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1on1やコーチングも欠かせない「傾聴」について考える
1on1やコーチングを実施するに当たっては「傾聴」のスキルが必要だといわれます。しかし、いざ傾聴とは何か、どのように実行すればよいかと言われるとうまく説明できないといった声もあるようです。ここでは、今さら聞けない「傾聴」について、実践ポイントやメリットを確認します。
傾聴とは何か?その定義
傾聴は英語ではActive listening(アクティブリスニング)と呼ばれ、「相手の話に意識を集中して積極的に話を聴く」会話の技術です。もともと心理学のカウンセリングで使われていましたが、近年はさまざまなビジネスシーンでも信頼関係を築く手段として活用されています。傾聴と似た意味で「ヒアリング」という語も聞きますが、こちらは情報収集し問題を解決することが目的。一方「傾聴」は、相手の状態を理解し、気持ちや考えを汲み取ることを目的とします。
傾聴の概念を提唱したのは、アメリカの臨床心理学者でカウンセリングの基礎を築いたカール・ロジャースです。傾聴に必要な3つの要素「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」は「ロジャース3原則」として知られています。
共感的理解
相手の話を聴く際に相手の立場に立って、相手の気持ちや感情を理解する姿勢を持つことです。
無条件の肯定的関心
自分の価値観や先入観によって相手の善悪や好き嫌いの判断をせず、相手の話を肯定的に受け入れ聴くことです。相手が「なぜそのような考えを持ったのか」と、話の背景に関心を持って聴きます。これにより、話し手は安心して話すことができます。
自己一致
聴き手が相手に対してだけでなく、自分に対しても真摯な態度を持って接することです。話を聴いていて分からないことは、そのままにせず聴き直すのが真摯な態度です。
また「傾聴力」は2006年に経済産業省が発表している「人生100年時代の社会人基礎力」の中の「チームで働く力」に必要なスキルとして挙げられています。指導育成のためだけでなく、仕事を円滑に遂行するために重要なスキルと言えるでしょう。
傾聴が効果を発揮する場面
さまざまなビジネスシーンで役立つ「傾聴」ですが、どのような場面で効果を発揮できるのか、具体的な場面を見てみましょう。
メンバーの育成
リーダーが自分の意見を押し付けず相手の立場に立って話を聴くことで、メンバーが自分の考えを言いやすい雰囲気が作れます。こうして信頼関係ができたうえでリーダーがコーチング手法を用いるとより効果的です。
顧客との関係づくり
顧客の話をしっかりと聴き、共感することで顧客の要望やニーズを引き出しやすくなります。顧客は「自分の話を理解してもらえた」と感じ、関係性も高まります。的確な提案にもつながりやすくなります。
従業員のメンタルケア
傾聴により従業員が抱えている悩みや本心などを引き出せるようになると、従業員のストレス軽減が期待できます。適切な配置転換などにつなげることもできるでしょう。
採用面接
採用時の面接では、相手の本音を引き出すことも重要なポイントです。傾聴が本音を引き出しやすい雰囲気づくりにつながります。
傾聴を実践する主なポイント
傾聴を実践するためのポイントには次のようなことがあります。日頃から意識し、トレーニングすることが重要です。
話を最後まで聞く
聞き手は途中で自分の意見を言いたくなる気持ちを抑えて、相手の話を最後まで聞きましょう。そのことが「この人は話を聞いてくれている」という安心感を聞き手に与えます。
相づちを打つ
ただ聴くのではなく、「なるほど」「そうなんですね」など相づちを打つことで、相手が話を続けやすくなります。
質問する際は5W1Hを意識する
相手から具体的な情報を引き出すためには、相手も答えやすいように質問には5W1Hを組み込んでみましょう。
オープンクエスチョン
「はい」「いいえ」で答えられる質問ではなく、「これについてはどう思いますか?」「どうしてそう思ったの?」など、相手の会話の幅を広げるための質問方をしてみましょう。
相手の発言を言い換える・繰り返す
相手が話した内容を自分の言葉で言い換えたり、相手の話をそのまま繰り返したりすることで、「内容を理解してもらえている」という安心感を与え、聞いている姿勢を伝えられます。
ミラーリング
しぐさや姿勢を真似ることをミラーリングといい、相手に親近感を与える効果があります。声のトーンやスピードなど話し方を相手に合わせる、声のミラーリングも効果的です。
会話の割合は聴く:話す=7:3
うまくいく傾聴の会話の割合は、聴くが7割、話すが3割がバランスがよいとされています
傾聴はする側にとってもメリットがある
傾聴は、話し手(傾聴される側)にだけでなく、聞き手(傾聴する側)にもメリットがあります。それは、相手の話を相手の立場で聴けるようになるため、自分の立場から見えることと相手から見えることとの違いに気づけるようになることです。
たとえば、自分では正しいと思ってやったことが相手にとってはストレスであると分かる場合もあるでしょう。こうして客観性が磨かれることで、自分の行動や感情のコントロールができるようになり、さらに良好な人間関係が構築できるようになるはずです。
傾聴は多様化の時代にも重要なスキル
昨今のビジネス環境はますます多様化し、組織内でもダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進が求められています。D&Iの阻害要因として挙げられることの一つに、私たち個人が抱えている認知バイアスや思い込みがありますが、傾聴によって相手の状態を理解し、気持ちや考えを汲み取ることはこうした思い込みの解消につながります。結果としてチームの心理的安全性が高まり、D&Iの促進にもつながることでしょう。
また、変化の早いビジネス環境に対応するには、自社だけでなく外の組織とともに協働にあたるオープン・イノベーションが必要と言われますが、文化の違う他組織の価値観を理解するためにも、傾聴のスキルは役立ちます。
このように、傾聴のスキルは個人にとって、また組織にとって役立つスキルと言えます。改めて、組織全体で向上に取り組んでみるのもよいかもしれません。
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