失敗しない研修計画
OJTで真の効果を出すために必要なこと
新入社員研修を終えると、それぞれの社員が現場に配属され、実際の業務に当たりながら仕事を覚えていくことになります。こうした育成をOJTと呼び、先輩社員などトレーナー役をつけて実施している企業も多いことでしょう。しかし、教育の専門家が行う研修などとは異なり、現場で行うOJTには、効果にムラが出やすいという問題もあります。より効果的なOJTを行うためのポイントは、どのようなところにあるのでしょうか?
OJTとは何か。OFF-JTの違いとは?
OJTとは、“On-The-Job Training”の頭文字を取った語であり、仕事の現場で、社員を実際の業務に当たらせなから行う育成のことを言います。一般的に、上司や先輩社員がOJTトレーナーとなり、指導役を務めます。
対義語としてはOFF-JTという語があります。こちらは“Off-The-Job Training”の略であり、仕事の現場を離れて行う育成全般のことを指します。「日常の業務とは別に時間を取って行う育成」と言うこともでき、企業が実施する研修はOFF-JTの代表的な手法と言えます。その他、業務のためのeラーニングやセミナー参加、各種スクールでの学習などもすべてOFF-JTにあたります。
日本でのOJTは、とくに新入社員の育成手法として、高度成長期以来多くの企業で取り入れられてきた経緯があり、厚生労働省が発表した2022年度「能力開発基本調査」の結果でも、6割を超える企業が正社員に対して計画的な(※)OJTを実施しています。
※OJTのうち「教育訓練に関する計画書を作成するなどして教育担当者、対象者、期間、内容などを具体的に定めて、段階的・継続的に実施する教育訓練」のこと(厚生労働省「能力開発基本調査」用語の説明より)
OJTならではのメリット
研修などのOFF-JTにはないOJTのメリットとして、次のようなことが挙げられます。
即戦力が育成できる
現場の業務を通じて学ぶため、仕事の進め方が身につくのはもちろん、職場でのコミュニケーション、トラブル対応など、さまざまな実践力が身につきます。インプットとアウトプットを短期間で経験できるため、学んだことの定着も早く、早期に即戦力として育成できます。
個人の特性に合わせた指導ができる
基本的にはマンツーマンの指導となり、任せる業務の量や内容を調整できるので、対象者の個性や資質に合わせた指導ができます。
コミュニケーションの活性化
OJT対象者(育成される人)に周囲が教える、OJT対象者が周囲に質問をするというやり取りが生まれることで、部署内のコミュニケーション量が増えます。コミュニケーションが活性化すると、従業員エンゲージメントの向上や生産性の向上など、さまざまなメリットがあるのは言うまでもありません。
指導する側も成長する
OJTトレーナーは、年齢的に新入社員に近い若手社員が務めることも多いですが、この場合、育成される新入社員だけでなく、育成する側の若手社員も成長が期待できます。新入社員が分かるように伝えるためには、トレーナー側も仕事を深く理解している必要があるからです。新入社員への業務の割り振り方など、指導方針を考えることがマネジメント力を磨くことにもなります。
離職率が低下する
近年の若者の離職理由の一つとして「仕事を教えてもらえない」ことがあると言われています。OJTを効果的に実施でき、現場の業務に即した育成ができれば、新入社員の離職率を下げる効果も期待できるはずです。
OJTのよくある問題点とその解決法
OJTは、業務の現場で、上司や先輩社員の指導のもとに行われるものです。OJTによって起こる問題は、こうした特有の事情によるものがほとんどです。
指導する側のスキルに左右される
OJTトレーナーとも呼ばれる指導役は、上司や先輩社員が務めるのが一般的です。これらの人々は当然ながら育成の専門家ではありません。また、成果を挙げている社員がトレーナーとしても優秀とは限りません。そのため、「誰が指導するか」によって成果にもバラツキが生まれがちです。
こうした問題を解決するには、OJTトレーナーを務める側が研修を受けるなどして、スキルを身につけておくことが有効です。
関連リンク
・新入社員育成担当者・OJT指導者のための研修
・【事例】ローランドDG【OJTトレーナー養成】
業務の遅延・停滞が発生する
指導役を務める上司や先輩社員にも通常の業務があります。OJTトレーナーとして指導に時間を割いたり、ときにはミスをカバーしたりする役割を果たすうち、彼ら自身の業務が滞ってしまう恐れがあります。
そうならないためには、OJTトレーナーの業務を他のメンバーで分担するなど、組織全体としての対応を考えておく必要があります。
OJT対象者が放置されたと感じる
「やっておいて」と業務を割り振られたことを「放置された」と感じる新入社員も多いようです。こうした問題は、教え方が断片的である、マニュアル化されていないなどの理由で、するべきことがよく分からない場合、指導する側が忙しすぎる場合などに起こりがちです。さらにリモートワーク下では、分からないことを気軽に質問し辛いこともあり、OJT対象者も不安を感じやすいようです。
こうした事態を避けるためにも、OJTの基本とされる以下のステップを常に意識しておきましょう。
①手本を見せる
OJTトレーナーが自らやってみせます
②説明する
やってみせたことについて、理由やコツなどを伝えます。疑問があればこのときに解消できるようにします。
③やらせてみる
OJT対象者に実際に取り組ませます。必要なときに手助けができるよう見守ることも重要です。
④評価・指導する
取り組んだ業務についてできたこと、できていないことを評価し、フィードバックします。
理想的なOJTとはどのようなものか?
OJTでより一層の効果を上げるために忘れてはならないことは、「単に仕事を経験させる」だけでは足りないということです。
重要なのは、対象者本人の特性と、この先のキャリアプランを見据えた上で、やや歯ごたえのある仕事に取り組ませることです。こうした仕事を成し遂げることは、社員にとって「よい仕事体験」となり、成長を促進することにつながります。
なお、こうしては、新入社員のOJTに限らず、次世代リーダー育成などより長期的な人材戦略の場面でも重要なものです。「実務を通して学ぶ」というあらゆるOJTの場面で、常に意識しておくべきポイントといえるでしょう。