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壁を突破する「ダブルループ学習」の取り入れ方

公開日:2022/03/11 更新日:2023/09/13

「ダブルループ学習」は一般的な学習法である「シングルループ学習」と対比される学習プロセスで、「現状を打破したい」「事業の成長スピードを高めたい」といったときに効果が期待できます。その考え方や具体的な活用法について紹介します。

ダブルループ学習とはなにか?

ダブルループ学習とは、既存の枠組みや前提そのものを疑い、軌道修正を行うことで学習効率を上げていくプロセスのことです。1978年に、アメリカの組織心理学者であるクリス・アージリス氏とドナルド・ショーン氏による共同著書『組織学習』(原題 :  “Organizational Learning” )で提唱されました。

問題に対して、すでにある考え方の枠組みや目的や前提そのものを疑いながら、これまでにない問題解決の方法を探っていくのが特徴といえます

一般的な学習法との違い、PDCAとの関係

一般的に組織の学習のプロセスとして活用されているのが、シングルループ学習です。シングルループ学習は、過去の学習や成功体験を通じて得られた「ものの見方・考え方」や「行動の仕方」にのっとって改善を進め、その過程で学習していきます。一定の枠組みの中で結果の改善を図るために、「行動→結果→行動→結果」と繰り返していく流れはPDCAサイクルと似た構造です。

一方、ダブルループ学習は、これまでになかった問題解決の方法を探るプロセスです。既存の考え方や行動の枠組や成功体験にとらわれず、外部から新しい知識・情報を取り入れ学習し、それをまたシングルループ学習によって反復・強化していきます。「前提・枠組みの再考→行動→結果」というように、その都度「前提・枠組みの再考」が加わるのが特徴です。シングルループ学習を「改善」のプロセスとするならば、ダブルループ学習は「改善」にとどまらす、ものの見方や価値観をアップデートできる「改革」と言えるでしょう。

ダブルループ学習を取り入れるメリット

ビジネス環境の変化が激しい環境では、シングルループ学習だけでは変化に適応しにくいと言われています。現状の取り組みに限界がある場合、その枠組の中で行うシングルループ学習では大きな発展が望めません。こうしたシングルループ学習の弱点を補うのがダブルループ学習です。

続いて、ダブルループ学習を取り入れるメリットを紹介します。

成長スピードが早まる可能性がある

ダブルループ学習は、既存の枠組みや過去の体験にとらわれず幅広い視点で最適な解決策を探れる考え方です。前提を問いただすことで生産性を大きく伸ばせる可能性があり、組織の成長スピードが早まります。

現状を打破できる

シングルループ学習は物事の上達には適していますが、ある程度までいくと、それ以上の発展は見込めず、壁にぶつかったりスランプに陥ったりします。ダブルループ学習を取り入れることによって、本質的な問題を発見したり、新たな視点を増やしたりできます。思い込みの枠が外れることで、正面突破以外の新たな解決法を探れるのがメリットです。

ダブルループ学習を進めるために有効な考え方

ダブルループ学習を理解し、効果的に活用していくための考え方を紹介します。

リフレーミングする

ダブルループ学習では、前提を疑うプロセスが必要です。そこで、物事を見る枠組みを捉えなおす「リフレーミング」を活用します。

有名なたとえ話に、水が半分入ったコップの話がありますが、「半分しか入っていない」と思うか、「半分も入っている」と思うかで、行動や結果が大きく違ってきます。こうした考え方を意識することで視野が広がるでしょう。

技術的課題ではなく適応課題と捉える

ビジネスシーンにおける課題は「技術的課題」と「適応課題」の2つに分けられます。技術的課題とは、知識や技術など既存の方法で解決できるような課題。一方、既存の知識や技術では解決できないような課題を適応課題と言います。

適応課題は、意見の異なる人との軋轢など、人や組織の関係性の中で生まれる課題で、モノの見方や考え方、価値観を変えなければ解決できません。これまで「技術的課題」として考えていた問題を「適応課題」として考えてみることで、ダブルループ学習が進むきっかけになります。

ビジョンやありたい姿を明らかにする

ビジネス環境の変化に対応するためには、改善ではなく「改革」を目指す必要があります。シングルループ学習では、現状の問題を改善することに意識が向きやすく、個人や組織の成長を促すエネルギーが生まれにくくなりがちです。ビジョンやありたい姿を思い描き、現実とのギャップを明確にすると、改革に意識が向き、本質的な問題解決を進めるダブルループ学習が進みやすくなります。

ダブルループ学習を取り入れるための環境をどう作るか

ダブルループ学習を取り入れるためには、意見を言いやすい組織、風土づくりが大切です。下記のような点を意識してみましょう。

上位者から問いかける

ダブルループ学習の特徴である「前提を疑う意見」は部下から自然には出てこない、提案しにくいというケースがほとんどです。既存のやり方や考え方から抜け出すには、まずは経営者や上司など上位者による問いかけから始めましょう。

たとえば、イベントの集客がうまくいかなかった場合、「ターゲットは妥当であるのか」「集客目標は妥当なのか」「今はメール配信が中心だが、他にどんな集客法があるのか」など前提を疑う問いかけをして考えさせることが大切です。上位者からの問いかけがうまく機能すれば、それをきっかけに、現場だらこそできる「前提を疑う意見」が挙がってくることが期待できます。

出てきた部下の意見を受け入れる

経営者や上司から問いかけをすることで、部下から意見が少しずつ出てくるようになります。このとき意見を採用するかは別にして、意見を出すという行動自体を褒めることが大事です。この行動を繰り返していくことで、組織内でダブルループ学習が習慣化されていきます。

最終的には、部下から出た意見を経営者や上司が検討し、マネジメントしながら実行していくことで、ダブルループ学習が組織に浸透していきます。

組織や事業を成長させるためには、最適な選択と改革が必要です。シングルループ学習とダブルループ学習を組み合わせることで、経験や知見の蓄積だけでなく、組織全体の視野を広げることができます。こうして個人や組織の成長スピードが早まることで、企業は他社との競争優位性を高めることができるでしょう。

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