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ジョブリターン制度導入のための組織づくりと人材育成

公開日:2024/09/26 更新日:2024/09/26

労働人口が減少する中、人材確保の手段として「ジョブリターン」と呼ばれる制度を導入する企業が出始めています。そのメリットを最大限に活かすための導入ポイントを紹介します。

ジョブリターン制度とは何か

ジョブリターン制度とは、育児や両親の介護、または配偶者の転勤などやむを得ない理由で退職した従業員を再雇用する制度です。企業によっては「再雇用制度」「カムバック制度」「自社キャリア採用制度」などと呼ばれることもあります。まだごく一部で取り入れられている程度ですが、人材不足問題を解決する手段の一つとして期待されています。

似ている制度に「アルムナイ採用」があります。こちらは「自発的に退職を選択した人材を採用する制度」というニュアンスで知られています。再雇用する点ではジョブリターン制度と共通していますが、対象者の「退職の理由」が異なることで使い分けされています。

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ジョブリターン制度が注目されている理由

今、企業でジョブリターン制度が注目されている理由は大きく2つあります。

企業の人材不足

日本の労働人口が減少し、若手や優秀な人材確保が企業の課題となっています。企業にとって一度自社で働いていた従業員が戻ってくることは、貴重な即戦力を確保できるという点でン大きなメリットになります。企業側が再雇用する人材の能力を把握していること、再雇用される側も企業の規則や風土などよく知っていることから、ミスマッチを少なくすることができます。

人材の流動化

転職することが一般的になると同時に、企業側も働く側も再雇用への抵抗が薄れています。そうした中でジョブリターン制度を導入することは、一度退職していた従業員が再雇用を前向きに検討するうえでも有効と考えられています。

ジョブリターン制度のメリット

ジョブリターン制度を利用することによるメリットには次のようなことが挙げられます。

採用・研修コストの削減

新規に採用を行う場合の求人広告費や人材紹介会社への手数料といった採用コストを抑えられます。また、再雇用者は一度自社で働いた経験があるため、1から教育する新卒採用や中途採用と比べて、研修コストを抑えることもできるかもしれません。

外部で培われたスキルや人脈の活用

退職した社員がその後に他の企業で働いていた経験がある場合、外部で得たスキルやノウハウなど、自社にはない知見を活かせます。

企業のイメージアップ

ワークライフバランスの充実や女性の活躍促進が求められる昨今、「従業員を大切にする企業」「時代のニーズに対応できる企業」などと、社内・社外に対するイメージアップにつながります。

従業員のモチベーションアップ

とくに出産や育児、介護などで退職せざるを得ない従業員にとって、「戻れる制度」があるのは心強いことです。「企業が従業員のために導入した制度」として、自社へ帰属意識が高まり従業員のモチベーションアップにもつながります。

ジョブリターン制度のデメリット

ジョブリターン制度にはデメリットもあります。これをいかに解決していくかが制度導入のポイントとなるでしょう。

既存従業員が不満を感じる

再雇用された従業員と既存従業員の待遇が同等またはそれ以上になるケースがあります。既存従業員は「ずっと同じ職場で頑張っているので損をしている」などと不満を感じやすくなるものです。自社の制度に対しての不満だけでなく、人間関係にも悪影響を与える可能性もあります。

安易な退職が増える可能性がある

「退職しても再雇用してもらえる」と従業員が捉えてしまうと、安易な退職を誘発する可能性が高まります。企業も再雇用した従業員に対して、「また辞めてしまうのではないか」という懸念が残るかもしれません。

新たな価値が生まれにくくなる可能性もある

ジョブリターン制度に頼りすぎると、新規採用者が少なくなるため、新たな価値創造やノウハウを取りこぼす可能性はあり得ます。

ジョブリターン制度を導入するポイント

こうしたデメリットを解消し、ジョブリターン制度をうまく活用するには、導入前の準備が重要です。注意するべきポイントにつてまとめてみましょう。

制度を利用できるルールを明確にする

安易な退職を抑えるために、「制度を利用できるルール」を明確にして条件を絞ります。具体的には「勤続年数の年数」「退職の理由」「退職前の評価」「退職後の期間」「再雇用フロー」「教育期間」などです。

既存従業員との不公平感が出ない制度を整える

待遇に対しての不平不満を回避するために、既存の従業員をベースに考えて制度を決めるとよいでしょう。再雇用時の給与設定や昇給条件についても慎重に検討する必要があります。

社内外に周知する

社内に制度を周知し、従業員が内容やルールを理解できるようにしましょう。コーポレートサイトやSNSなどでも周知するとすでに退職している人にも制度が伝わることが期待できます。

柔軟な雇用形態を用意する

時短勤務や在宅勤務など多様な雇用形態を用意することで、復職後も柔軟に働きやすくなります。それぞれの事情や要望をくみ取ることで、安心して働けるようになるでしょう。同時に、時間単位での生産性を評価するような評価制度を整えるとよいでしょう。

退職者とつながる仕組みを作る

人材を確保するには、企業と退職者がつながる手段の確保が必要です。退職者の連絡先に定期的に情報を配信するだけでなく、ホームページにジョブリターン制度専用のサイトを作るなどの方法もあります。

再雇用者の育成、キャリア形成を行う

再雇用者に活躍してもらうためには、業務に関する最新の情報提供や研修等の支援も必要です。育成制度を準備することでブランクの不安を減らすこともできるでしょう。復職者にとって再雇用後のキャリア形成は重要なため、「離職後○年までは退職前の役職で再雇用を認める」などルールもあるとよいでしよう。

 

企業の人材不足を解消するために、ジョブリターン制度の活用は有効です。うまくルールを整備し、必要な人材育成制度を整えて、導入してみる価値はあるかもしれません。