- TOP
- コラム
- 抑えておくべきトレンドワード
- 企業の目指す姿を実現する人材ポートフォリオのつくり方
公開日 : 更新日 : 企業の目指す姿を実現する人材ポートフォリオのつくり方
企業が競争力を高めるために、優れた人材の確保が重要なのはもちろんですが、単に優秀な人材を採用するだけでは、組織全体の最適なパフォーマンスを実現することはできません。そこで注目されているのが「人材ポートフォリオ」の考え方です。人材ポートフォリオとは、企業の戦略に基づき、必要なスキルや経験を持つ人材を適切に配置するための枠組みです。本記事では、人材ポートフォリオの基本概念や作成手順、活用する上でのポイントについて紹介します。
人材ポートフォリオとは何か
人材ポートフォリオとは、社員一人ひとりのスキルや経験、適性などを分析し、組織全体として「どこに」「どのような人材が」「どのくらい」いるのかを示したもののことです。人材ポートフォリオを整備し、現状とあるべき姿を明確にすることで、適切な人材の配置や育成、いわゆる戦略的な人材マネジメントが可能になります。
企業が持続的に成長するには、適材適所の人材配置と長期的な育成計画が不可欠です。そのためにも、人材ポートフォリオを整備、活用し、自社の現状を正しく把握しながら、未来の組織を設計することが重要だといえます。
人材ポートフォリオが注目されている背景
近年、人材ポートフォリオの重要性が高まっている背景には、人的資本経営の考え方の浸透や、人的資本情報の開示義務化などがあります。
人的資本経営という考え方の浸透
「人的資本経営」とは、社員を単なるコストではなく、企業の成長を支える重要な資本として捉える考え方です。人的資本の価値を最大限に活かし、組織の競争力を向上させるために、人材ポートフォリオが大きな役割を果たすことになります。
『人材版伊藤レポート』での言及
2020年に発表された「人材版伊藤レポート」では、人的資本経営の重要性が強調され、企業が持つべき人材戦略の方向性が示されました。その中で言及されたことも、人材ポートフォリオに注目が集まる理由となりました。
大手企業の人的資本情報開示義務化
2023年から、上場企業には人的資本に関する情報開示が義務付けられました。これに伴い、「どのような人材を確保し、育成し、活用しているのか」をステークホルダーに対して説明する手段としても、人材ポートフォリオが注目を集めることになりました。
人材ポートフォリオによって可能になること
適切な人材ポートフォリオを作成すると、たとえば以下のようなことが可能になると考えられます。
1.戦略的な組織づくり
企業の経営戦略に沿ったあるべき人材の配置を定義することで、組織全体のパフォーマンスを最大化できます。成長分野に重点的に人材を配置し、企業の目指す方向へと組織を導きやすくなるでしょう。
2.人材の適正な配置と活用
社員一人ひとりが持つ強みやスキルを、求められる部署に配置することで、業務の効率化と生産性向上が期待できます。
3.変化に対応しやすい組織
市場環境の変化や新規事業の展開に迅速に対応するためには、柔軟な人材管理が必要です。人材ポートフォリオが存在することで、現在の組織の課題が把握しやすくなり、人員の再配置やスキル開発を必要なときに素早く行うことができます。
4.社員のエンゲージメント向上
社員のキャリア志向や適性を考慮し、必要とされる部署に配置することで、社員本人の成長を促進し、働きがいを高めることもできます。これにより、モチベーションの向上や離職率の低下が期待できます。
5.採用・育成計画の精度向上
企業の将来像に基づいた人材ポートフォリオを作成すれば、どの分野でどのような人材が必要かが明確になり、計画的な採用や育成を行うことができます。
6.人員・人件費の最適化
人材ポートフォリオを活用することで、人員の過不足を把握し、無駄のない人材配置を行うことができます。このことは人件費の最適化にもつながります。
人材ポートフォリオを作る手順
人材ポートフォリオは、企業の戦略と合致したものでなければなりません。そこで、まずは戦略の明確な理解から始める必要があります。
1.自社の戦略や方向性を明確化する
人材ポートフォリオは、企業の戦略を実現するためのものです。そのため、まずは企業の経営戦略やビジョンを明確にする必要があります。
2.必要な人材像を定義する
人材を分類するための軸を決め、その分類ごとに必要なスキルや経験を洗い出し、必要な人材像を定義します。分類の軸には、職種ごとのスキルのほか、「変革志向か維持志向か」「スキルの広さ/スキルの深さ」などさまざまなパターンが考えられます。
3.社内の人材をタイプごとに当てはめる
現状の社員を、定義した人材タイプに分類し、スキルや経験の分布を把握します。現状については、アセスメントの実施などにより、客観的に捉えることが重要です。
4.人材の過不足を確認する
戦略と照らし合わせながら、各タイプの人材が十分に揃っているか、あるいは不足しているかを分析します。
5.課題の解決方法を考える
不足している人材は新たに採用するほか、研修の実施などを通じて育成する、配置転換によって補うなどの方法が考えられます、過剰な部分については。必要に応じてリスキリングしつつ、役割の変更や再配置を検討します。
人材ポートフォリオを作成、活用する際の注意点
人材ポートフォリオを導入する際に気を配るべき点としては、次のようなことが考えられます。
経営層と現場の連携を密にする
人材ポートフォリオの設計には、経営層による戦略的な視点が必要な半面、実際に人材を活用する現場の意見を取り入れることも不可欠です。現場のニーズや課題を反映させることで、実際に機能する人材配置が実現できます。
データで客観的に状況を把握する
感覚や経験則に頼らず、定量的なデータを活用することで、より客観的で公平な人材マネジメントが可能になります。アセスメント等による現状の見える化と、適切な人材評価データによって、よりよい人材配置が可能になります。
単なる分類にしない
人材ポートフォリオは、社員に優劣をつけたり、「カテゴリー」に当てはめたりするためのツールではありません。変化する市場環境に対応するためには、求められるスキルや役割について柔軟に見直し、ときには枠組み自体も変えていく必要があります。
個人の成長機会を考慮する
適正な人材ポートフォリオは、社員自身のキャリア形成を支援することにもつながります。社員が成長の機会を得られるよう、キャリアパスを明確化し、必要な研修プログラムを導入するなどの施策とあわせて行うのが理想的です。
社員の意向を尊重する
企業側の事情だけを優先して人材を配置すると、モチベーション低下や離職リスクにつながります。実際の配置の際には、社員の志向や希望も尊重し、双方が納得できる形を目指すことが求められます。
長期的な視点を持つ
人材ポートフォリオの作成にはデータ収集やその分析が必要であり、それぞれに時間がかかります。短期間での完成は難しいことを理解し、計画的に進めることが重要です。
まとめ
人材ポートフォリオは、人的資本経営の観点からも注目されており、戦略的な人材配置や育成に大いに役立つツールです。
しかし、その導入には時間や労力がかかるため、明確な目的を持ち、計画的に進めることが求められます。適切な運用を行うことで、企業と従業員の双方にとってよりよい人材マネジメントを実現することができるでしょう。
<関連コラム>
今回の「人材ポートフォリオ」を考える上で、抑えておくべきことは「変革リーダーのいる人材構成」です。組織に求められる人材構成の考え方について紹介しています。