1. TOP
  2. コラム
  3. 抑えておくべきトレンドワード
  4. ニューロダイバーシティの考え方と実践

公開日 : 更新日 : ニューロダイバーシティの考え方と実践

「ニューロダイバーシティ」の考え方は、職場における多様性を尊重し、発達障害を含む神経発達の違いを活かして、組織の成長と活力を促進しようという考え方です。この概念の背景と実践方法を通じて、働きやすい職場環境の実現に向けてできることを考えます。

ニューロダイバーシティとは何か

「ニューロダイバーシティ(Neurodiversity、神経多様性)」とは、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)を組み合わせて生まれた言葉です。脳や神経の機能に由来する個人の特性の違いを多様性として捉え、尊重し活かしていこうという考え方から来ています。​特に、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などの発達障害に関連して、かつては特性として理解されることが少なかったことも、「個々の違い」として捉える発想に基づいています。

経産省が実施した、イノベーション創出加速のための企業における「ニューロダイバーシティ」導入効果検証調査事業報告書(令和5年3月改訂)には、「特にデータアナリティクスやITサービス開発といったデジタル分野の業務は、ニューロダイバースな人材の特性とうまく適合する可能性が指摘されている。」と記載されています。

一方で、「オフィスワーカーの約5%は発達障害の特性を持つグレーゾーンに該当している」といった調査結果もあります。こうしたことを背景に、ニューロダイバーシティは、発達障害と診断されているか否かに関わらず、すべての人を対象とした多様性尊重の概念として広がりを見せています。

ニューロダイバーシティに注目が集まる背景

ニューロダイバーシティが注目される背景には以下のような要因があります。

社会全体での人材不足

少子高齢化が進む中、労働力の確保が社会全体の課題となるなか、ニューロダイバーシティを意識することで、これまで以上に幅広い人材の能力開発が可能になると期待されています。

発達障害に対する理解の進展

過去にはマイナスと捉えられてきたことについても、「特定の分野で高い能力を発揮する」「環境が整うことで活躍できる」といった理解が進んできたことで、特性を活かすことに目が向けられるようになりました。

イノベーション促進への期待

「多様性の高いチームからは価値のある研究結果が生まれやすい傾向がある」といった調査結果から、より多様な視点や思考を取り入れることで企業のイノベーション促進につながることが期待されています。

発達障害の種類と、それぞれの強み・困りごと

ニューロダイバーシティの考え方は、マネジメントにも役立てることができます。そのためには、それぞれが持つ特性や強み、また注意が必要な点を理解することが重要です。代表的な特性の種類別に見てみましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)

社会的なやり取りやコミュニケーションに困難があり、特定の行動パターンや興味に強いこだわりを持つことが特徴です。ただし、特定のことについては強い興味や関心、集中力を発揮し非常に優れた能力を発揮することもあります。

強み

  • 規則性に強い
  • 高い集中力を持つ
  • 視覚認知に強い など

注意が必要な点

  • 曖昧な指示や言外の意味を理解しづらい
  • グループでの活動が難しい
  • 感覚過敏(大きな音や強い光が苦手)
  • 機応変な対応が苦手 など

ADHD(注意欠如・多動症)

注意を集中させるのが難しく、衝動的な行動や多動が特徴的です。同時にいくつかのことをこなす能力に優れており、変化する環境で柔軟に成果を出すことが得意な場合があります。

強み

  • 反応、適応が早い
  • アイデアが豊富で創造的
  • 刺激に強く柔軟性がある など

注意が必要な点

  • 集中が続かない
  • 忘れ物・ミスが多い
  • 衝動的に発言・行動しがち
  • 計画を立てることが苦手
  • 落ち着きがない など

学習障害(LD)

「読む」「書く」「計算する」など特定の学習分野においてのみ困難があります。「音読が遅い」「漢字が覚えられない」「九九が覚えられない」など特性は人によって異なります。

強み

  • 独自の視点や創造力
  • 空間認識力
  • 特定の分野への高い集中力 など

注意が必要な点

  • 読み書きや計算に時間がかかる
  • 文字や情報の処理が難しい
  • 複数の指示に混乱する場合がある など

ディスプラクシア(統合運動障害)

DCD(発達性協調運動障害)とも呼ばれ、手と目、手と足など身体の複数部位を協調させて行う運動に困難を感じる特性です。「洋服のボタンかけが苦手」「字がうまく書けない」「靴ひもが結べない」などがあります。

強み

  • 創造的な思考力
  • 粘り強さ
  • 視覚的・聴覚的能力の高さ など

注意が必要な点

  • 手先が不器用
  • 複数の動作を組み合わせて行うタスクが苦手 など

人によっては一種類ではなく複数の特性を​併せ持つこともあり、その組み合わせも人によって異なります。また、はっきりと診断を受けてはいない場合でもこうした特性を持っていることはあります。こうしたより多様な人について円滑なマネジメントを行ううえでも、ニューロダイバーシティの考え方が重要というわけです。

マネジメント側が意識するべきこと

企業においてニューロダイバーシティを推進するには、それぞれの特性を持つ人が能力を発揮しやすい環境に整えていくことが重要です。企業として意識すべきことを押さえておきましょう。

特性への配慮

特性に応じた環境を整えることで働きやすさが向上します。例えば、「音や光に敏感な人には静かなスペースを用意する、ノイズキャンセリング機能付きのイヤフォンの使用を許可する」や「マルチタスクが苦手な人には、優先順位を明確に伝える」など、不得意なことを踏まえた配慮が効果的です。

暗黙のルールに頼らないコミュニケーション

明文化されていないルールがある場合、口頭や文章で明確に伝えることが理解を助けます。たとえば、「なるべく早く」ではなく「明日10時までに」というように具体的な指示が有効です。

評価プロセスの見直し

例えば採用の場面で、面接だけではなく実技評価を取り入れることで、より多様な特性を持つ人を適正に評価できるようになります。また、面接において「雑談力」や「目線の合わせ方」などを過度に重視しないこともポイントです。

職場全体の「理解」を促す

働きやすい職場環境にするには、「発達障害に対する理解」が必要です。ニューロダイバーシティに関する研修などを通じて、「職場で発生しやすい課題と対応策」など実践的な知識の共有を行いましょう。

 

発達障害などの特性は、医学的には「障害」として扱われることがあります。しかし、ニューロダイバーシティを実践するうえで重要なのは、あくまで「異なる脳のあり方・特性」であるとみなすことです。能力の多様性を前提とすると、「苦手・不得意とされることが強みになる」ことがあります。組織の成果を最大化するには、個々の弱点を補い合い、得意なことを組み合わせることが重要。そのためにも、個々の人材の特性を見極め、それぞれにあった対策を行うことがポイントとなるでしょう。

<関連記事>