5分でわかるビジネストレンドワード
本気で解決するために!ハラスメントの種類を知る
職場におけるハラスメントが問題になるにつれ、「そんなこともハラスメントにあたるのか」というようなことが話題になり、ハラスメントを恐れるあまりコミュニケーション自体を避けてしまうケースも出始めています。ハラスメントに過敏になるのではなく、真に健全な職場環境を実現するためにも、改めてさまざまなハラスメントの種類を整理し、対策方法を考えてみましょう。
国の定義するハラスメントとは?
世の中ではさまざまな行為が「ハラスメント」と呼ばれていますが、厚生労働省により定義され、企業として相談窓口の整備が義務付けられているハラスメントとしては以下のようなものが挙げられます。
※以下、厚生労働省 ハラスメント裁判事例、他社の取組などハラスメント対策の総合情報サイト『あかるい職場応援団』より
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
パワーハラスメント(パワハラ)
厚生労働省の定義によれば、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」とされ、①~③のすべてに該当するものがパワハラとされています。
ただし、言い換えれば「業務上必要かつ相当な範囲」に収まる指導などはパワハラには該当しないことになり、この点が判断の難しさにつながっているとも言えます。
どのようなケースがパワハラに当たるのか?を考える関連記事
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
「『職場』において行われる『労働者』の意に反する『性的な言動』により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること」がセクハラと定義されています。
セクハラには、性的な言動を拒否するなどした際に解雇や降格などの不利益な扱いを受ける「対価型」と、性的な言動による不快感で就業に支障が生まれる「環境型」があります。
「性的な言動」としては、強制わいせつ行為などはもちろんのこと、次のようなことが含まれるとされています。
- 性的な事実関係を尋ねる
- 性的な噂を流す
- 性的な冗談やからかい
- 食事やデートへの執拗な誘い
- 個人的な性的体験談を話す
- 性的な関係を強要する
- 必要なく身体に触れる
- わいせつ図画を配布・掲示する など
妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ・ケアハラ)
妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する何らかの言動により、妊娠・出産した人や育児休業・介護休業等を申出・取得した人の就業環境が害されることをいいます。
なお、マタハラ(マタニティハラスメント)とは妊娠・出産した人に対するハラスメント、パタハラ(パタニティハラスメント)とは育児休業を利用した男性に対するハラスメント、ケアハラ(ケアハラスメント)とは介護休業を利用した人に対するハラスメントを指します。
これらは法的に定められたもので、たとえば「妊娠したことを伝えたら契約が更新されなかった」「育児休業を取得したら降格させられた」等の場合には、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法違反となります。
「パタハラ」を含め育児休業について考える記事
カスタマーハラスメント(カスハラ)
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とされています。
※厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル 」より
https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000894063.pdf
とくに下記のように「要求の内容が著しく妥当性を欠く場合」は、要求がどのようなものであってもカスハラに該当する可能性が高くなります。
- 企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
- 要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
また、要求の内容は妥当でも、要求を実現するための手段によってはカスハラに該当するとされています。
- 身体的な攻撃(暴行、傷害)
- 精神的な攻撃 (脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
- 威圧的な言動
- 土下座の要求
- 継続的 (繰り返し)、執拗な(しつこい)言動
- 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
- 差別的な言動
- 性的な言動
- 従業員個人への攻撃・要求 など
カスハラは顧客等の言動により発生するものであるため、企業としては、社内での防止策ではなく、カスハラが起こった場合にどうするかが問われることになります。
カスハラ対策に向けた準備を考える記事
就活ハラスメント(就活ハラ)
パワハラやセクハラの中でも、就職活動中やインターンシップの学生等、立場の弱い人に対するものとしてとくに注意が呼びかけられているハラスメントです。
こんなことも?いろいろな「ハラスメント」
法的な規制を含め、厚生労働省が注意を呼び掛けているハラスメントの他にも、「職場のハラスメント」としてさまざまなタイプが存在します。たとえば以下のような「○○ハラ」と言う言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。
モラルハラスメント(モラハラ)
言葉や態度などによって人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせること。
アルコールハラスメント(アルハラ)
お酒の席での嫌がらせや迷惑行為、人権侵害。飲酒の強要、イッキ飲みをさせる、酔って行う迷惑行為などがあります。
リモートハラスメント(リモハラ)
オンライン環境で起きるハラスメントのこと。過剰な監視(常にカメラをオンにさせるなど)、カメラに映る内容によるプライベートへの言及などが特徴的です。
テクノロジーハラスメント(テクハラ)
デジタル機器に弱い人に対する嫌がらせのこと。できないことを侮辱する、わざとPCスキルの必要な仕事をさせる、わざとIT用語を多用した話し方をするなどがあり、部下から上司に行われることもあります。
不機嫌ハラスメント(フキハラ)
不機嫌な態度を取ることで周囲を嫌な気持ちにさせたり、威圧感を与えたりすること。本人が意識していない場合もあります。
スメルハラスメント(スメハラ)
口臭、体臭、香水の匂いなど、匂い=スメルで周囲に不快な思いをさせること。本人には嫌がらせをする意図はない場合がほとんどです。
ホワイトハラスメント(ホワハラ)
上司の過剰な配慮により、部下にプレッシャーを与えたり、結果的に部下の成長の機会を奪うこと。
このように、「ハラスメント」を表す言葉にはさまざまなものがありますが、改めて考えてみると、本質的にはパワハラやセクハラなどに該当する場合が多いとも言えます。
たとえば、モラハラ、アルハラ、テクハラなどは、職場における立場の違いを背景に行われた場合、それは一種のパワハラだと言えるでしょう。フキハラも、それが意識的に行われているのであればパワハラと同等と考えることができそうです。リモハラの「過剰な監視」もパワハラの一種と考えられますし、プライベートへの介入は内容によってセクハラに当たります。
一方で、スメハラのように本人に嫌がらせの意図が全くない場合、本来はハラスメントと呼ぶべきことではないかもしれません。ホワハラも嫌がらせの意図はないと思われますが、場合によってはパワハラの一種である「過小な要求(能力に合う仕事を与えない)」に当たる可能性には注意が必要です。
ホワハラの問題点について考えるコラム
ハラスメント問題の解決に必要なこと
厚生労働省では、ハラスメント防止対策として、事業者に下記のようなことを義務付けています。
事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
ハラスメントの内容を明確化し、行ってはならない旨を周知徹底すること。
相談体制の整備
相談窓口を設置し、適切に対応できるようにすること。
事後の迅速な対応
ハラスメントが起こった場合に事実関係の確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止措置などを行うこと。
妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因の解消
ハラスメントが起こらないようにするために業務体制を整備するなど。
その他、カスハラについては被害防止に向けたマニュアル作成や研修の実施も推奨されています。
また、パワハラについて「意識しすぎると指導や教育ができない」という声を受け、コミュニケーションを円滑にするためのスキル、たとえばアサーション、アンガ-マネジメントなどのスキルの習得が推奨されています。
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このように見てくると、ハラスメント問題は、従業員が「どのような行動がハラスメントにあたるのか」をしっかり理解することと、従業員のコミュニケーションのスキルを上げることで解決できる部分が多いと考えられます。相談窓口の設置など体制づくりと並行して、研修を通じて学ぶ機会を設けることにも大きな意義があると言えるでしょう。
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