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シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)

公開日:2024/10/24 更新日:2024/10/24

人材が多様化し、「個の時代」と言われるなかで、強力なリーダーシップで組織を引っ張るスタイルが通用しない場面も出てきています。「状況対応型リーダーシップ」とも呼ばれるシチュエーショナル・リーダーシップは、こうした課題を解決するためのリーダーシップスタイルとして提唱されるようになりました。

シチュエーショナル・リーダーシップ(SL理論)とは

シチュエーショナル・リーダーシップ(Situational Leadership)の「シチュエーショナル」は、「状況の」「場面の」という意味で、シチュエーショナル・リーダーシップは「状況にあわせたリーダーシップ」「状況対応型リーダーシップ」と訳すことができます。シチュエショナル・リーダーシップに関する理論は、リーダーシップ理論の1つとして、頭文字をとってSL理論と言われています。

この理論は、1977年に行動科学者でカリフォルニア・アメリカ大学大学院教授を務めた行動科学者のポール・ハーシーとマサチューセッツ大学教授を務めた組織心理学者のケン・ブランチャードによって提唱されました。

リーダーシップ理論は歴史的に、「最善の正しいリーダーシップがある」という前提から始まりました。しかし、リーダーらしい特性を持っているにもかかわらず成果を挙げられないリーダーがいたり、リーダーに求められる行動を取っても有効でなかったりする場面があるなどの問題点が指摘されるようになり、「置かれている状況が異なれば、求められるリーダーシップも異なる」とする、いわゆる「リーダーシップ条件適応理論」が登場します。SL理論はこうしたリーダーシップ条件適応理論の一つとして、「リーダーシップには唯一絶対の正解はない」という前提のもとで提唱された理論です。

SL理論では、「リーダーがチームメンバー全員に対して画一的なスタイルで対応していれば、必ずそれに合わないメンバーが出てくる」と考えます。そこで、部下一人ひとりのスキルやモチベーションの状態に合わせ、適切なスタイルを使い分けながら指示と支援を提供するのが最適なリーダーシップであるとしています。

部下の4つのタイプとそれぞれに最適なリーダーシップ

SL理論では部下を4つのタイプに分け、それぞれに合った4タイプのリーダーシップがあるとしています。

リーダーシップの軸

4つのリーダーシップを分ける軸となるのは、リーダーシップの基本行動である「指示的行動(仕事志向)」「援助的行動(人間関係志向)」の2つです。

指示的行動とは、指示・命令・監督・統制・チェック・コントロール機能などで、部下に「何を・どうやって・どこで・いつ」と細かく指示を出すこと全般を指します。

一方、援助的行動には、部下への質問と傾聴・支援・援助・賞賛・激励が含まれます。部下の話を聞き、援助しながら問題解決を促す指導方法を指します。

部下の4つのタイプ

SL理論では、部下のタイプを、モチベーションの高さと能力の高さをもとに下のように分けます。

S1:モチベーションは高いが能力は低い

自分の判断で進められるほど業務への理解は進んでいないものの、学習意欲は高く、チームに貢献したいという気持ちも強い状態。新人、他部署から異動してきた社員、転職してきた社員などが該当します。

S2:モチベーションは高くなく、能力は低~中程度

自分の業務に慣れ、ある程度のスキルが身についてきた状態。自分なりに工夫して進めるため、個別の指示のみでなく、業務の背景や目的を知りたいと考えています。担当業務に対してややマンネリ気味に感じていることもあります。

S3:モチベーションはその都度変化し、能力は中~高程度

仕事の目的や意義を理解し、ある程度の業務は単独で行えるが、難しい業務においては、意思決定や単独遂行に不安がある状態。言われたことだけを実行するのではなく、自らの判断で進めたいという気持ちがあります。

S4:モチベーションも能力も高い

業務の背景や組織の課題についても深く理解し、不測の事態にも自力で対応できるスキルや判断力を身に付けた状態。権限移譲が可能なレベルの、頼れる社員が該当します。リーダーに対しては、指示を与えることよりも、見守ってくれることを求めます。

部下のタイプ別にふさわしいリーダーシップスタイル

上記で分類した部下の4タイプに合う4つのリーダーシップスタイルは次のとおりです。

S1:指示型・教示型

意思決定はリーダーが行い、部下に具体的な指示命令を与え、仕事の達成までの進捗を細かく管理するスタイルです。友好的な人間関係を築くことよりも仕事の達成度を高めるサポートを重視します。 

部下は指示を求めているため、組織の目標に合わせた適切な指示を与え、部下が成長できるよう導くことが求められます。

S2:コーチ型

リーダーは指示型・教示型と同様に指示命令を与えますが、部下の意見やアイデアを引き出すために援助もします。リーダーの一方的な指示ではなく部下とのコミュニケーションを取りながら進めるスタイルです。

業務についてより深く知りたいという部下の意欲を失わせないよう、丁寧に関わる必要があるため、仕事の達成度を管理するだけでなく、部下との人間関係構築にも努める必要があります。

S3:援助型

意思決定は部下が行い、リーダーは部下が目標を達成するまでのプロセスを援助します。リーダーは意思決定の責任を部下と分かち合うスタイルです。

部下は自らの意思で仕事を進めることができるため、一つ一つのタスクに関する細かい指示ではなく、大まかな方向を示すことが部下のモチベーションの維持にもつながります。

S4:委任型

進捗状況の報告は受けますが、リーダーは意思決定と問題解決の責任を部下に任せるスタイルです。

ただし、「任せる」に当たっては部下が「業務や責任を押し付けられた」と感じないようにする必要があります。そのためには、信頼関係づくりに努めるとともに、部下の様子を見守り、そのことが部下にも感じられるようにする必要があります。

こうした使い分けに加え、部下の強み、弱みによってリーダーシップスタイルを使い分けながら対応するとより効果的です。

例えば、お客さんとのコミュニケーションを取ることが得意(強み)で、スケジュール管理が苦手(弱み)な部下の場合には、お客さんとの折衝についてはS3援助型やS4委任型、スケジュール管理については、S1指示型・教示型と使い分けて対応することができます。このように、一つの決まりきった型でリードするのではなく、部下の状況に合わせて変化させるのがシチュエショナル・リーダーシップというわけです。

シチュエーショナル・リーダーシップが有効な組織

組織に次のような課題がある場合はとくに、シチュエーショナル・リーダーシップが効果を発揮すると考えられます。 

  • リーダーがリーダーシップを発揮できていない
  • リーダーのリーダーシップの型が固定している
  • リーダーの部下育成力が弱い
  • リーダーと部下との関係性がよくないため、組織のモチベーションがあがらない

こうした課題があるケースでは、リーダーが、自分好みの決まりきったリーダーシップスタイルで全ての部下や状況に対応している可能性があります。その解決法の1つとしてSL理論が活用できるでしょう。

SL理論がもたらす組織へのメリットとは

部下が持っているスキル度合いやモチベーションはそれぞれ異なります。部下の状況に合わせて異なるリーダーシップを発揮するSL理論には以下のようなメリットがあります。

 部下の能力が上がる

それぞれの部下に合った指導ができるため、部下の能力を開花させやすくなります。目指す成果に向けて、個々の問題解決能力も高まります。 

定着率が向上する

部下の達成感や責任感、充実感が高まり、組織における自分の価値を感じられるようになることで、エンゲージメントが高まります。その結果、定着率の向上につながります。

コミュニケーションが改善する

それぞれの部下に合わせてスタイルを変えるということは、リーダーとしても、部下の状況や特徴をよく理解することにつながります。一人ひとりとのコミュニケーションが改善することは、職場のさまざまな問題を予防することにつながります。

シチュエーショナル・リーダーシップを発揮するために必要なこと

シチュエーショナル・リーダーシップは、複数のリーダーシップスタイルを場合によって使い分けるものであるため、チームや部下の様子を把握する観察眼や、相手によってスタイルを変えることをいとわない柔軟性が欠かせません。

 さらには、指示型、コーチ型、支援型、委任型というそれぞれのリーダーシップを発揮するためには、次のようなスキルも必要だと考えられます。

ティーチングスキル

開発レベルの低い部下に対しては、指導される側が理解しやすい教え方が求められます。

コーチングスキル

開発レベルが中~高程度の部下に対しては、相手が自ら答えを導き出せるようなサポートが必要です。

マネジメントスキル

開発レベルの高い部下に対し委任型のリーダーシップを発揮するには、任せながらマネジメントする力が問われます。

 

<関連URL>

ティーチング・コーチング実践習得

 

一人ひとりの部下の能力を高め、組織を活性化するために、複数あるリーダーシップスタイルを状況に合わせて使いわけるのがシチュエーショナル・リーダーシップです。リーダー側が身につけておくべきスキルは多くなりますが、うまく使い分けができれば、より効果的にチームをまとめ、成果を上げることにつながるはずです。