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公開日 : 更新日 : サクセッション・プランの策定に必要なこと

事業を継承する後継者を育成する「サクセッションプラン」は、企業の長期的な存続のために欠かせないものとして多くの企業で注目されています。他の従業員の人材育成との違いや導入の仕方について解説します。

サクセッション・プランの意味と、注目されている理由

サクセッションプラン(Succession plan)を和訳すると「継承・相続計画」で、「後継者育成計画」を意味します。将来、会社組織を牽引する幹部・経営者候補となる人材を育成し、必要な資質を備えさせるとともに、適切な人材を選出する計画のことです。

今、サクセッションプランは、多くの企業に注目されるキーワードとなっています。直接的な理由の一つは、東京証券取引所が定める「コーポレートガバナンス・コード」(企業の経営の透明性を明確にするため、利害関係者が守るべき行動規範を示したガイドライン)に次のような内容が記載されたことです。

「取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。」(補充原則4-1③)

<参考>

コーポレートガバナンス・コード>>

上場企業は基本的に、コーポレートガバナンス・コードの原則に従う必要があります。そのため、コーポレースガバナンス・コードにサクセッションプランの必要性が明記されたことで、上場企業は何らかの対応を迫られることになったというわけです。

また、企業の非財務価値が投資判断の材料となる今、サクセッションプランがきちんと運用されているかどうかは、当然ながら株主をはじめとするステークホルダーからも厳しくチェックされます。大企業にとってサクセッションプランは今や重要な経営課題の一つと言えるでしょう。

サクセッションプランと一般の従業員育成との違い

サクセッションプランとその他の従業員育成の違いは、育成する主体や育成目的にあります。

一般の従業員育成、つまり階層別、職種別に行われる研修などの人材育成では、人事部門や管理・企画部門が主体となって研修を企画し、全ての従業員に向けて実施するのが一般的です。各組織のビジョンや目的に基づいて求める人材像を示し、従業員自身の望むキャリア開発と重ね合わせながら成長を支援していくことがその目的と言えるでしょう。

一方、サクセッションプランは、経営層が主体となり、一部の幹部・後継者候補を対象に育成を実施します。なかでも最大の違いは、サクセッションプランは全員を対象に行うのではなく、選抜型の育成であることでしょう。経営幹部としての資質を持つ人材を選抜し、長期的かつ計画的な育成を行うことになります。

サクセッション・プランの取り組み状況・課題

サクセッションプランは企業にとって重要な課題ではあるものの、現状取り組んでいる企業はまだ多いとはいえない状況にあります。

経済産業省が行った「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査(2023年度)」によると、次期社長・CEOの選定に向け、「後継者計画のロードマップの立案」については「特に何もしていない」と回答した企業が32%、「わからない」と回答した企業が19%。最も実施率の高い「後継者候補の選出」でも、何らかの形で「議論、実施している」のは53%でした。2020年度実施調査と比べると上昇傾向ではあるものの、具体的なサクセッションプランを策定、実施していない企業はまだ多いと言えます。

<参考>

「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査(2023年度)」(p46)>>

日本企業でサクセッションプランの取り組みが進みづらい理由としては、次のような事情があるようです。

  • 事業部内の業績で評価する文化が根強く、経営者を高度専門職として育成する文化が乏しい。
  • 現経営陣の人間関係など主観的な判断を中心に人選・育成計画が行われていて、客観的な基準がない。
  • 「選ばれなかった人」のモチベーション低下を恐れ、情報が公開されない。

サクセッション・プランにおける育成の全体像

サクセッションプランは、経営層としてふさわしい人材を育成することが目的です。経営方針・経営戦略を踏まえ、「より長期的視野に立った育成」を行います。また、ある一部門の中で専門性を高めるのではなく、全社横断的に経営層としての期待レベルに達するよう全分野においての育成が必要とされます。

具体例として、次のような施策が考えられます。

  • 全社的視点・グループ全体最適の視点でのマネジメント能力を備えさせるために、事業部門を超えた戦略的なローテーションを行う。
  • 社外研修で他企業の経営幹部候補とともに学ばせる「他流試合」で広い視野を養う。
  • 簡単には達成できないようなハードルの高い仕事や課題などタフ・アサインメントを与え、急激な成長を遂げられるように修羅場を乗り越える経験をさせる。赤字事業部門のトップ等のポジションを想定しておくこともある。
  • 資質・能力(ポテンシャル)を引き上げるべく、社外取締役との1対1での面談や外部専門家によるコーチングなどにより、個々人の成長課題に気づく機会を与える。

サクセッションプランらはどのようなステップで行うか

経済産業省が発表している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下CGSガイドライン)」では、サクセッションプランを進める際の7つのステップが示されています。ここではその7つのステップを解説します。

CGSガイドラインによる7つのステップ

1.後継者計画のロードマップの立案

社長・CEOの就任から想定される交代時期に向けて「いつ頃、誰が、何を、行うのか」のスケジューリングを行います。立案にあたっては「現在の社長・CEO選任プロセス」「育成プロセス」をあらためて確認し、課題を洗い出す必要があります。社長・CEOが原案を作り、指名委員会等で議論し、後継者計画のロードマップを作成します。

2.「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定

「あるべき社長・CEO像」と評価基準の策定は、社長・CEOを選任するまでの根幹にあたる部分です。「あるべき社長・CEO像」は社長・CEOに必要な資質・能力などで構成されますが、企業の経営理念や長期的な経営戦略に融合している必要があります。

3.後継者候補の選出

2で策定した「あるべき社長・CEO像」に合う候補者を選出します。企業規模や取り組む期間によって人数は異なり、選出人数は数名~数十名程度です。交代まで時間に余裕がある場合、数十人程度リストアップしておき、選抜していくこともあります。

候補となる人材は社内にいない場合は、企業価値の向上のために、プロの経営者を外部から採用することも検討する必要があります。

4.育成計画の策定・実施

後継者候補の保有している資質・スキルを「あるべき社長・CEO像」に必要とされる資質・スキルと比較し、足りていない部分を補うために最適な育成計画を策定します。後継者候補が目標レベルに達するために育成計画を実施していきます。取り組む期間によって異なりますが、各部門を経験させるジョブローテーションでは、社員として業務を経験させ、スキルがついたら経営に参加させることで、業務スキル・経営スキルを共に高められます。

そのほか、企業トップとして備えておくべきガバナンスやリスク管理などの知識をつけるために、社内研修や外部研修を活用する場合もあります。

5.後継者候補の評価、絞込み・入替え

選出された候補者については「あるべき社長・CEO像」に照らして評価を行っていきます。育成計画の実施状況や効果を、面談や360度評価などでモニタリングしながら、候補者からの絞込みや候補者の入れ替えを行って最終的な候補者を選抜します。

6.最終候補者に対する評価と後継者の指名

最終候補者を対象に「あるべき社長・CEO像」に照らして評価を行います。この評価結果を元に指名委員会で議論し、取締役会で最終的な候補者を確定、指名します。

7.指名後のサポート

指名された候補者に対し、現社長・CEOから業務や取引関係の引き継ぎを行います。適切な後継者指名が行われたことについて適時開示するなど、株主などのステークホルダーへ説明を行います。

人事部門はサクセッションプランにどう関わるか

上記のようなサクセッションプランのプロセスは、本来、経営層が主体となって計画し、実施するものです。

しかし、「候補者の選出」や「育成計画の策定、実施」を推進するためには、人事担当役員や人事部門が積極的に関与する意義があります。

たとえば、人材を選抜し、個別に育成する前の「候補者層」を作る集合研修は、人事部門の主導のもとで行えるかもしれません。一定層の人材を集めて集合研修を行うことで、人材情報を収集・見える化するとともに、研修成果を経営陣の前でプレゼンテーションさせるなどすると、後継者候補の評価、選抜のための材料となるでしょう。

<関連記事>

コラム:よりよいサクセッションプランに向け、候補層を厚くする集合研修のすすめ>>

JMAの経営幹部候補育成プログラム

JMAでは、こうした選抜前の集合研修から新任役員向けの研修まで、経営幹部候補を育成するためのステップが整っています。

候補者層を形成するための研修等、選抜前のカスタマイズ研修を実施

他社の経営幹部候補とともに学ぶ経営者・役員・次世代リーダー向け研修を実施

新任役員向け研修を実施

詳しくは下記シリーズでもご紹介しています。

<関連記事>

長期的、計画的なサクセッションプランのために
JMA
の経営幹部育成プログラム

第1回:https://solution.jma.or.jp/column/c250207-1/>>

第2回:https://solution.jma.or.jp/column/c250207-2/>>

第3回:https://solution.jma.or.jp/column/c250213/>>

サクセッションプランは、後継者の育成だけでなく、長期的な企業存続と組織活性化にも不可欠です。人事部門は、経営者・役員陣の後継者育成の思いを具体化する立場にあり、経営理念や長期的な事業計画に照らし合わせた視点が今後ますます求められるといえるでしょう。

JMAでは、上記の3つに代表されるプログラムを組み合わせることで、現状を踏まえたサクセッションプランをご提案しています。まずはお気軽にご相談いただければ幸いです。