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失敗しない研修計画
若手社員のリテンション施策
若手社員の早期離職の原因としては「労働条件がよくない」「職場の人間関係がよくない」といった理由がよく言われますが、以前は考えられなかった意外な理由で退職を考える若者もいるようです。最近の若手社員はどんなときに離職を考えるのかを整理し、リテンション施策を講じましょう。
若手社員の離職の現状
厚生労働省は、新規学卒就職者の離職状況について、3年以内の離職率をまとめた調査結果を発表しています。2020年3月卒業生を対象とした調査では、大卒新入社員の32.3%(前年より0.8ポイント増加)、高卒新入社員の37.0%(前年より1.1ポイント増加)が3年以内に離職しているという結果が出ています。
2020年入社の若手社員は、入社してすぐコロナ禍の影響でリモート研修やリモート勤務を余儀なくされた世代。そうした働き方への対応の難しさが離職率に影響を与えている可能性もあり、こうした傾向は今後も考えられそうです。
また、企業の事業所規模の大きさによって離職率に変動があり、事業所規模が大きいほど離職率が低く、事業所規模が小さいほど離職率が高くなる傾向も見られます。ただし推移で見ると、従業員1000名以上の大規模事業所での離職者が増加傾向にあります。若手社員のリテンションには、企業の規模にかかわらず気を遣う必要があるといえるでしょう。
※参考:新規学卒者就職率と就職後3年以内離職率(2020年3月卒業者の状況)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11805001/001005627.pdf
若手社員の離職によくある理由とは
改めて、若手社員の離職によくある理由を整理してみましょう。
(1)労働条件がよくない
労働時間や休日の条件や給与など待遇への不満は早期離職の原因になりやすいです。先輩社員の労働条件を見て、将来的にもあまり良い待遇が期待できないことがわかると若手社員は「この会社に長くいてもいいことがない」と思ってしまいます。
(2)人間関係が良好でない
「相談できる相手が近くにいない」「コミュニケーションの機会が少ない」という環境では、若手社員は孤立を感じやすく不満を抱えてしまいます。また、上司の高圧的な態度や言動も過度なストレスの原因になります。
(3)仕事内容が自分に合わない
入社前と入社後の仕事内容にギャップがあると若手社員の不満が高まります。また、若手社員の「興味や関心のない業務」であると、自分の適性や価値観に合っていない仕事内容だと感じやすく離職につながる可能性が高いです。
(4)求められる成果が高すぎる
自分には裁量権がないのに、成果ばかりを求められ、責任を問われる場面が増えると感じると、若手社員は自分にメリットがないと感じてしまいます。
(5)希望する働き方ができない
最近は、社会全体としてリモート勤務や副業など働き方の柔軟性が高まった分、自分に合った働き方を重視する若者も増えています。プライベートを重視する傾向もあり、たとえば転勤を命じられたことをきっかけに退職してしまう人もいます。
(6)会社のビジョンが不明確でキャリアの展望を描けない
事業の先行きが見えにくかったり、キャリアパスが不明確で社内に目指したい先輩社員がいなかったりした場合、将来への不安を感じ退職につながりやすくなります。会社への愛着や貢献意識が下がっていくことも離職原因になり得ます。
とくに(6)は、最近の若手社員に特徴的な傾向と言えるかもしれません。最近の若手社員には、以前と比べて「一つの会社で勤め上げる」という意識が希薄なこともあり、「どこへ行っても生きていける力をつけること」を求める傾向があります。今いる職場でそうした能力が身につけられないと感じると、新たな環境を求めて退職してしまうことがあるのです。
一時期、「ホワイトすぎて辞める若者」が話題になったことがありました。企業の労働環境が以前と比べて改善している一方で、若手社員が「職場がホワイト過ぎる」「仕事がゆる過ぎる」という理由で退職するケースがあるというのです。たとえば次のような状況が原因になる場合があります。
- 残業がなく定時になったら退勤する
- 負荷の少ない仕事ばかりを任せられる
- ミスをしても上司から叱られない
若手社員がこうしたことを「ホワイトすぎる」「ゆるい」と感じる裏側には、「負荷が少ないため、スキルや経験を積めないのでは」「成長できないのでは」「この環境に長くいると他の環境で通用しないのでは」といった不安があると考えられます。つまり、働きやすい職場であること自体が問題なのではなく、成長が実感できないところに問題があると考えるべきでしょう。
若手社員のリテンションのために企業がするべきこと
企業が若手社員の早期離職を防ぐためには、採用段階から人事制度、待遇まで様々な場面でできることがあります。
(1)入社後のギャップを減らすために採用時に正しい情報を発信する
採用時と入社後のギャップが大きいほど、離職率は高まります。企業は採用時に仕事の厳しさや企業が抱える経営課題など、マイナス面も隠さずに伝えましょう。選考時に会社見学や先輩社員と直接話す機会を設けることで、企業風土や社員の考え方が伝わりやすく、ギャップが少なくなります。
(2)相談しやすい環境を作る
新しい環境の中では、周りに相談もできずストレスや不安を感じる若手もいます。歳の近い先輩社員がメンターや相談役になるなどして積極的にコミュニケーションを取り、相談しやすい環境を作りましょう。若手社員は「会社から大切にされている」と実感しやすくなり安心感にもつながります。
(3)労働条件・評価制度を見直す
労働条件や人事制度の見直しも早期離職対策になります。やみくもに給与水準を引き上げや、手当をアップするのではなく、「頑張った分だけ正当に評価される会社」と感じてもらえるような評価制度に改善することも有効です。
(4)従業員にとって魅力的な働き方を導入する
社員にとっては、魅力的な働き方も会社を選ぶ理由となります。私生活と仕事が両立できるように、「フレックスタイム制度」「在宅勤務」「時短勤務制度」など柔軟な働き方を導入することで離職率の低下につながるでしょう。
(5)その人の組織での役割を明確に伝える
若手が成果を上げるまでに、時間がかかることもあります。働きながら「自分は会社の役に立っているのか」「今の仕事で成長できるのだろうか」と不安を感じることもあるでしょう。不安解消のために上司が組織での役割を伝えたり、褒めたりと自己肯定感を高める必要もあります。さらに仕事に対する評価を適切にフィードバックし、新たな課題や目標を意識させることで若手も前向きに業務に取り組めるようになるでしょう。
(6)キャリアデザインをサポートする
会社でどのようなキャリアを築けるのかを明確にすることは離職防止にも有効です。「数年後、自社でどうなりたいか」「そのためには今後どういったことが必要か」など、キャリアのイメージが描けるようなサポートをし、長期的な目標を立てさせることがモチベーションアップにつながります。若手社員に会社におけるキャリアパスを見つけてもらう研修も役立つかもしれません。
研修例
キャリアデザイン研修
キャリアデザインをイメージできるとモチベーションがあがり主体性も高まります。組織としての期待を理解してもらうことで、「この会社でさらに成長できるかもしれない」と考えるきっかけにもなるでしょう。
https://solution.jma.or.jp/service/training/theme/career-design/
(7)上司のマネジメントスキルを高める
現実的には、若手社員と日常的に接するのは上司であり、(5)や(6)のようなことを上司が若手に伝えられるかどうかも重要なポイントになります。部下とのコミュニケーションテーマを円滑に進められるよう、上司のスキルアップを図るのもよいでしょう。
研修例
1on1
部下との1on1ミーティングを円滑に進めるための基本スキル(コーチング力、傾聴力、フィードバック力)や自己理解・他者理解の重要性、部下の帰属意識を高めるスキルなど実習を通して学びます。
https://solution.jma.or.jp/1on1-bukaikusei/
ティーチング、コーチング、メンタリング
育成担当者として押さえておきたい知識やコミュニケーションの取り方を実習で身につけ部下の信頼関係構築を強化するポイントを学びます。
https://solution.jma.or.jp/service/training/theme/ikusei/ikusei01/
https://solution.jma.or.jp/service/training/them/ikusei/ikusei05/
https://solution.jma.or.jp/shidou-ikusei/
若手社員の離職防止のためには、労働環境の整備も重要ですが、同時に採用フローから教育、キャリア支援などの施策についても幅広く整える必要があります。またこうした環境整備とともに、上司のスキルアップも現実的な解決策となり得ることに留意して施策を検討されるとよいかもしれません。
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