事業特性・企業体質検討|強みを活かす新事業開発:第1章 探索ガイドラインの設定(3)
1、事業特性を知る
新事業の失敗理由を聞くと「顧客ニーズとの不適合」、「強力な競合の存在」などが多く挙げられるが、失敗の原因が事業特性の違いにあることも多い。既存事業と新事業の特性の隔たりは、目に見えないためになかなか測定がしづらいので見過されがちであるが、筆者の経験で言うとこの隔たりで失敗するケースはかなり多い。
事業特性とは、文字通り事業の持つ特定の性質のことである。
たとえば、部品メーカーは単品商品を大量に特定の大手企業に売っており、その特性を分解すると図表Ⅳ-1のようになる。
既存事業はこの特性を踏まえて長年事業を継続しており、企業内部ではそのやり方が根付いている。新事業を行う場合、事業特性が大きく異なると経験値が無いため失敗の可能性が高くなる。たとえば、部品メーカーが新事業として、ソフトウェアを海外企業にネット販売していく事業を検討したとすると、既存事業と特性が大きく異なる。この特性の違いを認識せずに、既存事業の延長で事業を進めてしまうと失敗を招くことになる。
また時間感覚の違いというものがある。たとえば、化学や鉄鋼など装置型産業は大規模な設備投資をして、10年以上の期間で資金回収している事業であり、そのような企業では時間の流れがゆっくりである。その企業がゲームソフトなどライフサイクルの早い新事業に着手すると、時代のスピードに開発がついて行けず、結果、市場から取り残される。
新事業開発は新規性が伴うのは当然ではあるが、まずは現状認識として自社の事業の特性を把握し、得手不得手が何かを知ることが大切なのである。
既存事業の業務の傾向にも注目する。
ある建設系企業の例では、
- 個人ベースでの仕事が多く、技術伝承がされていない。
- 大きな案件が評価される傾向。
- 事業開発はなかなか出来ておらず、現状の業務に忙殺されている。
などの傾向が見られる。
これらの傾向は、新事業開発を進める上では阻害要因になり得る。事業開発と平行して、これらをマネジメント上の課題として取り上げ、解決していかないといけない。
2、企業体質を把握する
「うちは保守的な体質なので新事業がなかなか育たない」といった話題を新事業担当者から聞くことがある。企業体質も新事業の成功・失敗を左右する1つであるが、これも目に見えないため分かりにくい。人間に体質があるように企業にも体質がある。体質の多くは事業特性や事業環境によって醸成されているが、それ以外に経営者の気質や長年培われた企業内の価値観も体質に影響を与える。また、地域性も影響する。
自社の体質を知ることが大切である。自社の体質を知るための方法は、過去の事業展開を振り返ってみることである。その手法として図表Ⅳ-2に示す事業展開時系列分析を紹介する。
事業展開時系列分析では、創業から今日までの製品・事業展開を産業構造の変化と共に年表形式に時系列で記述してみる。当時の資料が残っていなかったり、関係者が会社に残っていなかったりするので、社史や退職者にヒアリングをしながら可能な範囲で情報を集める。とりわけ撤退した事業は事実関係が分かりにくい。知らぬ間に終わっていたり、うやむやになっていたりすることが多いためである。撤退した事業も情報収集可能な範囲で把握したい。
図表の下段には、社内の状況を記載する。工場の建設や子会社の設立など、会社の主たるイベントである。また、代々の社長の在任期間も入れていく。
俯瞰してみると、過去の新事業が、産業構造の変化で生まれたり、消えたりしていることが分かる。その一方で、外部環境ではなく、社内の事情で新事業が増えたり、減ったりすることもある。たとえば、ある社長の在任時期は積極的な多角化戦略が採られたが、次期社長が本業回帰の方針を打ち出し、事業開発がストップとなるような状況である。
このようにして、自社の事業が外部環境に影響を受けやすい体質かどうか、内部の事情に影響を受けやすい体質かどうかを掴む。また「現在の事業は10年以上前に開発されたものばかりで、直近10年間、新事業がまったく育っていなかった」という事実が改めて認識されることもある。現事業の成長が著しく新事業を起こす必要が無かったのであれば問題ないが、10年の間に消極的な体質に変化し、内向き志向になってしまっているのかもしれない。
自社の体質を十分に理解せずに急激な体質改革を図るとアレルギー反応を起こすことになる。自身の体質を踏まえたうえで新事業に取り組むことが肝要である。
筆者がコンサルティングで重視するのが、今回ご紹介した事業特性・企業体質の把握である。経験上、事業特性や体質が既存事業に近い新事業は結果、成果が出て持続する。成果を出しながら徐々に新規性を伸ばしていくのが新事業成功のポイントである。