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男性育休をどう浸透させるか?
「育児・介護休業法」の改訂や、従業員1000人以上の企業への「男性の育児休業等の取得率の公表」の義務化などにより「男性育休」が注目されています。厚生労働省の調査結果では取得が進んでいるようにも見えますが、一方で現場の温度感とは大きなギャップも。そもそも企業が男性の育休取得率向上に取り組むメリットは何なのか、取得率向上に向けた課題、取り組むべきことなどを紹介します。
男性育休をめぐる現状
2022年より施行された改正育児・介護休業法は、企業に「育児休業を取得しやすい雇用環境整備」や「妊娠・出産を申し出た労働者 に対する個別の周知・意向確認」の義務づけ、「産後パパ育休(育休とは別に取得でき、一定の条件下で就業もできる)」や、「パパ・ママ育休プラス(両親がともに育休を取得する場合に育休期間を延長できる)」などの制度も新設されました。また、2023年4月からは、従業員が1000人を超える企業で「男性の育児休業等の取得率の公表」が義務化され、上場企業では有価証券報告書への開示も求められています。政府としては、男性育休取得率を公表することで、企業側の取得率アップの加速を目指したといえます。
2023年厚生労働省が発表した「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)によると、調査に回答した企業における男性の育休等取得率は46.2%、男性の育休取得日数の平均は46.5日となっています。
しかし民間の調査によると、取得率、取得日数とも法改正前と大きく変わらないことを示す数字もあり、現場の感覚とのギャップは大きいようです。
男性育休が進まない理由は?
男性育休が進まない理由には以下のようなことが考えられます。
職場の問題
- 育休を取得しにくい雰囲気がある
- 人手不足で欠員をカバーできない
- 会社の制度が整っていない・浸透していない
- 育休取得により昇給・昇格等キャリアに影響が出る
本人の問題
- 育休取得によって収入を減らしたくない
- 職場に迷惑をかけたくない
男性育休の場合、とくに大きな阻害要因となっているのは「欠員のカバー」のようです。これについては、男性のほうが女性と比べて重要な仕事を任されているなど、そもそもが男性中心の人員配置となっていることに原因があるという見方もあります。こうした中で、男性が育休を取得しようにもメンバーから理解を得づらく、「職場に迷惑をかけたくない」と申請を躊躇しているとも考えられます。
男性育休と「パタハラ」の関係
男性育休の問題とともにクローズアップされてきたのが「パタハラ」という概念です。パタハラとは「パタニティハラスメント」の略で、父性を意味する「パタニティ」への嫌がらせを意味します。男性社員が育児休業や時短勤務を申請した際、「認められない」「減給・降格される」「上司や同僚から嫌味をいわれる」などが該当します。
パタハラは「育児・介護休業法」で禁止されていますが、企業の制度の不足や啓蒙不足が原因で発生しています。とくに日本では育休=女性が取得するものというイメージが強く、男性社員の育休取得を受け入れられない風潮もまだまだ根強いようです。
企業が男性育休取得を推進するために必要なこと
こうした現状から、男性社員の育休取得推進のカギを握るのは企業だと言えそうです。たとえば次のような取り組みは急務と言えるでしょう。
育休を取得しやすい雰囲気作り
子育てに関する価値観は一人ひとりで異なるため、男性育休制度の内容、会社の方針などについてしっかりと情報共有することが必要です。経営層が率先して啓蒙活動を行い、取得しやすい雰囲気を作るなど、社員の理解を高めるのが効果的です。
欠員をカバーする仕組み作り
欠員が出ても他のメンバーに負担をかけず、しかも高いパフォーマンスを維持するには、業務の可視化や整理を行い、スキルやタスクの属人化を防ぐ仕組み作りが必要です。同時に、育児休業以外の休暇についても「取得は義務である」「足りない部分はみんなでカバーする」という意識づけをしておくことで、男性育休も浸透しやすくなります。欠員で負担のかかる社員に手当を支給するという形で理解を得ている企業もあります。
ハラスメントに関する意識改革
男性育休取得に伴って起こるパタハラは、そもそもハラスメントへの意識が低いことからも起こり得ます。ハラスメントについて学ぶことで、意識改革を図っておくことも必要かもしれません。
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企業が男性育休の推進に取り組むメリット
男性育休の推進は簡単ではありませんが、メリットもあります。男性育休浸透のための材料として知っておきましょう。
生産性の向上
男性育休の推進は、属人化していた業務の見直しのきっかけとなり、業務の標準化・効率化につながります。また、男性育休に限らず「意識して休む」意識が根付くことで、社員が本業以外の活動に取り組み、その結果生まれたアイデアが、イノベーションにつながることも期待できます。
社員のスキル開発
育児を経験することでマルチタスクへの対応力が鍛えられ、仕事面でも時間管理能力、段取り力などの向上が期待できます。
企業イメージの向上
男性育休取得率の高さは、「多様な人材が働きやすい環境作りに力を入れている」というメッセージになり、採用面、とくに働きやすさを重視する若年層への好影響が期待できます。ESG投資の観点からも、ジェンダー平等の実現に取り組んでいるとして投資家からの評価アップにつながります。
社員エンゲージメントの向上
前出の「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)では、男性育休を会社が積極的に進めることで、社員の会社への愛着や仕事へのモチベーションにつながり、社員のエンゲージメントの向上につながるという結果が出ています。
心理的安全性の確保
男性社員が育休を取得し子育ての大変さを理解することは、子育て中の女性社員への共感にもつながります。これによりコミュニケーションが活発化し、職場に相談しやすい人間関係が生まれるでしょう。
推進に向けてはさまざまな課題のある男性育休ですが、企業のイメージアップなど大きなメリットもあります。男性育休への取り組みをきっかけとして、社内風土の改革につなげていくこともできるのです。
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