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「システム思考」を身につけて、複雑な問題を解決に導く

公開日:2024/10/29 更新日:2024/10/29

昨今はビジネス環境の変化が早く、見通しのつかないことも多いため、企業が事業や組織は複雑な問題を抱えています。そんな中で、目に見えている問題だけにとらわれるのではなく、目の前の事象と他のさまざまな要素とのつながりを把握したうえで問題解決を目指すのが、「システム思考」という思考法です。

システム思考とは

システム思考とは、解決したい問題を取り巻く様々な要素のつながりに着目し、その全体像を「システム」としてとらえ、多面的な見方で原因を探し、最も効果的な解決法へ向かうアプローチのことです。根本的な解決法を探すための組織マネジメントの手法として、多くの外資系企業で取り入られていて、日本でも注目されています。

目の前の問題を解決したつもりでも、別の大きな問題が出てきたり、さらに問題が大きくなったりすることは往々にしてありますが。システム思考で考えることで、目の前の問題に対し、対症療法ではなく、マクロ的、全体的な視点で本質的な問題解決を図ることが可能になります。

また、システム思考では、ロジカルシンキングでは解決が難しい複雑な問題への深掘りができます。

ロジカルシンキングとは、物事を分解して整理したり、因果関係を考えたりする思考法です。物事を分析し、切り分けて考え、点に分解したり、線でつながりを考えたりするのがロジカルシンキングだとすると、点と線を一つの「面」としてとらえ、一枚絵に落とし込んで考えるのがシステム思考(システムシンキング)といえます。

例えば、問題の「原因」と「結果」ということに着目したときに、ロジカルシンキングは基本的に「原因」から「結果」、あるいは「結果」から「原因」という一方向的に階層構造で考えます。それに対し、システム思考では「原因」と「結果」の両方の要素が互いに影響を及ぼし合うことを考慮しながら、双方向的に一枚絵をえがいて考えます。複雑化が進む世の中においてシステム思考は、ものごとの相互作用を理解し、現状を見極めるのに有効な思考法だと言えるでしょう。

システム思考の代表的なツール、「氷山モデル」

氷山モデルは、システム思考で使われるツールの一つです。「氷山の一角」という言葉にもあるように、見えていることは、全体のほんの一部分です。氷山モデルでは、システムの全体像を以下4つの階層に見立ててとらえ、物事の全体像を見ていきます。

①出来事

出来事とは、表面化していて注目されやすいことです。氷山で言うと海面に見えている部分のことで、すでに問題となっていることがらがこの部分にあたります。

②パターン

パターンとは「出来事」が起こる中長期的な傾向のことです。出来事を単独でとらえるのではなく、過去を振り返ることで繰り返し起きているパターンが見えてきます。

③構造

「パターン」を生み出す構造です。構造が分かると、望ましくないパターンを変えるにはどの部分を変えればよいかを考えることができます。

④メンタル・モデル

現状の「構造」を生み出している意識・無意識の前提や価値観のことです。メンタル・モデル自体を変革するよう働きかけることで、よりよい構造、よりよいパターンを生み出すことも可能です。

何か「出来事」が起こった時に、「パターン」を変えなければ問題は解決しません。また、「パターン」を変えるには、それを取り巻いている「構造」を、そして「構造」を変えるには、「メンタル・モデル」を変えないと問題は根本的に解決しないのです。このように4つの階層はつながっています。

最終的に「メンタル・モデル」に働きかけることができれば、当初の問題が解決できるだけでなく、人・組織の意識・無意識の変革を促し、組織内での自律的な学習が進み、議論や意思決定のレベル向上につながることも期待できます。

その他のシステム思考のツール

氷山モデルに代表されるように、システム思考では全体を一枚絵に描いて問題解決へのアプローチを探っていきます。こうしてさまざまな要素のつながりを見える化するためのツールは他にもあり、これらのツールを活用することで、問題に関わるさまざまな要素を理解することができます。代表的なツールとして次のようなものがあります。

時系列パターングラフ

システムに関わる要素の変化を時系列で表したグラフのこと。時間の経過によるパターンを見える化し、大局の流れをつかむことができます。

ループ図

システムを構成する要素、影響を与えている要素などを書き出し、その関係を矢印で結んで相互作用を表現する図です。今起きているパターンを説明し、大局をつくる構造を見える化します。

レバレッジ・ポイント

レバレッジ・ポイントを日本語に訳すと「てこの力点」です。小さな力で大きな変化をもたらす効果的な介入点であり、問題となっている構造の「ツボ」と言えます。どんな働きかけによって何が起こっているかといった相互作用を知ることで探ることができます。

システム思考で考えることのメリット

システム思考の思考法は上記のようなものですが、このような考え方をすることで、次のような効果も期待できます。

新たな着眼点を得ることができる

システム思考では、問題となっている出来事について、全体像を捉えるため、より広く、深い今まで見えていなかった着眼点が見つかる場合があります。これまで思い込みで検討してこなかったことがらについても、検討するきっかけとなり得ます。 

複雑な問題を多角的に捉えることができる

システム思考では、表面化している問題以外の要素があることを前提に、目の前の問題に関わるさまざまな要素を洗い出し、多角的に捉えることができます。複雑な問題をより正確に理解するのに向いた手法と言えるのはこのためです。

物事の関係性を可視化できる

物事の関係性を捉えようとするのはシステム思考の特徴の一つですが、氷山モデルなどのツールを活用することで、「出来事」とそれに関連する要素が可視化しやすくなります。

共通認識を作るツールとなる

システム思考ではある出来事が起こっている理由をさまざまな角度から検討するため、関わっている人たちの相互作用を広く捉えることができます。これにより、多様な立場の人たちが、ひとつの問題に関わっているという共通認識を持ちやすくなります。

システム思考はどんなシーンや人に有効か

「努力をしているのに結果が出ない」「メンバーの主体性や創造性が十分に発揮できていない」「他部署とも連携した全体最適が実現できていない」などの課題がある場合、システム思考による課題解決が期待できます。たとえば以下のようなシーンや対象者に有効と言えるでしょう。

<シーン>

  • 複雑なビジネス環境の中で事業戦略立案と遂行
  • 「学習する組織」への転換
  • 部門・機能別に分かれた組織運営の全体最適
  • 複雑な問題に関するコミュニケーションの推進
  • 多様な利害関係者と調和的に行動する共創的コミュニケーション

<対象者>

  • 経営者・経営幹部
  • 経営企画部門、人事・組織開発部門等の管理者・スタッフ
  • 事業部門、職場のマネージャー、リーダー、およびその候補者
  • 研究開発、商品開発、技術開発等企画部門のリーダー、スタッフ

まとめ

問題解決のためにはさまざまな思考法や手法が存在しますが、システム思考は、より複雑な問題を解決に導くための思考法といえます。新しい視点、新たな角度からの問題解決のため、身に付けておく意義はあると言えるでしょう。