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ダイナミック・ケイパビリティとは何か。どう高めるのか

公開日:2023/07/19 更新日:2023/07/19

不確実な環境の中で企業が生き残っていくために企業に求められる力として「ダイナミック・ケイパビリティ」という概念が注目を集めています。ダイナミック・ケイパビリティとは何か、高めるためにできることなどを考えます。

ダイナミック・ケイパビリティとは

ダイナミック・ケイパビリティとは、カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱された戦略経営上の用語です。企業がビジネス環境の変化に対応するため、自社の事業や組織を変革する能力のことで「企業変革力」とも呼ばれています。

20205月に経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で発表した「ものづくり白書2020」の中で取り上げられたことで、とくに製造業界を中心に注目を集めるようになりました。

ダイナミック・ケイパビリティの3要素

ダイナミック・ケイパビリティは具体的には以下の3つの要素で構成されます。

感知(センシング)

顧客のニーズや同業他社の動向など、脅威や危機を感知する能力。

捕捉(シージング)

企業が保有する経営資源を再構成・再利用して競争力を獲得する能力。

変容(トランスフォーミング)

獲得した競争優位性を確立するために、組織全体を変容させる能力。組織体制や社内制度の変更なども含みます。

つまりダイナミック・ケイパビリティを備えている企業とは、「外部にある脅威や危機を感知し、経営資源を再構築して競争力を高め、組織全体の変容を実現できる企業」と言えるでしょう。

「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」

ダイナミック・ケイパビリティと対になる概念として、オーディナリー・ケイパビリティについても触れておきます。 

オーディナリー・ケイパビリティは、与えられた経営資源を効率的に利用して利益の最大化を目指す能力のことで、「通常能力」とも呼ばれます。ダイナミック・ケイパビリティが外部環境の変化に対応する力であるのに対し、企業内での経営資源の効率化と利益の最大化を図る能力といえます。前出のティース氏によれば、オーディナリー・ケイパビリティとは「ものごとを正しく行うこと」であり、企業にとって重要な能力であることは間違いありません。

ただし、変化の激しいビジネス環境下で想定外の変化に襲われた場合、オーディナリー・ケイパビリティの高い企業が一気に競争力を失うということもあり得ます。そうした局面で必要となるのがダイナミック・ケイパビリティと言えるのです。 

ダイナミック・ケイパビリティがなぜ注目されているか

ダイナミック・ケイパビリティに注目が集まる背景には次のようなことが考えられます。

社会の不確実性

自然災害やエネルギー価格の高騰など、世界的に社会の不確実性が高まっています。企業が生き残るには、こうした外部変化に合わせて変革する必要があります。

技術革新

IoTAIといった技術革新も大きな変化を生み出します。こうした技術革新を素早く事業や組織運営に取り込み活用することが、変化の中で競争優位性を保つことにつながります。

グローバル化

グローバル化の進行により、企業が国際競争に直面する場面が増えました。こうした中で、経営資源の配分を変えるなど、再構成の必要が出てきています。

SX DXとの関係

気候変動や人権への対応といった社会の持続可能性に対し、企業が長期的な価値提供を行うために変革するのがSX(サステナブル・トランスフォーメーション)ですが、そのためには経営の在り方やステークホルダーとの対話の在り方を変革する必要があり、ダイナミック・ケイパビリティが求められると言われています。このことが、国の方針としてSXが推進される中、ダイナミック・ケイパビリティに注目が集まる理由となっています。

また、ダイナミック・ケイパビリティの向上を「感知」の面から支えるのが、デジタル技術を用いて事業を変革するDX(デジタル・トランスフォーメーション)だと言われています。

関連リンク

サステナビリティトランスフォーメーション(SX)とは何か?なぜ必要なのか?

ダイナミック・ケイパビリティを高めるためにできること

企業のダイナミック・ケイパビリティを高めるため、従業員一人ひとりが高めるべき能力としては次のようなものが考えられます。 

データ収集・分析力

ダイナミック・ケイパビリティの要素の1つである「感知」を高めるには、社外も含めたさまざまな出来事にアンテナを張り、データを収集、分析する力が必要です。集めて分析する情報は「保有する経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)」「顧客ニーズ」「競合分析」「市場動向」など多岐に渡ります。

 また、こうした力を支えるのがDXです。DXにより、よりスピーディな情収集、分析が可能になるからです。「ものづくり白書」にも、「デジタル技術が企業変革力を高める上での強力な武器であるという点を最大限に強調する」とあり、ダイナミック・ケイパビリティを高めるにはDXの活用が欠かせないことが示されています。

越境学習

越境学習とは、自分が所属する組織の枠を越えて、働く意義や自分自身を学ぶことです。こうした経験を通じ、生まれた知見を持ち帰ることは、「変容」を促進することにつながると期待できます。

企業としてのダイナミック・ケイパビリティの獲得は簡単なことではありませんが、不確実な環境において企業が生き残るには欠かせない能力となっていきそうです。まずはダイナミック・ケイパビリティとは何かを知り、意識を高めることも重要かもしれません。