5分でわかるビジネストレンドワード
リモートワークの浸透で注目される
「地方副業」という働き方とは?
コロナ禍は私達の生活に変化をもたらしました。これまで当たり前だったオフィスへの出社を前提とした働き方は見直され、場所を問わない働き方が浸透しつつあります。そんな中、地元や地方への貢献にもつながる「地方副業」が注目されています。
「地方副業」という働き方はなぜ注目され始めたか
ここでいう地方副業とは、大都市圏に居住し、大都市圏の企業で働きながら、地方の仕事を引き受けるという働き方を指します。
これまでも、人材不足に悩む地方の企業が大都市圏に住む優秀な人材を求め、さまざまな優遇制度を設けて移住を促す動きはありました。大都市圏で働く人の中にも「地方の課題に貢献したい」という思いを持ち、地方で働くことに興味を持つ人がいました。しかし、わざわざ地方に生活の拠点を移すとなると、賃金水準や子供の教育環境などさまざまなハードルがあり、実際に転職、移住する人は限られていました。
こうした流れを受けて注目されるようになったのが、地方副業という働き方でした。
現実にはなかなか広がりを見せなかった地方副業ですが、コロナ禍により状況が変わりつつあります。まず、移動を避けるために普及したリモートワークのおかげで、都市に居住したままリモートで地方企業の仕事を請け負うという勤務形式が受け入れられやすくなりました。また働く人にとっては、現在勤務している企業の業務もリモート化したことで時間に余裕ができ、副業に割く時間を確保しやすくもなりました。
もともと地方副業は、地方の人材不足解消や経済活性化のきっかけとしても期待されていたワークスタイル。それが、コロナ禍とリモートワークの浸透により、いよいよ現実的なものとして脚光を浴びることになったのです。
地方副業で拡大が見込まれる職種とは?
地方副業としてニーズの多い職種の例としては、以下のようなものがあります。
- 販売……ECサイトの立ち上げ・改善・集客など
- 営業……営業のオンライン化、業務フローの改善など
- マーケティング……NS集客・SEO・PRなど
- 製造……手作業のデジタル化など
- 人事……人事評価制度改善・業務フローの見える化・デジタル化など
- 経理……業務の見える化・デジタル化など
- 労務、総務……勤怠管理システムの導入、クラウド化、テレワーク化など
地方企業は大都市圏の企業に比べて、とくにデジタル化が遅れている傾向があるため、エンジニアの募集については積極的な傾向があります。
また、大都市圏の大手企業での業務経験は地方企業にとって魅力の一つです。こうした経験に期待して、新規事業の立ち上げ経験者、ブランド戦略の経験者などの募集も見られます。
なお、リモートベースでの副業受け入れの場合、勤務は週1~2日、報酬も月額数万円単位からと小規模なスタートも多いようです。
企業にとってのメリット・デメリット
ここまでは地方副業をめぐる動向について見てきましたが、次に実際に地方副業という働き方を取り入れるにあたり、企業として考えるべき点を見ていきましょう。
企業として地方副業に関わる場合、「自社の社員が地方副業することを認める」立場(本業側企業)と、「地方副業人材を受け入れる」立場(副業側企業)が考えられます。ここでは、それぞれの企業にとって、どんなメリット・デメリットがあるかを考えてみます。
本業側企業のメリット
・社員のスキルアップに繋がる
社員が副業で他社、とくに自社とは異なるローカルなビジネスを体験することで、新たな知識を習得し、経験を得ることができます。仕事における社員の成長だけでなく、社員の自信にも繋がり、結果的に自社の事業拡大に繋がる可能性があります。
・優秀な社員の退職を防ぐことができる
働き方の多様性が広がると、優秀な社員ほど会社以外に学びの場や成長の機会を求めることが増え、それが退職につながってしまうケースもあります。あるいは、自分のスキルを活かして地元や地域に貢献したいと考え、移住して働くために退職してしまうかもしれません。あらかじめ企業側が副業を認めることで、こうした流出を防ぐことにつながります。ただしもちろん、社員にとって魅力的な企業であり続けることは大前提です。
本業側企業のデメリット
・情報漏洩のリスクがある
副業全般に言えることではありますが、解禁に踏み切れない多くの企業が懸念しているのが情報漏洩のリスクです。企業の機密情報・ノウハウや個人情報などの漏洩を防ぐため、ルール作りは必要でしょう。
・本業の業務が疎かになる恐れがある
そもそも副業は本業以外の時間に行うものです。トータルな業務時間が増えるため、オーバーワークや体調不良により本業が疎かになる可能性があり、そうした点をどう管理するかという課題もあります。
副業側企業のメリット
・人件費を抑えることができる
社員の採用となると相当な人件費がかかります。また優秀な人材であるほど、人件費は高騰し正社員としての採用は難しいもの。副業人材は案件ごとに募集したり、期間を限定したりと企業側で調整が可能です。正社員採用は難しい人材も、副業としてであれば確保ができるかもしれません。
・外部の優秀な人材のスキル・ノウハウを活用できる
新規事業の立ち上げや社員が経験したことがない業務に対して、外部の人材からスキル・ノウハウを得ることができます。例えば、都市圏は地方と比べて大企業の数や外資系企業の本社数が多く、こういった企業での知見が必要とされる場面においては自社にない発想をもたらすこともあり、それが刺激となって既存社員底上げにも繋がるでしょう。
副業側企業のデメリット
・管理が難しい
副業人材は、本業を持っていて、休日や平日の就業時間以降に業務を行うことが多くなりがちなため、管理には工夫が必要です。またリモートワークの場合は、コミュニケーション不足にも気をつけなくてはいけません。リモートワーク前提で副業人材を採用している企業の多くは一般に、チャットツールを活用するなど工夫しています。
・情報漏洩のリスクがある
本業側企業と同様に情報漏洩のリスクがあります。
まとめ
今のところ、実際に副業を解禁している企業はまだ少数派です。ただし今後さらなる働き方の多様化が想定される中、副業制度は、本業側企業にとても副業側企業にとっても、人材確保に向けた有効な打ち手となるはずです。
副業の一般化が進めば、地方副業も働く人と企業の双方にとってますます現実的な選択肢となり、人材市場に変化をもたらすことになるかもしれません。変化にいち早く対応するめにも、早めに課題を認識し、ルール作りの準備を進めておきたいものです。
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