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「ホワイトハラスメント」はハラスメントか?

公開日:2024/10/17 更新日:2024/10/17

あるドラマをきっかけにSNSでバズワードとなった「ホワイトハラスメント」という言葉。ハラスメントに対する社会の目が厳しくなっている昨今、「こんなこともハラスメントになるのか」と話題になりましたが、そこには案外、さまざまなハラスメント問題の本質が隠れているかもしれません。

ホワハラ(ホワイトハラスメント)とは何か

「ホワハラ」という言葉は、あるテレビドラマで、主人公が部下に対し「私がこの仕事をやっておく」「残業はしなくていい」と伝えたのに対し、部下が「ホワハラだ」と訴える形で登場しました。SNSでは、ドラマを見ていた視聴者による、「こんなことがハラスメントになるのか」「いや、これは後輩の業務経験を奪う行為だ」といった声が飛び交い、一気にバズワードとなりました。

こうしたことを踏まえ、改めて「ホワハラ(ホワイトハラスメントの略)」とは何かと考えると、上司が従業員や部下に対して過剰な優しさや配慮を示した結果、部下にプレッシャーを与えたり、結果的に部下の成長の機会を奪ったりすることを指すといえそうです。           

ホワイトハラスメントは本当にハラスメントなのか?

ホワハラがハラスメントとして成立するのかを考えるために、パワハラ(パワーハラスメント)の一般的な定義と比較してみましょう。

厚生労働省によると、職場におけるパワーハラスメントは、

1、「優越的な関係を背景とした言動」であって

2、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により

3、「労働者の就業環境が害されるもの」

という3つの要素を満たすものが当てはまるとされています。

また、パワハラの型を示す「パワハラ6類型」には、「精神的な攻撃」「身体的な攻撃」「過大な要求」「過小な要求」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」があるとされています。

今回のケースを、「上司がやる気がある部下に対し、適切な責任や仕事を与えず、一方的な判断で部下の成長機会を奪っている」と捉えるならば、パワハラの6類型のうちの「過小な要求」に当てはまるかもしれません。

「過小な要求」とは、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、あるいは仕事自体を与えないといったいやがらせ行為のことを指します。例として「運転手なのに草むしりだけを命じられた」「他の社員とは一緒に仕事をさせてもらえず、別室で簡単な軽作業をするように言われた」「学校の先生なのに、授業を持たせてもらえず掃除だけやるように言われた」などのケースが該当します。「ホワハラ」という言葉が誕生する以前から、似たようなハラスメントは存在していたといえるでしょう。

ホワハラが誕生した背景にあるものは?

とはいえ、今回のドラマの主人公に嫌がらせの意図はないように感じられます。では、なぜ「ホワイトであること」がハラスメントと捉えられてしまうのでしょうか。

その背景には、2020年に施行された改正労働施策総合推進法「パワハラ防止法」の影響がありそうです。「パワハラ防止法」の施行は、上司などの優越的な立場にあるものからの「精神的な攻撃」や「身体的な攻撃」などのハラスメントに、世間の厳しい目が向けられるきっかけとなりました。 

これに伴い、自らの発言や行動が「パワハラ」とみなされないよう、部下や後輩とのコミュニケーションを控える上司も増えています。こうして上司が部下との接し方に悩み、「部下を注意したくてもできない」「残業になるから部下に仕事を依頼できない」というように、いわば過剰に気遣った結果、部下がかえって不安や不満を感じる事態を招いてしまうのがホワイトハラスメントだと言えそうです。

ホワハラの本質はコミュニケーションの問題

このように考えると、上司がパワハラにならないよう気遣い過ぎて部下とのコミュニケーションを控えた結果が「ホワハラ」につながることになります。

たとえば、上司が部下に対して「残業をお願いしたらパワハラになるからお願いできない」と思っているのに対し、部下は「残業してでもこの仕事をやりきりたい」と思っている場合もあります。しかるべきコミュニケーションが行われていれば、この日は部下が残業をすることで仕事は進み、部下も達成感を得られるかもしれません。しかし、お互いが遠慮したままでは、自らの考えが相手には伝わらないだけでなく、本来発生しないはずの不満にもつながってしまうのです。

つまり、「ホワハラ」のような事態が生まれる原因は、双方向のコミュニケーション不足と言えるでしょう。「ホワハラ」が起こるのを阻止するためには、上司と部下の双方がお互いにしっかりと意思を表明し、相手の意見や考えを理解する必要があるのです。

具体的には、上司が部下の個性を理解し、それにマッチしたコミュニケーションを取りながら部下の成長をサポートすることが重要です。一方で部下も上司に対し、自らの成長のために適切な指導を求めるなど、自分の意見をしっかりと伝えるべきでしょう。

意図しないハラスメントは、こうしてお互いが歩み寄り、コミュニケーションを重ねることで防止できます。重要なのは、そうしたコミュニケーションをとるための一人ひとりのスキルと、コミュニケーションを取りやすい組織づくりだと言えるでしょう。

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