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良好な「オフボーディング」で退職者と良い関係を築く
人材不足で、企業がこれまで以上に採用ブランディングに心を砕く中、注目されている施策の一つがオフボーディングです。退職する社員に関する一連の手続きを意味する言葉ですが、なぜそれが採用と関係するのでしょうか。オフボーディングの意義と進め方について紹介します。
オフボーディングとは何か?
人事におけるオフボーディングとは、従業員の退職に関する手続きのことです。一般的にイメージされるのは、契約の終了に伴うさまざまな事務手続きでしょう。
オフボーディングと対になる概念に「オンボーディング」があります。こちらは新しく入社した社員を対象に行う施策のこと。社員が企業に馴染み、早く力を発揮できるようにするもので、新入社員のモチベーションアップやエンゲージメントの向上、早期離職の回避などにつながります。
一見全く異なるもののように感じられるオンボーディングとオフボーディングですが、実は共通する効果があります。それは、「進め方次第で企業と社員がよい関係をつくることができる」ということです。「新しく入社した社員」と「退職者」という大きな違いはありますが、オフボーディングにはオンボーディング同様、社員にとっての企業のイメージを高める効果があるのです。
なぜ注目されるのか?
オフボーディングが注目されるようになった背景には、次のような事情があります。
アルムナイ入社への注目の高まり
「アルムナイ」とはもともと「卒業生」「同窓生」といった意味で、アルムナイ入社とは「離職者が再び入社する」ことを意味します。人手不足が問題となっている現在、アルムナイ入社が注目され始めたのは、新たな人材を採用するよりも、企業の内情を知っている離職者を再雇用するほうが人材のミスマッチが少ないというメリットがあるため。こうした再雇用のためには退職者とも良好な関係を築いておくべきだと考えられるようになり、オフボーディングが注目されるようになりました。
SNSの浸透
SNSによる個人の情報発信が増えたことによって、退職時の対応が悪いとSNSに書き込まれ、企業イメージが低下するリスクが高くなりました。優れた人材を募集するためには、こうしたイメージダウンを生まないよう注意を払う必要があり、その一環として、退職者と良好な関係を築くオフボーディングの必要性が高まっています。
良好なオフボーディングの進め方
退職者との良い関係を築くためのオフボーディングの大まかな進め方をご紹介します。
退職者の公表
余裕を持って引き継ぎを進めるためにも、社内に退職予定の社員がいることを公表します。
必要な書類の準備
源泉徴収票と離職票は退職後に必要な書類です。退職者から要求される前に準備をし、当日までに渡せるようにしておきましょう。
業務の引き継ぎ支援
退職者がいなくなっても業務が滞らないよう、顧客情報やノウハウを引き継ぐ支援をしっかり行いましょう。
面談
退職者に対して面談を行います。会社への不満やキャリアプランの不適当などの意見を聞くのが一般的で、「退職は悪と捉えない」姿勢を示すことが重要です。
会社資産の回収
会社から貸し出したパソコンなどは、退職日の当日までに必ず回収します。データの消去が不十分だと、社内情報が漏えいする危険性があることを忘れないようにしましょう。
社内へのアクセス制限
退職者とは退職後も連絡を取り合うこともあるはずですが、社内で使用していたアカウントは使わないようにしてアクセス制限を行いましょう。これも社内情報の漏えいを防ぐためです。
退職後の定期連絡
退職後も退職者が参加できる同窓会などを定期的に行うとよいでしょう。退職者同士、退職者と企業が連絡を取りやすい環境作りに一役買います。
オフボーディングに取り組むことによるメリット
オフボーディングに取り組むメリットとしては、下記のようなことが挙げられます。
リスク回避
丁寧なオフボーディングに取り組めば、「退職時の対応が悪かった」というブランドイメージの低下リスクを回避できるでしょう。また引継ぎがスムーズにいかなくて業務が滞るというリスクを防ぐことにもつながります。
企業ブランド向上
退職時の対応が良いと、退職者にとっての企業の好感度は高まります。転職先で、または独立後の業務の中で、人やSNSを介してマイナスよりプラスの情報の方を広めるなど、めぐりめぐって企業ブランドの向上につながるでしょう。
アルムナイ採用やリファラル採用の成功
退職者と会社の間で良好な関係が築かれていれば、アルムナイ採用やリファラル採用の可能性が生まれます。リファラル採用とは、自社の従業員から推薦された知人などを採用する手法のこと。こうした採用手法により、会社に適した優秀な人材が集まりやすくなるはずです。
その他の効果
他の社員の離職率の低下
オフボーディングでは退職者に対し面談を行う施策がよく使われます。意見を聞くことで、退職者の不満や意見を知ることができるため、既存の従業員の労働環境を見直すきっかけになり、離職率の改善が期待できるかもしれません。
急な退職の防止
オフボーディング時の面談で「退職は悪と捉えない」姿勢を示すことで、退職を考え始めた社員が早期に相談するようになり、急な退職を防げる可能性が高まります。
退職希望社本人の引き止め
良好なオフボーディングに取り組む姿勢を示すことで、退職の意志をやわらげる効果もあり得ます。
オフボーディングの成功のポイントは、「退職者が気持ちよく退職するにはどうしたらいいか」という視点をつねに持って行うことです。事務的になりがち、あるいはマイナスな感情が働きがちな手続きも、この点を視野に入れて行うことで、退職者と将来的に良い関係を築くことにつながります。企業としてのイメージアップのためにも、見直してみてはいかがでしょうか。
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