失敗しない研修計画
「タフアサインメント」の正しい活用法を考える
企業の次世代を担う経営人材の確保、育成の手法の一つに「タフアサインメント」というマネジメント手法があります。タフアサインメントは、成功すれば人を大きく成長させることにつながりますが、難しいチャレンジを伴うだけに注意も必要な手法です。その注意点や正しい活用法を確認しておきましょう。
タフアサインメントとは何か
タフアサインメントとは、対象者の実力よりレベルの高い業務や目標を割り当てることで、急速な成長を促すマネジメント手法です。通常であれば現在の職種等延長線上の業務を割り当てるところ、事業や職種を越えた難しい経験にチャレンジさせるといったことがタフアサインメントにあたります。
タフアサインメントには、大きく分けて、業務上のタフアサインメントとポジション上のタフアサインメントがあります。業務上のアサインメントは、対象者に対し、「ハードルは高いが学習してスキルをつければ成長できそう」というレベルの業務を割り振ることを言います。一方、ポジション上のタフアサインメントは、特定のリーダーポジジョン等への抜擢を指します。裁量の広がりも伴って大きな成長が期待できますが、業務単位のタフアサインメント以上に負担が大きく、組織全体への影響も大きいため、全社的な戦略として実施される例が多いようです。
たとえば次のようなことがタフアサインメントの例と言えるでしょう。
業務上のタフアサインメント
- 全く違う部門への異動
- 新規プロジェクトの立ち上げ
- 赤字部門の立て直し
- 海外の現地法人での経験
- 海外事業の立ち上げ
- 海外企業とのパートナーシップ構築
- 複数分野にまたがるマネジメント
ポジション上のタフアサインメント
- 買収した子会社の責任者
- 大きなプロジェクトのリーダー
- 多様な価値観を持つチームのリーダー
タフアサインメントの学びに関わる3つのゾーン
タフアサインメントによって効果を得るためには、挑戦する領域を成長に関する3つのゾーンで捉える考え方が役立ちます。
コンフォートゾーン
comfort(快適)という言葉の通り、居心地がよく安心感の持てる領域です。このゾーンにいる人は、環境や人間関係にも慣れ、業務にも習熟し、仕事で失敗する可能性が少ない状態にあります。本人は不安なく業務に取り組むことができますが、これ以上は成長しにくいともいえます。
ストレッチゾーン
コンフォートゾーンの外側にあるのが「ストレッチゾーン」です。職場の環境が変わる、プロジェクトを任されるなど、コンフォートゾーンと比べるとステージが上がった状態です。やや負荷がかかる分不安やストレスも感じますが、努力して新しいスキルを身につけることで成長につながります。
パニックゾーン
ストレッチゾーンのさらに外側にあり、対象者に与える負荷が大きく、過度なストレスを与える領域です。たとえば、「業務量が多すぎてキャパシティオーバーしている」「スキルが全く追いつかない」といった状態を指します。パニックゾーンに入ってしまうと、人は心身ともにダメージを受けやすくなります。
タフアサインメントを成功させるには、対象者にとって楽にはこなせないが過度なストレスにならない、「ストレッチゾーン」をうまく活用することが重要です。
誰に対してタフアサインメントを行うか?
タフアサインメントがよく採用されているのは次のような場面です。
次世代経営人材の育成
タフアサインメントが最もよく行われるのが、次世代の経営者育成、サクセッション・プランの一環として取り入れられるケースです。
部長層の育成
タフアサインメントは経営人材育成の観点から行われるケースが多いこと、また、事業や職種を超えたアサインメントが行われる場合があり、抜擢された人の後任が必要であることなどから部長層以上での実施例が多く、効果も出やすいとされています。
とはいえ、現在、次世代経営人材の育成にはより早くから取り組んでいく必要性が高まっています。こうした人材の候補者層を形成するためにも、JMAでは、もっと早い段階、たとえば20代後半くらいからタフアサインメントを取り入れていくことをお勧めしています。
タフアサインメントを実施する際の注意点
タフアサインメントは対象者にハードルの高い業務を与えることになるため、その分負荷もかかります。正しく実施するための注意点を理解しておきましょう。
与える課題の見極め
タフアサインメントで重要なのが、与える業務やポジションの見極めです。いきなりパニックゾーンにあたるような課題にならないよう、対象者の能力を見極め「頑張れば達成できる」レベルの課題を与えることがポイントです。
対象者の見極め
ストレス耐性が弱い人、モチベーションが低い人にとっては、タフアサインメントがマイナスに働く可能性があります。タフアサインメントに求める人物像を明確にした上で、日頃の業務を通じて対象者の特性をよく見極めましょう。
実施のタイミング
通常であればタフアサインメントに適した従業員だったとしても、現在抱えている業務が多すぎて適切に対処できないこともあります。場合によっては業務の多さからパニックゾーンに陥ってしまうこともあるでしょう。対象者が新しい課題にチャレンジできるよう、事前に環境を整えることも必要です。
見守る姿勢
対象者が与えられた課題につまずいているからといって、上司が介入しすぎると成長機会を奪うことになるため、上司には見守る意識が求められます。とはいえ、大事な局面では手を差し伸べる必要があることも忘れてはなりません。
タフアサインメント実施するにあたり整えるべき環境
タフアサインメントを成功させるための環境整備としては、次のようなことが考えられます。
本人が相談できる環境をつくる
対象者に任せることが重要とはいえ、いつでも相談できる環境を整えておくことも必要です。困ったときには相談できる窓口を設置しておくのもよいでしょう。
挑戦が評価される環境を整備する
タフアサインメントにおける課題はチャレンジングなものであるため、成果につながらない場合もあります。そんなとき、評価制度が成果のみを重視したものだと、せっかくの挑戦が十分に評価されないことになってしまいます。タフアサインメントを実施するにあたっては、チャレンジが適切に評価される制度が不可欠です。
育成担当者と育成対象者で目的を共有する
育成担当者と育成対象者がともに目的を理解した上で課題に取り組むことで、望ましいゴールに向かいやすくなります。
選ばれなかった人へのケア
誰かがタフアサインメント対象者となったとき、別が「自分は選ばれなかった」とモチベーションを下げてしまうことも考えられます。対象者以外の従業員もモチベーションを保てるような配慮も必要です。
タフアサインメントは企業全体にとって非常に有効なマネジメント手段です。しかし、一歩間違えると対象者にダメージを与えることにもなりかねません。最大限に活用するためにも、ここで紹介したような注意点やポイントを意識してみていただければ幸いです。