ローランドDG【OJTトレーナー養成】
毎年改善を重ね、「学び合い」の風土を醸成
ローランドディー.ジー.株式会社 人事総務本部人事サービス部 係長 三室 辰徳さん ・ 主任 牧原 美穂さん
「大型カラープリンタ」「3D」「カッティング・マシン」などを提供しているローランドDG。 同社では年々改善される新入社員研修により若手を育成、さらにはそれを通して、 部門間の風通しが向上、「学び合い」の風土が醸成しつつある。
まずはローランドDGをより好きになってもらいたい
ローランドDGの製品は、世界200以上の国・地域で販売され、海外売上比率は8割強にもなる。そうしたなか、社員一人ひとりの成長が会社全体の力の向上につながると同社では考えている。だが、今までは「教育体系が1つの流れとしてうまく機能していなかった」と、人事総務本部人事サービス部の三室辰徳氏は明かす。そこで数年前からまずは若手層の教育から本格的に改善に着手。三室氏は主任の牧原美穂氏とともに、新入社員研修とOJTトレーナー研修を中心に整備してきた。 同社の新入社員研修は現在、4月からの3カ月間。約10日の「座学研修」終了後、「製造研修」「営業研修」などで各部署を回り、それぞれの研修の最終日に発表する。座学研修の初日に、同社の経営理念である「創造、BEST、共感」とは何か、「DGらしさ」とは何かを問い、「決意表明シート」に書かせることが特徴だ。「『DGらしさ』に答えはないが、一人ひとり心の中にもっているべきもの。それが何なのかを、各部署を回る中で徹底的に考えてもらう。この研修でローランドDG をより好きになってもらいたい。スキルは後からついてくる」と三室氏は狙いを説明する。 この研修は本来の目的以外の効果をもたらしている。牧原氏は「さまざまな部署を回ることで多様な社員と出会い、つながりができる。加えて新入社員には『部署間のコミュニケーションがまだ不十分』など社員にはない気づきがあり、それを我々に対して進言してくれ、社内改善に活かせる」と話す。 改善活動も行う「製造研修」では、製造部門における課題に取り組んだところ、すぐにも現場で活かせそうな案も出た。「新入社員ならではの新鮮な見方で課題解決に挑み、現場にもメリットが生まれている」と、三室氏は相互でWin-Winの関係構築が進み出した様子を語る。
年々改善を重ね、好循環を生み出す
同社の新入社員研修は、かつては「座学」と、製品組立などを行う「製造研修」のみだった。技術スキルは磨けるが、その意味を問い直す必要性が指摘され、4年前から改革を開始。そして、「製造研修」では組立作業に加え、オペレーター管理も学び、さらに課題に取り組み、それを週1回ディスカッションをして発表するプログラムにした。 改革2年目には、それまで製造研修前に実施していた配属部署の発表を、3ヶ月間の新入社員研修全体の最終日に変更。「こんなことを学ばせてほしい」と、各部署から個別注文が入るのを避けるためだった。「配属先に役立つ研修ではなく、トータルでものづくりを見られるようにしたい。新入社員はもちろん配属先の社員であるが、その前にローランドDGの社員であり、皆で育てるのだという意識にしたかった」と、三室氏は思いを語る。 ただ、配属決定が早ければOJTトレーナーも早く決定でき、研修期間の段階から、新入社員のメンターとなることができる。その役割を、3カ月間は人事が担当することにした。牧原氏は「『現場の人が親切』『楽しい』という声が多く、『無理なく研修ができている』と人事として確認できてよかった」と話す。 改革3年目には、「営業研修」も追加。東京営業所において営業に同行し、顧客ニーズを実際に感じてもらったり、展示会に足を運んで得たヒントにより自社製品のものづくりを提案させたりした。「終了後、営業から『自分を見つめ直すいい機会になった』『若い人のエネルギーもらった』など、感謝の メールを複数いただき、非常にうれしかった。研修を受け入れる側にも学びになったようだ」と、三室氏は喜ぶ。 JMAの協力を得て、「新入社員フォローアップ研修」もスタート。入社後の約1年でできるようになったことや2年目の自分への期待や課題を整理する目的で、年度末の3月に2日間実施した。グループワークや演習を行い、動画を使って発表もする。「入社当初おどおどしていた新入社員が堂々と発表す る姿に、1年間の大きな成長を実感した」と三室氏は話す。 そして4年目の今年度は、営業研修の期間を2週間から3週間に増やし、名古屋、大阪営業所での研修も追加。新入社員の発表により「新製品開発だけでなく、既存製品をどう提供するかなど、気づきを得られた」と、ここでも営業から評価が得られた。
OJTトレーナー研修の充実でさらなる効果につなげる
こうした新入社員研修の一方で、配属前の6月に新入社員を育成するトレーナーに対して、2日間の「OJTトレーナー研修」を実施。7月から始まるOJTに向け、トレーナーとしての心構えやメンタルヘルスなどを学ぶ。これまでも外部研修を受講するなどトレーナー教育はしてきたが、2012年度からJMAの支援を受けながら、自社に合わせて充実させた。 具体的には「業務遂行面」「対人能力面」「姿勢・規律面」などについて、どんな段階を踏んで指導し、OJT終了後にはどうありたいかを明確にする「育成計画表」を作成して、これを元にトレーナーと新入社員、所属長の3人で内容を確認して人事に提出する。7月からのOJTでは、それと合わせて「新入社員OJT実施記録表」を活用、これには12月までの毎月、新入社員の感想に対し、トレーナーが「アドバイス」を記入、9月と12月には所属長のコメントも加わる。 「これまでは、計画表をつくった後は現場任せ。それを中間で振り返ったり、達成状況を求めたりするなどして、次に繋がるようにし、PDCAが回るように改善した」と三室氏は説明する。また実際、毎年7~8人が配属される開発部門では、同数のトレーナーのうち、1~2人が翌年のトレーナーのアドバイザー的な役割として残り、その年のトレーナーの相談にのったりするなどして「うまく関わってくれている」(三室氏)。 OJTトレーナー研修と新入社員フォローアップ研修の講師が同じというのも、効果を大きくしている。新入社員が研修により、どう成長していったかを、翌年度のOJTトレーナー研修で伝えることができるからだ。それがトレーナーのモチベーションアップにもつながっている。 こうして毎年少しずつ改善するなか、受け入れ側が研修に関するアイデアを提案してくれるなど、若手を「皆で育てる」という意識になりつつある。三室氏も牧原氏も、「新入社員の育成を通して、いろいろな部門の垣根を越えて一緒に取り組めるようにもなってきた」と組織の変化を喜ぶ。 「ありたい姿は、社内に学びの風土ができること」と話す三室氏は、「新入社員だけでなく、我々人事スタッフも含めて、皆で学び合える姿が理想。内容自体はまだ手探り状態だが、改善点を洗い出し、もっとブラッシュアップしていきたい」と意欲的だ。 同社の取組みは回り始めたばかりだが、現在の若手が中堅になる頃には、さらに充実した研修が行われ、同社のさらなる発展に貢献していくことだろう。(聞き手:日本能率協会 小関俊洋)
OJTを中心に社員教育を考えている企業は多いですが、OJTトレーナーに対する教育は必ずしも十分ではなく、担当者によって、育成方法にばらつきが生じています。そのことにより、新人~若手社員の成長度合いが属人的になっているという企業も多いのが現状です。JMAのOJTトレーナー研修では、「指導方法」「面談方法」並びに「メンタルヘルス管理」まで体系的に学ぶことができます。「 新人・若手社員が戦力化しない」「早期離職が目立つ」という課題認識をお持ちのご担当者様、まずはJMAにお気軽にお問い合わせください。