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今「オーセンティック・リーダーシップ」が注目される理由

公開日:2024/05/02 更新日:2024/05/02

近年、「オーセンティック・リーダーシップ」というリーダーシップが新しいリーダー像として注目されています。時代やビジネス環境の変化に合わせて、リーダーシップも変化している中で、従来のリーダーシップとは特性が大きく異なるのが特徴です。今の時代に求められている背景や身につける方法について紹介します。

リーダーシップ

オーセンティック・リーダーシップの意味

「オーセンティック」とは、日本語では「本物の、真の、れっきとした」という意味を持ち、「その人本来の在りよう」や「自分らしい状態」のことを表します。つまり、オーセンティック・リーダーシップとは、誰かの真似ではなく、自らの倫理観を重視し、自分自身の価値観や信念に根ざしたリーダーシップだということになります。誰もが「自分らしさ」を発揮することでリーダーになれるという考え方とも言えます。

2000年代に入って注目され始めた概念で、それまでの、「リーダーはこうあるべき」というリーダーシップのあり方とは特性が大きく異なります。

オーセンティック・リーダーシップが注目された経緯

「オーセンティック・リーダーシップ」という言葉は、2003年に世界的医療機器会社Medtronicの元CEOで現ハーバードビジネススクール教授である、ウィリアム・W・ジョージ氏(William W. George)が「ミッション・リーダーシップ」という著者の中で提唱したことから広がったといわれています。さらに2018年頃からATD(※)国際会議でもたびたび話題になり、注目度が高まっています。

※ATD(Association for Talent Development:タレント開発協会)とは、1943年に設立された産業教育に関する世界最大の会員制組織(NPO)。年1回国際会議が開かれている。

こうなってきた背景には、昨今のビジネスを取り巻く環境変化の激しさがあると言えるでしょう。変化の激しい環境では、リーダーの下した判断もすぐに古くなり、正しいものではなくなくなってしまう可能性があります。そんな中でも、価値観や信念といったものは大きく変わらないもものであり、これをもとに組織を率いていれば、さまざまな変化に振り回されない強い組織を作ることができると言えます。 

こうした事情もあって近年は、環境や社会を意識し、長期的な視点を持ったESG経営が注目され、社会性と倫理性が企業の存続にとっても不可欠なものとなっています。消費者も組織で働く従業員も、組織のパーパス(志)を重視するようになってきている社会的背景に、自分の価値観や考え方に根ざして人を導く「オーセンティック・リーダーシップ」の考え方がマッチし、広く普及したとも考えられます。

なお、リーダーシップに関する最近の傾向として、一人の強いリーダーをいただくトップダウン式の組織より、一人ひとりがリーダーシップを発揮するボトムアップ型の組織を目指す動きがあります。各自の価値観や信念に基づくオーセンティック・リーダーシップであれば、より多くの人が発揮しやすく、こうしたボトムアップ型の組織づくりに役立つとする考え方もあります。

オーセンティック・リーダーシップの特性

オーセンティック・リーダーシップの概念を世間に広めたウィリアム・W・ジョージ氏は、オーセンティック・リーダーに求められる特性として以下の5つを挙げています。

  • 目的観自らが果たすべき目的をしっかり理解している
  • 価値観自らが重視する価値観や倫理観に基づいて忠実に行動する
  • 情熱的周囲に本音で語りかけ、情熱的に人をリードする
  • 人間関係お互いが支援しあえる人間関係を築く
  • 自制自らを律し、学び続ける姿勢をもつ

これらの特性を通じて描き出されているのは、ビジネス環境が激変する今、「自分の強みや弱みをしっかりと見つめたうえで、自分らしさに基づいてリーダーシップを発揮し、その結果、周囲が自然と動き出す」というタイプのリーダーシップといえるでしょう。

オーセンティック・リーダーの育成法

オーセンティック・リーダーには「倫理観」が伴った「自分らしい行動」が求められます。こうしたリーダーを目指すには、まず自分自身の「倫理観」をあらためて理解し、その倫理観に伴った行動ができているかを確認することが必要です。

こうしたことから、オーセンティック・リーダーシップを身につけるには、以下の4つのステップが必要だとされています。

自分自身を理解する

自分の強み・弱みを理解し、自分の態度が周りにどのように理解されているかを把握します。また、自分のとった行動に対して、納得できる行動、納得できない行動がどのようなものか確認し、自分はどのような行動をすべきだと考えているかについて、自ら観察します。

自分の倫理観を理解する

自分が社会や企業など、周囲に対して公平であるために、自分がもつべき倫理観について理解します。

自分の行動を確認する

自分のとった行動が、自分の目指すべき目標や重視する価値観や倫理観に沿った行動になっているかを確認します。

周囲と透明性のある関係性を保つ

周囲とのコミュニケーションや行動が公平で、秘密を持たない関係性になるように意識します。

 

こうしたことについて、研修などの場を設けて学ぶのであれば、たとえば各自が重視する価値観や倫理観について考えるワークを実施し、各々の考え方について話し合ったり、社内で実際に起きたできごとを題材に、倫理的に考えてみるのもよいでしょう。

社員が自らの倫理観について考え直すことは、社内のコンプライアンスの強化にも繋がります。今後の新しい組織づくりのためにも、オーセンティック・リーダーシップについて学んでみるのもよいかもしれません。