◆カスタマイズ階層別研修
三菱電機トレーディング株式会社 芳須康次社長と増田松司総務部長にお話を伺い、JMAがご支援している研修を中心に、同社の教育施策についてご紹介いただきました。日本能率協会 小関俊洋がインタビューします。(文中敬称略)
「会社の生い立ち」と「現在の事業環境の変化」
(小関)
三菱電機トレーディング様の概要を、ご紹介いただけますでしょうか?
(増田)
当社は現在、三菱電機冠称会社で、ほぼ100%三菱電機様に出資されている会社です。生い立ちとしては、1979年に、三菱電機の海外貿易部門がメルコオーバーシーズ(株)としてスタートしたのが一つの母体です。
もう一つは、三菱電機の資材部門の一部が(株)メルコマテリアルサプライとして1995年に設立され、2000年にその2社が統合し、海外を含めた調達、貿易を生業とした会社としてスタートしました。
そういった生い立ちで流れがわかるように、当社の事業は大きく二つあります。
一つは三菱電機と歩調を併せて、部品や材料の調達をする機能です。そして、もう一つは、三菱電機グループの調達と、輸出入の手続きを行う貿易という機能を現在持っています。
それに加えて、いろいろな取引に伴うシステムを常に提供し続けることが大きなポイントになります。
したがって、貿易調達プラス、アプリケーションの提供を大きな軸として事業を拡大してきました。
これまでは、三菱電機との取引が大部分を占め、三菱電機の売上が拡大すると共に当社も拡大してきました。しかし、現在、三菱電機が世界戦略を展開する中で、海外の生産拠点に近いエリアでグループ外から調達するという動きもあり、当社の売上もそろそろ頭打ちになってくることが想定できます。
よって、我々自身が新しいビジネスを創出していかなければいけない、そのような背景が現在当社を取り巻いている状況です。
当社の事業所のほとんどは、三菱電機の各製作所の中にあり、現在21か所があります。
事業所別の従業員数は、多いところで50名程度、少ないところで6名程度と大小がありますが、合計すると520人程度の社員が働いています。 昨年度の売上実績は、約2800億円でした。
(小関)
ありがとうございます。
経験者採用が多いことの強みと弱みとは?
(小関)
次に、2014年度から、チームリーダー研修(TL研修)、お二人を含めた経営幹部の皆さまに受講いただいたファミリートレーニング(ファミトレ)などを導入するにあたり、その背景にあった御社の課題をお聞かせいただけますでしょうか?(※研修体系 右図:クリックで拡大)
(増田)
当社の教育施策については事業と労務構成が関係しています。当社の社員の約65%が経験者採用で、他社からの転職者が占めます。彼らの特徴は、皆、非常に自分の仕事はしっかりこなし、その多くは自分の仕事に対する責任感は非常に強いです。 一方で、「隣の人は何しているのか」ということについて、あまり意識していないように感じられました。
「会社の仕事は人と人とが連携しながら積み上がっていくこと」が多く、こういう状態をいつまでも継続していくと、様々なところで問題が起きてしまいます。
そのような問題を解決していくことがマネージャーの役割になりますが、マネージャーも経験者採用が多く、さらに、マネージャー候補者も十分に育成されておらず、層が薄い状況でした。
そこで、課長職の下に小さな単位の組織を管理する役割の「チームリーダー」というポジションを2006年に作りました。マネージャー候補者の育成を狙っていましたが、「窮余の一策」的なところが多く、チームリーダーも転職者が多い状況でした。自分の仕事以外の事や人の面倒を見るという意識がなかなか醸成されないことが大きな課題の一つだと思っていました。
こうした背景の中で、コミュニケーションをベースにして、リーダーを育成する研修を企画しました。
リーダーを育成するのに本来は5~10年くらいかかるものですが、我々にとってはそんなに時間がないので、速成的でもいいのでまずは企業人として人とつきあう上での「いろは」をしっかりと押さえさせたいという狙いで、JMAさん含めて3社をお招きして、「当社としてこういう研修を企画したい」という説明をしてご提案をいただきました。それを2回ほど繰り返して、その3社のコンペティションで最終的にJMAさんにお願いしようという結論に達しました。
(芳須)
繰り返しになりますが、私どもの会社は経験者採用というのが多くて、その前職ではもちろん質の高い仕事をしてきた方たちと思いますが、やはり社員同士のベクトルが合っているかというとそうでもなかったです。
そのため、経営方針・経営理念をしっかり理解して同じベクトルに向いてもらう必要があると思いました。
それからもう一つは、事業所間の横の連携という点では、あまりコミュニケーションがとられていないことがあります。
まずは「会社の向かう方向を理解すると共に、横の方とも同じレベルで仕事をしてもらう」ということが必要かなと思っています。我々はそういう課題を持っていましたから、研修を通して、上手くその辺が解決できればいいかなと思ったわけです。
JMAをパートナーとして選んだ3つの要素とは?
(小関)
教育機関の選定で3社の企画競争になったというお話でしたが、その中でJMAを選んでいただいた決め手はどういうところでしょうか。
(増田)
今回、人材育成の重要なポイントとしてお願いしたことの一つは、受講者の自己分析が入っていることです。コミュニケーションというのは、お互い違う人間であるということを理解することだと考えています。違う人間が一つの同じ目標に向かって仕事をするためには、自分のことを知り、自分以外のことも良く理解する必要があります。自己分析ツールを使って、実際の業務の中に落とし込みができるような内容にしたいと考えていました。
2つ目にオーダーしたことは、単にコミュニケーションではなく、実務ですぐに使えるスキルを学ぶことです。例えば、会議やミーティングの場面での、合意形成の方法や伝達・説明の仕方などです。
3つ目は、やはり講師です。コミュニケーションというのは、なかなか理屈の世界ではないので、講師の素養や人間性や信念というのが非常に大きく影響をするだろうと思っています。
確か「JMAさんにお願いしますよ」と言った後に、講師について注文をつけさせていただきました。最初に提示いただいたのが研究者として権威のある方で、それよりももう少し実務に長けた方にということで、現在お願いをしている中島先生をご紹介いただきました。
30分程度だったと思いますがお話を聞いて、キャリアも見させていただきました。この人だったら様々なケースに対応して講義をされるだろうな、ということは期待できましたので「ぜひお願いします」と判断しました。
(芳須)
中島先生とお会いした時は、すごく印象が良くて「この人だったら任せられるな」というふうに思いました。
それで何度か研修でご一緒させていただいて、素晴らしい人でした。
非常にバイタリティもあるし、明るいし、それから社員のマナー教育もしていただき、すごく礼儀正しくなったような気がします。本当に良かったです。
研修効果を上げるための配慮
(小関)
私がすごいなと思ったことは、チームリーダー(TL)研修や今年度から実施しているグループリーダー(GL)研修の中で、社長が海外出張からお戻りになられてすぐ、社長講話の時間を設けていたことです。このように御社の中で研修を進めていく上で、お二人が工夫されている点をお聞かせいただければと思います。≪文中の研修の体系図≫
(芳須)
GL研修でも言ったのですが、やはりGLの方というのは今後の弊社の中枢であり、要を務めていただく方々ばかりなので、私の口から言って、しっかり自分を認識してもらうことが大事です。
「将来を君たちに託す」ということをしっかりと理解してもらいたいということもあって、今後も自ら出て伝えようと思っています。
来週も研修がありますので、「しっかり私の意を伝えよう」と思っています。
(増田)
私の役割は、社長をフォローアップすることです。
社長が言ったことを噛み砕ける社員と、上手く噛み砕けない社員がいます。時折、社員の顔色を見てどの程度理解しているのかなというのを計り、社長が言ったことが上手く伝わっていないようであれば、中島先生に「ちょっと時間をください」と言って研修中にフォローアップをします。
(芳須)
理解度には個人差がありますからね。
(増田)
研修の現場を全部講師にお願いするのではなくて、時折会社として介入することで、研修効果を上げることが私のスタンスです。
受講者に目線を合わせることの大事さ
(小関)
私も研修の現場で、増田さんからアドバイスいただくことで、皆さんの理解が進むということを経験しており、本当に助けられました。
芳須社長の講話でも「プロフェッショナルとは何か」という問いかけをされていました。社員の皆さんと非常に近い距離でお話をしようと工夫され、皆さんに考えさせる良い問いかけをされていると感じました。
(芳須)
そうですか。ありがとうございます。
やはり上の人が下に下りていかないと駄目だと思っています。上から目線で話していたら駄目なのです。上の人間が下に下りていく、レベルを合わせる、目線を合わせることが大事です。
(小関)
話は変わりますが、実際にJMAと一緒に仕事をして感じた事はありますか?
(増田)
JMAさんは企画段階から運営面まで様々な要望に丁寧に対応をしてくれているなと感じています。
しっかり準備をしていても、やはり研修というものは生き物ですから、受講者のペースというものがどうしてもあると思います。
受講者のペースに合わせて、色んな流れを変えながらやられているところに、中島先生の力量を感じます。そういう印象を持っています。
人材育成は「一日にして成らず」
(小関)
次に、今後の課題としてお考えになっていること、更に我々にどういうことを期待されているかをお聞かせいただけますか?。≪文中の研修の体系図≫
(増田)
私どもは、今年は一般社員研修に拡大していくことを考えています。「エニアグラム」(※研修で活用している性格タイプ診断)というのは非常にいいツールであると思いますが、リスクを持っているツールでもあると思います。
色々な人の個性を確認しながら、その人は自分に対して改善意識を持ってくれれば問題ないですけれども、「あの人はこういう人だから良くない」といういわゆる表面的な理解をされてしまうと、逆に距離がまた開いてしまうというツールでもあると思います。
やはりある程度の受容能力のある人じゃないと展開できないと思っていますね。
昨年、経営幹部のファミリートレーニング(ファミトレ)とチームリーダー(TL)層の研修に、今年はグループリーダー(GL)層に対して実施しています。さらに、下期からTL研修とGL研修を受講した全員を対象に、研修で学んだことを実務でどう活かしているかを共有する場として、フォローアップ研修を企画しています。
研修を一度受けたからといって、すぐ実務の中で展開できるかというと上手くいってないのが大多数だと思います。
ただ、上手くいっている人がいるはずなのです。10組あったら1組くらいは、なんらかの成果に結び付いた活動になっていると思います。
GLとTLのフォローアップ研修をやる中で、上手くいっている人と上手くいってない人の違いを共有してもらい、少しでも研修の成果を全員が実感する、というところに持っていきたいです。
そうすることによって、業務の中に落とし込みというのができると思うのです。
急ぎ過ぎると失敗してしまうので、少しでもいいので成功体験をどこかで持った上で展開していく、その点で少しまたJMAさんのお知恵を借りたいと思っています。
本当に会社のコミュニケーションが上がっていかないと意味がないので、これから「成果に結び付けていくには」という知恵を絞らなければいけないのだと思います。
(小関)
GL研修、TL研修では、会議の進め方についてのファシリテーションや、後輩部下の良さを引き出す、モチベーションを上げるようなコーチングを中心にお伝えしていますね。すぐに実務に活かせるように、スキル習得を狙いとした内容で展開をしています。
(芳須)
エニアグラムで自分のタイプを把握した上でやるということなのですね。
仕事をする中で時間をかけて、少しずつ身につけていけば良いと思っています。
GL研修やTL研修は一年開催して「はい、おしまい」ではなくて、TLからGLに上がる人もいるし、担当者からTLに上がる人もいるので、継続してやっていくことが必要だと思います。
フォローアップも含めて、また新たなカリキュラムをご提案していただく中で、我々も進めていきたいと思っています。
「コミュニケーション」の本質とは?
(小関)
同様の課題をお持ちの他企業の方に向けて、何かアドバイスをいただけると幸いです。
(増田)
社長は就任以来ずっと「コミュニケーション」というキーワードで様々な活動を行ってきました。一昨年は35周年にあわせて全員集会を企画して、全国に点在している社員を1回全員集めようということで、一泊二日の研修会を実施しました。その時のテーマも「コミュニケーション」でした。
言葉では皆さん「コミュニケーションが大事だ」とは言うのですが、実際に行動にしていくというのは非常に難しくて、お金もかかるし、時間もかかります。ねばり強くやらないと成果が出てこないので、本音を言うと、なかなかとっつきにくい課題だと思います。
最近様々な企業でコンプライアンスやセクハラ・パワハラなどの倫理観に近い問題が出てきていますが、そういう問題が発生する根っこの部分には、やはりコミュニケーションや相互理解が関係していると思います。
規則や仕事の進め方を工夫するのは当然のことながら、やはり根源的には人間と人間の関わり合いについて、深掘りを怠らないことが今の企業には要求されているのかな、というところが率直な気持ちです。
共通言語の重要性とは?
(小関)
中途採用の方が65%を占めており、なかなか共通言語を持てない状況で、総務部長というお立場から色々な施策を展開されてきたと思います。組織の共通言語の重要性についてはどのようにお考えですか。
(増田)
やはり会社組織を強くするためには共通言語は欠かせない一つの要素だと思います。
当社の歴史は35年ですが、実際合併したのは2000年でそれから15年しか経っていないし、経験者採用の平均的な勤続年数は約8年です。
そのため、下手をすると、「当社の生業も知らない・歴史も知らない」という社員もいることになります。その社員がこれからの我々の新しい歴史を作っていけるのだろうか、という問題意識はありました。
そこで、社長が「35周年全員集会」を発案し、記念史を作ることにしました。記念史で当社の歴史を紐といて、共通の歴史を見返すことで、会社としての共通言語をつくろうという想いでやってきました。
この次は各職場の中で共通言語を持って、組織を変えていく人達の育成を目指したいかなと思います。
ワクワクカンパニー ~三菱電機トレーディング~ を目指して
(小関)
最後に、社長のビジョンについてお聞かせ頂けますか。
(芳須)
「過去の大木にすがってはいけない」「常に新しいコトを考える組織文化にしたい」と思っています。
社員の意識を変えるきっかけのひとつとして、私自身が全国の事業所を回り、「社長フォーラム」なる社員との直接対話する場をつくり、既定路線にとらわれない自由な発想やビジネスモデルを考えてみることの重要性を伝えています。
同時に、社員から自発的に提案する場もつくり、新たなビジネスモデル創りにチャレンジしています。
社員がワクワクする会社にすることが私の使命です。
(小関)
本日はありがとうございました。