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サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは何か?なぜ必要なのか?

公開日:2023/07/13 更新日:2023/07/13

経済産業省の報告書「伊藤レポート3.0」で定義されたことで、企業のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)への取り組みが重要視されています。SXとは何か、またその必要性について解説します。

サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは何か

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは、20228月に出された「伊藤レポート3.0」に登場したことで注目されるようになった言葉です。伊藤レポート3.0では、SXを「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを『同期化』させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)」と定義しています。

企業が気候変動や人権への対応など社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことで、稼ぐ力が長期的かつ持続的に向上するとした上で、そのために経営の在り方やステークホルダーとの対話の在り方を変革することを呼びかけた形です。

※伊藤レポート3.0とは
2022831日、「企業や投資家などが協働して長期的かつ持続的な企業価値を向上させるため」として経済産業省から発表された報告書。「SX版伊藤レポート」とも呼ばれています。

伊藤レポート3.0
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220831004/20220831004-a.pdf

なぜSXが必要なのか

世界的には、環境保護や人権問題などサステナビリティに関する課題が企業活動の持続性に大きな影響を及ぼしていると捉え、サステナビリティへの対処が経営戦略の重要な要素となりつつあります。

また、社会の抱えるサステナビリティ課題を解決することは、企業にとっての収益につながります。その収益を利益分配と将来への投資に振り分けていくことは、日本企業に従来欠けていた長期成長のための持続的な収益や投資となり、「成長と分配の好循環」が生まれると期待され、国が掲げる「新しい資本主義」の推進にもつながるとされています。

SXの重要度が増した背景にある社会情勢

SXの重要度が増した背景には、次のような社会情勢の変化があります。

世界経済の不確実性の高まり

社会全体が自然災害やパンデミックによる経済リスクの拡大を経験し、企業活動が社会問題と密接に関係していることが実感されるようになっています。こうした中で企業が中長期的に存続していくためには、自社のビジネスだけでなく、社会全体への貢献が求められると考えられるようになっています。

企業の社会課題への取り組みに対する興味

ESG投資ややサステナビリティ投資の増大は、こうしたテーマへの投資家の興味を示しています。また、ミレニアル世代など社会貢献意識の高い世代の消費者としての台頭も、企業の社会課題への取り組みが注視される理由になっています。

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)、グリーン・トランスフォーメーション(GX)、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の関係

SXと同様に「変革」を意味するグリーン・トランスフォーメーション(GX)、デジタル・トランスフォーメーション(DX)についても確認しておきましょう。 

グリーン・トランスフォーメーション(GX

エネルギーを石油や石炭から自然エネルギーに置き換えるなど、環境負荷を減らす変革のことを指します。こうした新しい取り組みは、環境負荷の削減のほか、新たなビジネスチャンスにつながることも期待されています。経済産業省は、経済社会システム全体の変革に関する議論と新たな市場の創造を実践する場として「GXリーグ」を立ち上げるなどしてGXを推進しています。

デジタル・トランスフォーメーション(DX

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、デジタル技術を活用してビジネスを変革する取り組みを指します。単なるデジタル化ではなく、事業そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土などの変革を意味しています。

伊藤レポート3.0は、SXが「新しい資本主義」を推進するとしていますが、その中で、GXについてもSXの一環として取り組むことが推奨されています。さらにこれらを効果的にかつ迅速に推進していくために、同時にDXにも取り組んでいくことが有効とされています。

SX実現のためにするべきこと

伊藤レポート3.0では、SXを実現する取り組みの具体例として以下の3点があげられています。 

1)社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化

社会への長期的かつ持続的な価値提供に向けて、取るべき行動の判断軸などの価値観を明確化し、自社の事業活動を通じて解決する重要課題を特定することです。社会にどのような価値を提供していくか、企業としてどのように価値向上させるかを言語化し、目指す姿を設定します。

2)目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための戦略の構築

目指す姿に到達するまでの具体的な戦略づくりのことです。まずは長期的に目指す姿を設定し、それを実現するためのビジネスモデルの構築・変革、リスクと機会の統合的な分析を行った上で、事業ポートフォリオ戦略、DX推進、人的資本への投資・人材戦略など短期・中期・長期の計画を立ててゆきます。

3)長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと実質的な対話を通じたさらなる磨き上げ

目指す姿に向けて推進できているかを測るためには、KPIの設定とガバナンス体制の整備が有効です。KPIは戦略だけでなく価値観や重要課題とも関連付けることで、ガバナンス体制については自社の価値創造ストーリーに合ったものとすることで、投資家の理解もいっそう深まります。そのうえで投資家からのフィードバックを受けることで、長期的戦略を磨き上げることができます。

SX推進に向けた人材育成のヒント

企業がSXを推進するためには、「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」が有効と言われています。

経済産業省によると、ダイナミック・ケイパビリティとは、「環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力」とされています。またこの能力は、変化を感知する「感知力」、機会を捉える「捕捉力」、変化する「変容力(Transforming)」に分解されます。

SX人材」という明確な定義は難しいとしても、「組織としてこうした機能を維持するためにどんな人材が必要か」というところから考えることが、SXを支えるための人材育成にもなりそうです。