくくなる傾向にあります。考えられる要因は、職場という共有空間がなくなったことや、対面でのコミュニケーションをとる機会が失われてしまったことです。例えば朝や夕方に行うチームのオンラインミーティングにチャットを使うことも増えましたが、チャットのみでは部下は業務の悩みをいいにくく、マネージャーも部下の本心を汲むことが難しくなりがちです。もともと部下に深くコミットすることが苦手だったマネージャーが、リモートワークになってさらにその傾向に拍車をかける例もあります。こうしたマイナス要因が積み重なって、チーム全体のエンゲージメントが低下の危機に直面すると考えられます。

エンゲージメントとは何か?

エンゲージメント(Engagement)とは日本語で「契約・約束」等を意味します。これを人事領域に当てはめると「帰属意識」「会社への愛着」「会社・同僚との絆」等と意訳され、「会社と従業員が信頼し合い、お互い成長や貢献し合えて一体感がある」、また「仕事・会社に対して熱意を持って取り組んでいる」状態を指します。従業員が会社、仕事、同僚に信頼、貢献、信頼、愛着、熱意、帰属意識(居場所がある)等のポジティブな感情を抱いている状態です。
エンゲージメントが人事領域で注目されだした背景には「人材の流動化」と「価値観の多様化」の2つのキーワードがあると考えられます。

    人材の流動化

    終身雇用や年功序列の人事制度が崩壊し、成果主義の人事制度へと移行したことにより、優秀な人材ほど最適な職場を求めて転職する傾向が強まっています。

    価値観の多様化

    従業員が給料だけでなく、その会社に帰属することで得られる「やりがい」に重きをおくようになり、とくにミレニアル世代では、やりがいが感じられなければ退職もいとわない傾向が強まっています。社内の風通しのよさを重視した“組織のフラット化”により、価値観の多様化を受容するムードも高まりました。さらに、新型コロナウィルス感染拡大とともに副業を解禁する企業も増え、働き方も多様化してきています。その結果、従業員は会社への愛着や貢献、また従業員同士の良好な関係を作りにくい状態になりました。

    こうした問題を受けて、多様な価値観を持つ従業員を一つに束ね、退職を防ぐ効果が期待されるエンゲージメントが注目されているのです。

    「従業員満足度」「ロイヤルティ」という捉え方との違い

    エンゲージメントと混同されやすい言葉に、「従業員満足度」や「ロイヤルティ」があります。

    従業員満足度は、「ES(Employee Satisfaction)と略されることもあり、雇用主の会社は「理念」「コンプライアンス」「待遇」「正当な評価」「福利厚生」などを保証し、従業員はそれに対してどれだけ満足しているかを表します。いってみれば会社と従業員はギブ・アンド・テイクの関係で成り立ち、会社の取り組みに応じて満足度が変わります。

    ロイヤルティ(Loyalty)は「忠誠・忠義」という意味であり、従業員が会社に対してどれだけ忠誠心を持っているかを表します。会社と従業員の間にあるのは明確な上下関係であり、そのため、ロイヤルティが高くてもエンゲージメントの低いチームや従業員が存在し、従業員個人の主体性や創造性が育たず、指示待ち人材になってしまう可能性があります。

    対するエンゲージメントは、「会社と従業員」と「従業員同士」の双方に信頼関係や愛着、貢献、熱意等がどれだけあるかを表します。エンゲージメントの高い組織は「会社と従業員が信頼し合い、相互に貢献し合える一体感のある状態」になりやすくなります。
    ただし、「エンゲージメント」と同じ意味であえて「従業員満足度」と表現する企業や研修団体もあり、必ずしも明確に区別されていない場合もあります。

    エンゲージメントが高いことのメリットは?

    エンゲージメントが高い場合に考えられるメリットをいくつかご紹介しましょう。

    組織の活性化

    エンゲージメントの高い組織は、従業員一人ひとりが仕事への主体性や創造性があり、職場の問題を自ら解決したり積極的に意見を出したりするので、組織全体に活気があります。組織が活性化すると、従業員同士の関係は良好になりやすく、愛着心や帰属意識も生まれやすくなります。

    モチベーションの向上

    エンゲージメントの高い従業員は、自発的・積極的に行動するので、仕事の質が上がりモチベーションが高い状態になります。また、労働条件だけのつながりを重視せず、いまの職場で働いていることの価値を見いだしているので、会社への貢献が期待でき、ひいては退職を防ぐ効果も期待できます。

    生産性・業績の向上

    組織が活性化して、従業員一人ひとりのモチベーションが高くなると、会社の生産性・業績によい影響を与えると考えられています。

    ウェルビーイングの推進

    健康経営の専門家によると、エンゲージメントの高い従業員は、ウェルビーイングも連動して高いことが指摘されています。ウェルビーイングとは、昨今注目される健康経営の概念の一つであり、「従業員の心身が健康で、会社やチームとの関係も良好で、プライベートでは家族や仕事以外でも満たされて人生をポジティブに捉えられている状態である。それによって仕事への達成感や実績を作ることができ、会社の活力につながる」というものです。ウェルビーイングの推進は従業員のパフォーマンス向上につながることが組織行動論の研究によって明らかになっています。

    これからの健康経営に欠かせない「ウェルビーイング」とは?
    https://solution.jma.or.jp/column/c210622/

    エンゲージメントの度合いをどう測定するか

    従業員のエンゲージメントの度合いを測定する方法としては、アメリカの心理学者フランク・L・シュミット博士と調査会社ギャラップ社が開発した「Q12(キュートゥエルブ)」が有名です。従業員は12の質問に対して5段階で評価し、その合計点をもとにエンゲージメントの「高い」「低い」を測ります。

    一般的にエンゲージメントを高める要素は、同じ会社でもチームが異なれば違うと思いがちです。しかしギャラップ社は「違い」ではなく「共通する要素」に注視し、世界中の100,000以上のチームと270万人以上の労働者を対象に調査・統合分析した結果、従業員のエンゲージメントには共通する12の要素が影響を与えていることを特定しました。それが「Q12」の質問内容になっています。

    Q1. 職場で自分が何を期待されているのかがわかっている
    Q2. 仕事を遂行するために必要な材料や道具を与えられている
    Q3. 職場では、最も得意なことをする機会を毎日与えられている
    Q4. この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
    Q5. 上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれているようだ
    Q6. 職場の誰かが自分の成長を促してくれる
    Q7. 職場で自分の意見が尊重されているようだ
    Q8. 会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
    Q9. 職場の仲間や同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
    Q10. 職場に親友がいる
    Q11. この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
    Q12. この1年のうちに、職場で学んだり、成長したりする機会があった

    「Q12」の特徴は、マネージャーが取るべき行動を従業員に問うていることです。なかでも部下がQ1~6に5点をつけるのはとても難しいとされています。このことは、従業員のエンゲージメントはマネージャーの役割が大きく関わっていることを示唆しています。マネージャーや人事の立場の担当者は、「Q12」の質問内容を一読することで、エンゲージメント向上へのヒントが見つかるかもしれません。

    引用:ギャラップ社「Q12」
    https://www.gallup.com/access/323333/q12-employee-engagement-survey.aspx

    エンゲージメントを高めるために必要なのは?

    エンゲージメント向上の鍵を握るのは、マネージャー・人事・経営トップが部下に深くコミットすることです。優先的に行うとよいことをご紹介します。

    会社のビジョンを共有する

    マネージャーや経営トップは、従業員が会社のビジョンを共有できているかを把握することが大事です。それがなければ、従業員は何のために仕事をするのか不明瞭になったり、目的意識が薄れてエンゲージメント向上にはつながりません。例えば、社内報や社内イントラネットなどのツールを使って、経営トップの考えや会社が進もうとしている方向、他部署の現場プロジェクトのリポート等、定期的に情報発信を行って従業員に理解や共感を抱いてもらいましょう。その時、従業員自身も会社のビジョンに参加しているという実感を与える伝え方が大切です。

    やりがいを感じる場を作る

    「やりがいを感じる場を作る」ことは、エンゲージメント向上に最も効果的だといわれています。会社は従業員一人ひとりの特性や本人の意向を把握し、今のチームでやりたいことができるかどうかを明確にする確度の高い「タレントマネジメント」が必要です。また挑戦する機会を与える社内フリーエージェント制、適切に評価する人事制度の導入の施策も有効でしょう。

    戦略的に優秀な人材を獲得・育成・定着する「タレントマネジメント」のメリット
    https://solution.jma.or.jp/column/c210107-3/

    ウェルビーイング推進施策を行う

    「会社と従業員が信頼し合い、相互に貢献し合える一体感のある状態」であるエンゲージメントが、ウェルビーイングの状態に連動していることは先述したとおりです。そこで、従業員の心身の健康をフォローするプログラム実施や、家族や趣味を大事にできるワーク・ライフ・バランスの労働環境整備を行う「ウェルビーイング達成の施策」は、エンゲージメント向上に効果があるでしょう。一辺倒に「愛着心、貢献、一体感」等を求めるのではなく、従業員の人生も配慮するウェルビーイングの概念からアプローチする工夫も必要です。

    これからの健康経営に欠かせない「ウェルビーイング」とは?
    https://solution.jma.or.jp/column/c210622/

    学び・成長を支援する

    マネージャー・部下という立場に関係なく、仕事にかかわる全従業員の「成長」を促す「学び」の支援は、エンゲージメント向上によい影響があります。人間は新しいことを学び、成長を感じている時はモチベーションが高まり、一生懸命になって効率的に働くからです。従業員の成長は会社の成長をも意味し、それらが積み重なり合って業績向上が期待できるのです。

    例えばマネージャーには、エンゲージメント向上の研修や勉強会の支援があります。また、ある企業では全従業員にオンライン学位取得の学費を全額負担し、しかも「多様な価値観」に対応するため、従業員自らがコース内容を選択できるようにしました。その結果、従業員満足度やエンゲージメント向上に効果を出しているといいます。

    エンゲージメント向上のための研修
    https://solution.jma.or.jp/service/training/theme/teambuilding/teambuilding02/

    オンラインミーティングで雑談時間を設ける

    リモートワークが主流になった今、孤独感を覚え、悩みを相談する機会をもてずに居場所を失う従業員も増えています。こうした問題を解決することがエンゲージメントの向上には必要で、チーム同士の雑談時間を作ってコミュニケーションを図ることも大きな鍵になります。マネージャーは、オンラインミーティングであってもチーム同士で顔を合わせて雑談する時間を設けたり、部下と個別にミーティングをする機会を作るとよいでしょう。
    また、部下とのミーティングは月1回でも毎日でもなく、週1回行うのが有効であるという報告もあります。部下の仕事を褒め、学びや成長の機会を与えているかを聞き、時には必要な指導をしましょう。また、家族や生きがいを大事にできているかを気にかけることもマネージャーの役割と捉え、部下に深くコミットしてください。

    エンゲージメントサーベイを行う

    エンゲージメントサーベイとは組織のエンゲージメントを測定するツールのことで、先述したギャラップ社以外にも、多くのコンサルティング会社が行っています。サーベイでは現状把握のため、従業員に複数の質問をアンケート形式で調査し、その結果を統合分析して自社の課題を可視化します。そしてPDCA(Plan計画、Do実行、Check評価、Action改善)を回し、エンゲージメント向上へと導きます。

    まとめ

    人材の流動化や多様な価値観、働き方に加えて、リモートワークが主流になり、多くの企業マネージャーは、部下やチームのエンゲージメント向上という難しい舵取りを迫られます。しかしそれは部下と同じく「学び・成長」の機会でもあります。自らのエンゲージメントを高める好機と捉え、キャリア形成のために挑戦をしてみてください。

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