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ダニングクルーガー効果を知って成長に活かす
一般に、誤った認識によって自己を過大評価することを「ダニングクルーガー効果」といいます。組織においては、組織の評価と本人の自己評価とのギャップが大きいと業務に支障が出る可能性もあります。人事担当者はさまざまな問題が起きないように、ダニングクルーガー効果を知り対策することも必要です。
ダニングクルーガー効果とは
ダニングクルーガー効果とは、アメリカの社会心理学者デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーによって提唱された、認知バイアスの一種です。
発表された論文では、「他者からの評価と自己認識との間に差異が生まれる、または自身の認識が不正確になる現象」が示され、本来は「無能な人ほど自己評価が高くなること」「有能な人ほど自己評価が低くなること」の両方がダニングクルーガー効果に当たると言えます。しかし現在、一般には前者の意味、つまり「能力の低い人や経験の浅い人が、外部からの評価と自己評価とのギャップを正しく認識できず、誤った認識で自身を過大評価してしまうこと」という意味で使われています。
こうした用法を前提として、ダニングクルーガー効果の反対の概念とされているのが、「インポスター症候群」です。しかし、「他者から高く評価されているのに自己の能力を過小評価してしまう」というインボスター症候群は、「自分の能力を正しく評価できていない」という意味ではダニングクルーガー効果の一つとも考えられます。
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ダニングクルーガー効果と「馬鹿の山」
ダニングクルーガー効果に関連してよく知られているのが、「知識や経験」と「自信」の関係で表した曲線と、それぞれの段階に付けられた名称です。
①「馬鹿の山」
「知識・経験」が低く「自信」が大きい状態のことで、現在一般に言われている意味でのダニングクルーガー効果はこの状態を指すと言えます。多少の知識を得たことですべてが身についたと思い込み、自信に満ち溢れている状態ですが、自己認識としては誤っています。
②「絶望の谷」
①よりは「知識・経験」が増えた段階です。学習を進めていくうちに、他にも学ぶべきことがたくさんあるのを知り、自らの知識や能力の不足を実感し、自信を失っている状態です。
③「啓蒙の坂」
さらなる「知識・経験」を得て、自身の成長を実感し、自信を持ち始めている状態です。
④「継続の台地」
「知識・経験」の増加に従って「自信」も増した状態です。学び続けることで成熟し、正確な自己評価が行えるようになっていきます。
ダニングクルーガー効果はなぜ起こるのか
ダニングクルーガー効果が発生する理由として、メタ認知能力の不足が挙げられます。メタ認知能力とは、「考える/認識する/判断するといった自己認知を、自らが客観視する能力」のことですが、これができないことで誤った自己評価をしてしまうというわけです。
メタ認知能力が不足する原因としては、以下のようなことがらが考えられています。
他者からのフィードバックの機会が少ない・受け付けない
人は他者からの客観的なフィードバックを受けることで、自己を客観視できます。しかし他者からのフィードバックの機会が少ないか、あっても受け付けない状態が続くと、自己評価が実際以上に高まりやすくなります。
原因を追求しない
失敗や成功の原因の振り返りをしないと、改善点やうまくいったポイントにも気づけず、自分自身を正しく認識する能力が身につきません。
他責思考が強い
何か失敗や問題が起こった際に、自分以外に原因を求める傾向が強いと、自己認識を誤りがちです。
ダニングクルーガー効果の何が問題か
メンバーの自己評価が実際の能力より高いとさまざまな問題が起こります。企業においては次のようなことが考えられます。
業務が遂行できない
自分の能力を過大評価することで、能力以上の業務を引き受けるものの、能力が追いついていないため、やり遂げられなかったり納期を守れなかったりするケースがあります。慎重に取り組まないといけない業務に対しても油断して、失敗してしまうこともあるでしょう。
失敗から立ち直れなくなる
上記のように業務が遂行できず、いざ失敗や困難に直面した際、自己評価と自分の能力とのギャップを受け入れられず、立ち直れなくなってしまうこともあります。
成長できない
知識や経験が少ないのにもかかわらず「自分はできている」と思い込んでいるため、新しい知識の習得や努力をしません。「自分に足りない能力は何か」と、考えることもしないため成長できません。
対人関係でトラブルが起こる
根拠のない自信によって、他者を見下したり、責任転嫁したりすることで、まわりから厄介な人だと距離を置かれるなど人間関係に支障が起きやすくなります。
ダニングクルーガー効果への対策
ダニングクルーガー効果は、前出のようなさまざまな問題を引き起こし、業務にも悪影響を与えます。しかし、メカニズムを理解していれば、組織として対策を行うことも可能です。
目標や成果を数値化する
メンバーが客観的な指標で自分自身を見られるようにするには、目標や成果を数値化するのが効果的です。数値で示すことで、従業員は自分の実力と自己評価のギャップに気づきやすくなります。
他者との交流の機会を増やす
多くの人と交流することで、さまざまな価値観や新しい情報に触れ、自己の認識を振り返ることができます。まわりの意見を受け入れられるようになることで、人間関係が円滑になるでしょう。組織として交流の機会を設けるほか、メンター制度を導入するのも有効です。
チャレンジの機会を増やす
新しいチャレンジをする際、ダニングクルーガー効果によって過大な自信を持っていると、実力が伴わないために失敗する可能性も高いかもしれません。しかし、自己評価を見つめ直すきっかけにはなります。ただし、上司による適切なフィードバックやフォローも不可欠です。
ダニングクルーガー効果は誰もが陥る現象です。育成担当者やマネジメント層がメンバーの自己評価を知り、こうした現象を避けるための環境作りや適切なフィードバック体制を整えることも、従業員や組織の成長には必要なことかもしれません。