【2023年版】ダイバーシティ&インクルージョンから発展した「DEI」とは?
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に加えて、最近は「DEI」という言葉が浸透しつつあります。「DEI」とは何を指す語なのか、また実現するための具体的な方法、その中で起こる課題に向けた施策などを解説します。
DEIとは?それぞれの単語の意味
DEIとはダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの略で、DEIまたはDE&Iと表現されています。以前はD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)と呼ばれていたものがDEIと言い換えられる場面も増え、担当部署の名称として「DEI」を使用する企業や団体も増えてきました。
D、E、Iのそれぞれの意味は次のようになります。
D→ダイバーシティ(Diversity)。年齢、性別、民族、国籍等の違いといった多様性を尊重することです。
I→インクルージョン(Inclusion)。「受容」という意味です。企業におけるインクルージョンは、社員がお互いを認めながら一体化していく組織のあり方として、個人や集団が歓迎され参加できるような組織を作ることを意味しています。
E→エクイティ(Equity)。日本語では「公平性」「公正性」となります。一人ひとりが最高のパフォーマンスを出せるように、情報、機会、リソースなど支援内容を調整し、公平な土台をつくり上げることを目指しています。
ここで注意したいのが「E」が「平等」という意味の「Equality」ではなく「Equity」である点です。「平等」は「すべての人に等しい対応をすること」であるのに対し、「公平」「公正」は「不利な状況を改善するために、一人ひとりの状況に合わせて追加で情報やリソースを用意すること」を意味しています。DEIを掲げている企業は「D&I」に「公平性」を加えることで、不利な状況にある人に対しても、活躍できるリソースや機会を提供する環境を積極的に整備していこうとしている企業とも言えるでしょう。
なぜ「E」が加わったか
D&IからDEIに呼び方が変わってきた背景にあるのは、マイノリティが被っている社会構造的不平等の問題です。社会構造的不平等とは、不平等な状態が教育や経済など社会全体としての不平等に起因しているという考え方です。そしてこうした不平等は今後も拡大すると言われています。
社会構造的不平等の問題は、「すべての人に平等な機会を提供」するだけでは解決できないことが認識されつつあります。社会構造的不平等を解消するために、まずはスタート地点に不平等があることを認識し、それぞれの状況に合わせて成功する機会を与える必要があります。こうした認識から、「エクイティ」の概念が加わったのです。
日本でもマイノリティ(少数派)は生きづらい傾向があります。その理由として、たとえば外国人や障がい者に対する偏見は、世の中の偏った知識や情報の不足によってもたらされるとも考えられます。また、昨今では所得格差の拡大やワーキングプアの出現などを背景に、世代を超えて格差が継承されてしまう構造などの問題も指摘され始めています。こうしたことを背景に、エクイティの概念がより一層重視されるようになりました。
公正性をどう実現するか
公正性を実現するポイントについて2つの具体例を挙げて解説します。
(1)女性社員へのエクイティ
これまで上司の推薦のもと、男性社員中心に管理職試験の機会が与えられていたある企業で、女性社員の管理職登用を増やそうと、試験の機会を平等に与える自己応募方式を採用しました。
ところが、女性社員が試験を受けても合格者が出ないという結果となりました。
結果だけを見れば、女性応募者に能力が足りなかったようにも見えます。しかし背景には、「不合格者が能力を伸ばす機会を与えられずにきた」という事情がありました。
一般的に管理職候補者に対しては、業務の中でプロジェクトを任せたり、研修を受けさせるなど、能力を伸ばす機会が与えられます。しかしこのケースでは、対象となった女性本人や周囲が管理職になることを意識していなかったため、必要な能力開発を業務の中で身につける機会が不十分だったのです。
こうしたケースで考えられるのが、エクイティの概念を取り入れた次のような方法です。
- 能力が不足していてもひとまず昇格させ、業務内でチャレンジの中で経験を積ませながら能力開発を行う
- 管理職に必要な能力を身につけるために、女性社員を対象に研修を実施する
(2)障がいのある社員へのエクイティ
障がいのある社員が働きやすいように、バリアフリーのトイレを作ったり、仕事のサポートをするなどの取り組みをしている企業もあるでしょう。
しかし、職場における障がいのある人に対して真の意味で公平な機会が提供できているかどうかについては以下のような疑問が出てきます。
- 現在のポジションだけでなく、異動や昇進についても公平な機会を提供しているか?
- 業務外の部分でも、障がいの有無に関わらず利用しやすい配慮があるか?
こうしたケースで考えられるのが、エクイティの概念を取り入れた次のような方法です。
- 広い領域で戦力化できるように技術のトレーニングを行う
- 障がいの有無に関わらず、誰もが一緒にできるスポーツを部活動に取り入れる
DEI推進に向けた課題
一方で、「エクイティ(公平性)」という観点を取り入れた施策には違和感を覚える人も出てきす。「女性だからといって試験の合格水準が下がるのはおかしい」「女性だけ研修を用意されるのはおかしい」「障がいのある人に対して特別な配慮が多すぎる」など、不平等だと指摘する声があがることが予想されます。このように「公平性」と「平等」は必ずしも一致しないため、社内全体が理解を深められるような調整が必要です。
また、ダイバーシティ問題に取り組まなければならないという意識が世の中に浸透してきたからこその問題も出てきています。その一つが「トークニズム」です。トークニズムとは「トークン(象徴、代表)」から来た言葉で、問題解決に向けて何らかのアクションはしているものの、実質的にはポーズのみで問題解決を回避しようとしている状態のことを言います。たとえば、とりあえず女性を管理職に据えたが何の支援もない、法定雇用率を満たすために障がい者を採用したが昇進はさせない、などのケースがこれにあたります。本当の意味でのDEIが進まないだけでなく、形ばかりの役割を与えられた人が孤立してしまうなどの弊害すらあり得ます。
企業が「DEI」を導入する際には、経営、人事側からの発信を通して組織への浸透を進めることが重要です。たとえば以下のようなテーマで対話を重ねながら、企業として目指している組織のあり方やビジョンと共に「DEI」について社員に発信し続けることが大事です。
- 「なぜダイバーシティを高めたいのか?」
- 「DEIを導入する場合、何を公平性と考えるのか?」
- 「会社や社員が手に入れたい成功とは何か?」
- 「真の公平性とは何か?」
ステレオタイプではなく、「一人ひとりの個性に着目した施策」を
今後も日本企業において、女性や外国人など多様な人材の活躍の場が増えることが予想されています。しかしながら、女性を例に挙げると「女性は前に出るべきではない」「女性は家庭を支えるべき」といった、無意識のうちに残る古い女性社員像もあるかもしれません。こうした前提のままでは、女性の活躍を前提とした「DEI」の定着につながりません。
必要なのは「女性だから」「外国人だから」とひとまとめにするのではなく、一人ひとりの「個性」に着目した施策です。当事者の欲求やニーズを探った上で、その人に合わせたアプローチこそが多様な人材の定着・活躍に向けた環境に近づける第一歩だと言えるでしょう。