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「エドテック(EdTech)」で企業研修は変わるのか?

公開日:2022/03/02 更新日:2023/09/13

コロナ禍によって集合研修の一部がオンライン研修に変わるなど、企業研修のあり方が変わってきてきます。中でも教育分野にテクノロジーを掛け合わせた「EdTech」と呼ばれるサービスが注目されはじめました。EdTechの概要と企業研修に導入するメリットや注意点を紹介します。

エドテック

エドテック(EdTech)とは何か

EdTechEducationTechnologyをかけた造語で、教育にITテクノロジーを応用したサービスのことです。教育領域にイノベーションを起こす次世代型のサービスとして注目されていますが、現時点ではエドテックの厳密な定義は定まっていないため、広い意味で使われています。

今のところは主に学校教育の現場で使われている用語ですが、例として、経済産業省の「未来の教室ビジョン(※)」の中では、「EdTechを用いた自学自習と学び合いへ」として「学びの自立化・個別最適化」のための活用が提言されています。 

※未来の教室ビジョン
突発的な環境の変化に対して「子どもの学びを止めない」ために未来の教室を実現しようという動き。

(以下、「未来の教室ビジョン」より引用)
「学びの自立化・個別最適化」とは、子ども達一人ひとりの個性や特徴、そして興味関心や学習の到達度も異なることを前提にして、各自にとって最適で自立的な学習機会を提供していくことである。そのためには、AI(人工知能)やデータの力を借りて、子ども達一人ひとりに適した多様な学習方法を見出し、従来の一律・一斉・一方向型の授業から、EdTechを用いた自学自習と学び合いへと学び方の重心を移すべきである。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/mirai_kyoshitsu/pdf/20190625_report.pdf

エドテックの定義は広く、企業研修においてもさまざまなサービスが用いられています。例として、オンデマンド教材やZOOM等による研修などインターネットを介して行う「オンライン研修」や、主にオンデマンド教材で自学自習する「eラーニング」も含まれます。

今エドテックが注目されている背景

エドテックが注目されるようになった発端は学校教育の変化によるものです。2020年から小学校でプログラミング教育が必修となったのをはじめ、今後の新型ウイルス対策や災害対策としてもオンライン授業や動画配信授業がさらに注目されています。

2018年に行われた国際的な学力テストPISAで、日本の子どもたちの順位は、数学力リテラシーは6位、読解力では15位、科学リテラシーで5位となり、いずれも前回の2015年調査よりも順位が後退しました。こうした結果を受け、子どもたちの能力を高めるために重視されているのが、アクティブ・ラーニングです。

アクティブ・ラーニングとは、個人の習熟度にあわせた個別最適化のコンテンツや「理解→定着→活用」というサイクルで行う適用学習のことです。そして、アクティブ・ラーニングに最適な環境として期待されているのが、2019年に文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」です。GIGAスクール構想とは、子どもの頃からICT環境になじみ、将来の社会で生き抜く力を育むために11台の端末環境を備えた学校のあり方のことを意味します。アクティブ・ラーニングにITC環境を加えることで、例えば、これまで紙で残していた英語の学習記録を、「音声」や「動画」でも記録できるようになり、発音のレベルアップが可能になるというようなメリットがあります。

 上記のように、学校教育ではエドテックの活用に注目が集まっていますが、日本の人材開発領域ではエドテックを活用した具体的なサービスはまだ多くないのが現状です。ただ企業研修に対し、学校教育と同様の効果が期待されている面はあります。

例として、企業研修には「日々の業務が忙しい中に集合研修に割く時間が取りづらい」「地方から本社の研修に参加する人の負担が大きい」などの課題があります。エドテックの活用によりリモート環境とオンライン研修が普及すれば、研修時間の短縮や地域格差の縮小など、課題解消に向けた効果が期待できるのです。

世界におけるエドテックの現状と例

世界のエドテックの市場規模は2017年から2022年の間に平均予想成長率は18.3%と予想され、今後も期待されている分野と言えるでしょう。
https://www.geekly.co.jp/column/cat-technology/ed-tech/

 アメリカのエドテック活用例としてはデジタルラーニングの普及が挙げられます。人材開発カンファレンスATDが行った「デジタルラーニングの成長」についての調査では、集合研修と、ITテクノロジーを活用した研修に費やす時間の比率の差は年々縮まっているという結果となっています。実際にATDでは、企業ラーニングにおけるエドテック活用に向けてバーチャル研修のつくり方についてレクチャーするセッションや、モバイルラーニングの設計を行う担当者向けのセッションなどが開催されています。

企業研修で想定されるエドテックの例

企業研修でエドテックがどのように活用されているかを紹介します。

反転学習

事前にWeb上での動画学習などで基礎知識を習得した後に、集合研修で実践・応用する手法です。ITとリアルな研修を組み合わせることで反復して学ぶことができ、研修の効果を高められます。

マイクロラーニング

15分程度の動画や音声など、細分化された学習コンテンツを使った学習方法のことです。短時間であるため集中して取り組め、空き時間に学ぶこともできます。

VR(仮想現実)/AR(拡張現実)活用

VRARなどのテクノロジーも、活用することでよりリアルな疑似体験学習が可能になります。大勢の前でスピーチする疑似体験によってスピーチへの緊張を軽減できたり、高所作業のトレーニングを疑似体験できることで高所恐怖症の克服に繋がったりします。

AIコーチング

自分が経験したことから学びを得ることを「経験学習」といいます。具体的には、経験(具体的な経験をする)→内省(行動の振り返り)→教訓(経験したことを多面的にとらえ応用できるように教訓にする)→実践(行動を修正し、挑戦する)というサイクルを回します。研修で学んだことを定着させるには、経験学習サイクルの繰り返しが必要です。こうした経験学習は、従来は上司の問いかけなどにより促進されてきましたが、代わりにAIを活用することが考えられます。具体的には、AIが学習者の学習状況を分析し、適切なタイミングで問いかけを発するなどの方法がありうるでしょう。

ソーシャルラーニング

学習SNSなどのソーシャルメディアを活用してナレッジの蓄積をします。研修の受講生同士の学びや講師への質問などに活用でき、必要なことを随時学べるため個別最適化に役立ちます。参加者が相互に教え合い・学び合える学習形態といえます。

目的に合わせて導入してこそ意義がある

エドテックを企業研修に導入することは、単に「学習内容をオンラインで提供する」だけでなく、ここまで見てきたような研修の「個別最適化」や「学習内容の定着促進」を図ることが目的と言えるでしょう。重要なのは「何のために研修を行うか」です。エドテックを導入することが目的になってはいけません。

エドテックの導入を検討するにしても、まず「社員がどんなスキルを身につける必要があるか」「どのような役職の人にどんな研修が必要なのか」と目的を明確にする必要があります。そして、課題の本質を突き詰め、課題解決の一つの手段としてエドテックを検討することをおすすめします。