今どき研修テーマ&メソッド図鑑
コーチングを実りあるものにする「オートクライン」効果とは?
育成の手段として注目されているコーチングですが、正しく実施されていないケースも耳にします。「傾聴力」を主体としたコーチングを実行するには、「オートクライン」という作用を意図的に引き出すことが有効です。その意味や引き出し方について解説します。
コーチングとは何か?なぜ意義があるのか?
社員の育成の手段としてコーチングが導入される例は増えていますが、「コーチング=教えること」と間違って認識されていることもあるようです。せっかくコーチングを導入するのであれば、本来の意義を理解して正しく実施することが重要。まずはコーチングの本来の意味について確認しておきましょう。
コーチングとはどういうことか
コーチングとは「相手が自ら答えを導き出せるようにサポートする手段」のあり、「教える」ことではありません。前提として「答えはその人の中にある」という考えから、対話を通じて相手が「目標達成」できるようにサポートしていきます。
どんなメリットがあるか
コーチングは育成対象者に対し、以下のようなプラスの変化をもたらします。
- 自分で考える力や行動力が高まる
- 本人だけでは気づくことができなかった能力を引き出す
- ビジョンや目標が明確になり、学習能力が向上する
- 主体的に行動できるようになる
- 組織のコミュニケーションが活発になる
詳細は下記コラムでもご紹介しています。
コーチングによくある失敗パターン
コーチングが正しく実施されない場合、次のような失敗につながります。失敗が起こる原因と合わせて知っておきましょう。
コーチの立場の人が話しすぎる
コーチする側が「聴く」ことが重要だと知っていても、「聴くことの必要性」までは理解していないケースでは、表面的に育成対象者の話を「聞き」ながら「指導」してしまう場合があります。こうなるとついついコーチの立場の人が話しすぎてしまい、育成対象者が話す機会も減ってしまいます。
アドバイスをする
コーチがコーチング=「教えること」と認識している場合、ゴールまでの答えを教えて導くアドバイスになってしまいます。このようなやり方では育成対象者に気づきを与えることができません。
人は、他人からのアドバイスより、自ら気づいた内容に対して納得感を抱くものです。上記の失敗パターンの例では、せっかくの時間が育成対象者のための時間ではなく、コーチのための時間になってしまうため注意が必要です。
【関連URL】「育てる人を育てる」研修 ティーチング・コーチング・メンタリングを学ぶ
オートクラインとは何か?
前置きが長くなりましたが、オートクラインとは、ここまで説明してきたようなコーチングの重要な作用を表した言葉です。
オートクラインとはもとは生物学用語で、「細胞から分泌された物質が、細胞自身に作用すること」を表します。コーチングにおけるオートクラインは、「自分で話した内容を自分の耳で聞くことで、自分の潜在的な欲求や考えに気づけるようになる」という意味で使われます。同様に生物学に由来する「パラクライン」という言葉があり、こちらは、「情報を相手に伝達する」という一方的な行為、ティーチングに近い意味で使われます。
コーチングで「聴く」ことが重要とされるのは、コーチが育成対象者の話を聴いて質問を重ねることで、「自分で話しながら気づいた」というオートクライン効果が起こるからです。コーチングの目的はこの「オートクラインを起こすこと」と言っても過言ではありません。ちなみに前項のコーチングが失敗するケースでは、オートクラインが起きずパラクラインが起きているといえます。
オートクラインで気づきを得る効果
オートクラインによって気づきを得ることの効果には次のようなことが挙げられます。
本人にとって納得感がある
オートクライン効果によって、自分の発した言葉から「自分がやりたかったのはこれなのか」「この目標を達成したかったのか」と気づきを得られるため、他人にアドバイスをされたときよりも納得感が高くなります。
行動につながりやすい
自分の話した言葉が自分自身を動機づけするため、行動につながりやすくなります。他人からのアドバイスに対して納得感がないと行動できない人もいますが、自らの気づきは行動のスピードも早めます。
気持ちや考えの整理できる
上記効果の裏返しとして、オートクライン効果により納得がいかない気持ちや理由を整理することができます。
例えば、部下が上司の指示に納得していない場合、部下の口から納得していない理由や気持ちを引き出していくことで感情や考えの整理につながり、部下は納得感を持って指示を実行してくれるようになります。
オートクラインを引き出す質問のコツ
オートクラインを引き出すためには、聴くスキルと共に「質問スキル」が必要です。育成対象者の話す割合を増やすことが、オートクラインを引き出すコツといえるでしょう。具体的な質問例も合わせて紹介します。
オープンクエスチョンで聞く
質問の答えをYESかNOで答えられないように、オープンクエスチョンで質問を投げかけることで、育成対象者が自らの考えを回答しやすくなります。
例)
「一番問題だと感じていることは?」
「現在の組織の状態に対してどう思う?」
ゴールを明確にする質問
コーチングで重要なのは、育成対象者の本当に達成したいゴールを引き出すことです。
できるだけわかりやすく言語化や数値化することでゴールが明確になっていきます。
例)
「どのような状態になりたいですか」
「その状態になった時、どんな気持ちになりますか」
「いつまでにその状態になりたいですか」
現状を確認する質問
目標を達成するには、現状を育成対象者に気づかせる必要もあります。現状を確認することで必要な行動が見えてきます。
例)
「100点満点中、今のあなたは何点ですか?」
「現状に満足していないのはどの部分ですか?」
行動につながる質問
ゴールと現状が明確になったら、そのギャップを埋めるための必要な行動に気づかせることが必要です。
例)
「ギャップを埋めるために必要なことは何ですか?」
「具体的にどのような行動につながりますか?」
「いつからその行動をスタートしますか?」
視点を変える質問
コーチングの目的は、育成対象者自身が気づかなったような回答を引き出すことです。そこで思考を活性化させるために、意外性の高い質問をすることが有効です。
例)
「上司の○○さんならどのような行動すると思いますか?」
「予算が十分にあったらどうしますか?」
このように、オートクライン効果を意識するとより実りあるコーチングを行うことができます。コーチング本来の特徴である、自律型人材の育成、組織の活性化のためにもぜひ意識して、正しいコーチングスキルを身につけていきましょう。
関連リンク
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