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リスキリング推進のために企業が行うべきこと

公開日:2023/05/30 更新日:2023/09/13

2020年の人材版伊藤レポートで触れられて以来、人材育成分野で注目のテーマとなっている「リスキリング」。企業が主導して従業員のリスキリングに取り組む意義や、効果的な導入方法について解説します。

リスキリングとは何をすることなのか?

経済産業省はリスキリングを「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。 

同様に社会人の学びを表す「リカレント教育」が「働く→学ぶ→働く」のサイクルで、仕事と学びを行き来する学び方を指すのに対し、リスキリングは、仕事を続けながら、新しい仕事のしかたや新しい職務に移行するためのスキルを取得することを指しています。

 また単なる「学び直し」とは異なり、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するためのスキル取得といった意味合いが強く、「将来的に価値を創出し続けるために必要なスキルを学ぶ」という点が強調されています。 

リスキリングには「デジタル分野の知識を身につけること」といったイメージがあるかもしれません。たしかに、企業がDX化を目指す中で必要なスキルを習得するなどのケースが多いのは事実ですが、正確には対象となるのはデジタル分野だけではありません。

たとえば202212月には厚生労働省が「人材開発支援助成金」の中に「事業展開等リスキリング支援コース」を新設しましたが、このコースでは、「新規事業の立ち上げ等の事業展開に伴う人材育成」「デジタル化」「グリーン化」の3テーマが対象になっています。

■人材開発支援助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

また、リスキリングは働く個人が自らのキャリアのために学ぶことも含みますが、企業にとっては、自社の事業を新たな成長分野にシフトさせるなど、戦略的ニーズを満たすための施策の一環ということになります。

リスキリングと一般的な育成との違い

これまでに企業で行われてきた一般的な人材育成手法とリスキリングの違いについて考えてみると、リスキリングとはどういうものかを理解する助けになるかもしれません。

OJTではリスキリングはできない

企業の人材育成としてよく行われるOJTは、社内で「いますでにある」仕事をしながら、スキルを獲得していく育成方法です。一方リスキリングは、変化に対応するための非連続的な能力開発であるため、既存の業務の延長上では実現できません。 

ソフトスキルの習得ではない

階層別研修などでは、業務を円滑に進めるための学びや「リーダーシップ」「思考力」などのソフトスキルを中心に扱うことが一般的です。ソフトスキルはいつの時代にも重要なスキルですが、リスキリングは、デジタル技術など特定の分野で求められるスキルを身につけることを目的とします。そういった意味では、DX研修のような目的別の研修はリスキリングといえます。

■経営幹部のためのDX戦略実践力養成コース
https://solution.jma.or.jp/service/training/theme/dx/transformation02/

企業がリスキリングを行うメリット

企業としてリスキリングを推進することには戦略的な意義もありますが、他にも次のようなメリットが考えられます。

エンゲージメントの向上

企業がリスキリングを推進することで、従業員が自ら必要なスキルや知識を獲得しようという意識が生まれやすくなります。従業員がスキルアップしたいという気持ちに対して、企業が学びの機会を提供することで、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。

社内人材の活性化

企業がDXを推進するには先端分野の知識や技術を持つ人材の確保が急務ですが、採用コストが高いというデメリットもあります。社内人材をリスキリングすれば、新たに採用しなくても人材が充足できます。リスキリングによって従業員がこれまでと全く異なる仕事に移行できるようになり、社内人材の活性化にもなります。

従業員の成長

アメリカでリスキリングの先駆者的な存在として知られるAT&Tは、未来に必要なスキルを育てるため、2013年に「ワークフォース2020」というリスキリングのイニシアティブをスタートしました。2020年までに10億ドルかけて10万人のリスキリングを実行しています。

 

ワークフォース2020によって、社内技術職の80%以上が社内異動によって充足しただけでなく、リスキリングプログラムに参加する従業員は、そうでない従業員に比べ、1.1倍高い評価、1.3倍多い表彰、1.7倍の昇進を実現し、離職率は1.6倍低くなったと報告されています。このように、リスキリングは取り組んだ従業員の成長につながるといえます。

リスキリングを円滑に進めるポイント

企業としてリスキリングを成功させるためのポイントを紹介します。

 取り組みやすい環境をつくる

リスキリングには時間も費用もかかるため、浸透させるにはリスキリングに取り組む人の周囲の理解も必要です。「なぜリスキリングが必要なのか」を全従業員に説明することで周囲の理解が進み、協力体制も整っていくでしょう。

従業員の自主性を尊重する

今まで学んだことのないスキルの習得には、ストレスや負荷がかかるため、本人に学ぶ意思がなければ成功しません。自主性を尊重するために、カフェテリア方式で選択形式のプログラムを用意したり、テーマ別に手挙げ式で研修を行うなどの方法をとるのもよいでしょう。

スキル獲得後のイメージを明確にする

リスキリングは継続して行うことに意義があります。そのためには、モチベーションを維持できるよう、目的や目標を明確にすることが重要です。現有スキルを可視化し、必要なスキルを獲得した後の可能性を伝えることで、学ぶ人のモチベーションを保つことができるでしょう。スキル習得後にお試し配属などができる仕組みも有効です。

自社課題にフィットしたプログラムを選ぶ

間違ったプログラム選びでは、リスキリングの効果が期待できないため、社内の課題にフィットするコンテンツを選ぶことが大事です。

 

リスキリングは従業員個人にとっても、企業にとってもメリットが意義のあることです。労働環境やビジネス環境の変化に対して、企業を成長させるためにも、意識して取り組んでいくべきであると言えるでしょう。