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「マタイ効果」「マルコ効果」を人材育成に活かすヒント

公開日:2023/08/29 更新日:2023/08/29

企業における評価、育成を考えるヒントとして、社会学の分野から生まれた概念である「マタイ効果」と、その対概念としての「マルコ効果」についてご紹介します。それぞれどんな意味を持つ言葉であり、どのように人材育成に活用できるのでしょうか。

マタイ効果とは何か?言葉の由来は?

マタイ効果とは、「すでに成功している人ほど注目され、さらに成功の可能性が高まる」という現象を表す言葉です。提唱したのはアメリカの社会学者、ロバート・K・マートン。もともとは20世紀の半ばに発表された論文で、「高名な科学者はそうでない科学者よりも大きな評価を受ける」という現象を指して使われた言葉でした。

マタイ効果という名称は、新約聖書の『マタイによる福音書』の中に出てくる「持っている者は与えられてますます豊かになり、持っていないものは持っているものまで取り上げられるだろう」という言葉に由来しています。

ハイパフォーマー育成とマタイ効果の関係

企業の人材育成の場面では、主に「優秀な人材を選抜して伸ばす」という手法が取られてきました。ハイパフォーマー候補を発掘し、そこにリソースを集中して育成するという考え方であり、すでにある程度成功している人に注目するという意味でマタイ効果的なアプローチと言えます。

こうした育成方法のメリットとしては、次のようなこと挙げられます。

ハイパフォーマー以外の能力も向上する

ハイパフォーマーを複数育てることで、単純に成果を出せる人材が増え、全体の業績が安定、向上します。また、ハイパフォーマーを育成する環境をつくる過程で、その他の社員の能力も向上する可能性が高まります。 

ロイヤリティが向上する

ハイパフォーマーの存在によってチーム全体としての成果が出れば、それが他のメンバーにとってのやりがいにもなり、全体的なロイヤリティの向上につながります。

マタイ効果の問題点とは

一方で、こうしたマタイ効果的なアプローチには問題点もあります。それは、時間が経過するにつれ、初期の小さな不平等が大きく拡大してしまうということです。

 たとえば新入社員の場合、同じような能力の持ち主であっても、入社後に配属された部署や、どんな上司につくかによって成長の度合いに差が出ることはよくあります。

 成長しやすい環境に配属された社員は、他の社員より評価される可能性も高くなります。こうして早い段階で成功して注目されれば、その後もよい評価を得やすく、さらに多くチャレンジの機会を与えられやすくなります。そのような経験を重ねれば成長の度合いは大きくなり、周囲の社員とは違うハイパフォーマーとして、選抜されるチャンスも増えると言えるでしょう。

一方で、早い段階で成長しにくい部署に配属された社員は、時間が経っても目立った評価をされる機会がなく、結果としてチャレンジの回数そのものも少なくなりがちです。何年か経つと、成長しやすい部署に配属した社員と比較して、能力に大きな差がついてしまうかもしれません。

このように、入社時にはとくに差がなかったとしても、最初の配属先によって成長度合いに大きな差がついてしまうことは、まさにマタイ効果による問題点だと言えます。初期の小さな不平等により、その後の成長に大きく差がついてしまうことになれば、成長しにくい環境に身をおいてきたメンバーがモチベーションを上げるのは難しくなってしまいそうです。

マタイ効果の対概念としてのマルコ効果 

マタイ効果の問題点を解消するため、成功している人を選抜して育成するのではなく、あくまで全員を平等に扱い、平等にコストをかけるという考え方もあります。このような考え方を、「マタイ効果」との対比で、同じ新約聖書の福音書から取った「マルコ効果」という語で呼ぶ人もいます。

当然ながらこの方法では、マタイ効果的アプローチで得られるようなメリットは得られません。しかし、「すべてのメンバーがモチベーションを低下させることなく成長を目指せる」という効果は期待できるでしょう。

多くの企業が人材不足に悩む現在、社内にいるより多くの人材から能力を引き出し、活躍を促すことも必要であり、そうした結果を目指すのであれば、マタイ効果的アプローチよりマルコ効果的アプローチが有効かもしれません。

まとめ

ここまで、マタイ効果、マルコ効果という概念と、それぞれと紐づいた人材育成の考え方をご紹介してきました。これらの考え方は、それぞれにメリットがあり、どちらが絶対的に正しいというものではありません。それぞれのメリット、デメリットを理解したうえで、自社のおかれた状況や目指したい姿によって、ふさわしい方法を考えてみていただければ幸いです。