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「静かな退職(Quiet Quitting)」にどう向き合うか?(トレンドワード)
TikTokからの発信で話題になった「静かな退職」は、「退職」そのものではないものの、企業にとっては大きな損失です。こうした「静かな退職」はなぜ起こるのか、企業に何ができるのか。「静かな退職」状態にある従業員との向き合い方を考えてみましょう。
静かな退職とは何か
静かな退職(Quiet Quitting)とは、「キャリアや成長のために一生懸命働くことをやめて、求められる以上の仕事はしない働き方」を指します。
アメリカのキャリアコーチ、ブライアン・クリーリー氏が自らのTikTokで発信したのをきっかけに、主にZ世代の間で話題となりました。とはいえ静かな退職は新しい概念ではなく、コロナ禍を経て人々の働くことへの意識が変化したことによって改めて注目されるようになったと言えます。ワーク・ライフバランスの向上のために、仕事とプライベートを分け、定時退社を重視するような働き方の延長にあるともいえます。中国発の「タンピン(ねそべり主義)」もほぼ同じ意味です。
SNSではZ世代中心に話題となりましたが、日本では40~50代の一般社員に多いという調査結果もあります。そうした人の特徴は、「会社を辞めるつもりはないけれど、最低限の仕事をやって給料は貰いたい」という貢献度の低さにあります。
静かな退職は企業にとってどう問題か
静かな退職の該当者は「将来的に会社にマイナスの影響を与える可能性が高い社員」と言われています。具体的にはどのような問題点があるのかを知っておきましょう。
企業が求める人材像ではない
ビジネス環境が大きく変化している中で、企業は環境変化に臨機応変に対応できる自律型人材を求めています。最低限の仕事しかしない静かな退職者は、企業として求める人材像から大きく外れているといえるでしょう。
生産性が低下する
企業が求めているのは生産性の向上です。しかし、静かな退職は必要以上の仕事をしないため、仕事量も少なめです。組織内にこうした人がいると、その人自身だけでなく組織全体の生産性も低下します。
周囲に悪影響が出る
必要以上のことをしない人がいると、その分をまわりの従業員が請け負うことになり負担が増すといった悪影響があります。チーム内でも対立が起こり、職場環境が悪化することもあります。
上記のように、静かな退職には多くの問題点があります。とはいえ、働き方の多様化や価値観の変化においては、「静かな退職」も従業員にとっては1つの選択肢です。そこで、企業としてはある程度許容しつつも、従業員のモチベーションの保ち方を探るなどして「静かな退職」と向き合っていく必要があるといえるでしょう。
静かな退職の兆候とは?
静かな退職は急に起こるのではありません。組織内で起こっている兆候に気づけるようにしておきましょう。具体例としては以下のようなことが挙げられます。
- エンゲージメントの低い状態が長期的に続いている
- チームで孤立している人がいる
- 必要以上の仕事をしない
- 会議には出席するが発言や行動はしない
- チーム内で仕事量の偏りがあり不満を漏らしている人がいる
- 毎日定時退社する
- 時間外の仕事は断る
もともとはやる気のあった従業員でも、環境の変化によって「静かな退職」状態になることもあります。チーム内で仕事量の偏りがあり、多くの業務を担っている従業員は、多忙さゆえに一生懸命働くことをやめ、静かな退職状態に変化することもあるのです。
企業の立場からできることは何か
静かな退職が増えないよう企業ができることを紹介します。
働き方の柔軟性を上げる
働き方が多様化している今、企業はリモートワーク、フレックス制度などを取り入れ、従業員の働き方の柔軟性を上げることが効果的です。従業員の働きやすさを企業がサポートすることで従業員のエンゲージメントも向上します。
バーンアウトを防ぐ
過大な仕事量はバーンアウトを引き起こし、静かな退職につながる可能性があります。組織内での仕事量の偏りがないか、働きすぎている従業員がいないかなど上司は組織の様子を把握しておきましょう。残業は当たり前でなく、遅くまで残業した従業員には他の日に早退できるような環境作りも大切です。
従業員が存在意義を感じられる取り組み
「努力が報われない」「正当に評価されていない」といった従業員の不満は、静かな退職を引き起こす原因にもなります。従業員が「評価されている」と実感できるように、透明性のある昇給制度を整えるなどもよいでしょう。
上司によるサポート
上司による適切なサポートがある組織と、そうでない組織では静かな退職者の数が3〜4倍違うと言われています。組織内の円滑な人間関係と結果を出すといったバランスを取るためにはコミュニケーションが必要で、そのための上司のスキルが重要なポイントとなります。
多様なキャリアパスの提示
従業員の成長意欲は、職場にロールモデルによって高められることもありますが、激しいビジネス環境の変化においては身近にロールモデルの存在自体も望めなくなっています。そこで、従業員に多様なキャリアパスを提示したり、キャリアデザイン研修を行ったりするのも効果的です。
■自律型人材への成長を促す「キャリアデザイン研修」
https://solution.jma.or.jp/column/c220408-01/
ここまでさまざまな例を挙げてきましたが、静かな退職はモチベーションの低さによってのみ引き起こされるわけではありません。静かな退職を引き起こさないための施策とともに、静かな退職が起きそうになったとき、従業員が気軽に相談できる環境作りも必要です。
企業が静かな退職に対応するためには、従業員の生産性を高める取り組みも大事ですが、まずは従業員の抱えている問題や兆候に気づき、対処することが必要です。職場環境の改善やキャリアパスの多様化など、従業員が働きやすい環境づくりに取り組むことも、静かな退職を防ぐためには有効といえるでしょう。