◆関連ページ
・次世代経営者・経営幹部育成
経営幹部育成を目的に、様々な施策を実施されているニッポンハムグループ。日本能率協会(JMA)はその一つである部長層向けの「経営セミナー」をご支援させていただいています。経営幹部育成をスタートさせた経緯や、経営者に必要な力、今後の展望について、ニッポンハムグループの教育研修をとりまとめている日本ハムキャリアコンサルティングの代表取締役 今村圭史様にお話を伺いました。聞き手はJMAの水沼勉です。(本文中敬称略)
経営者育成に取り組んだ背景
(水沼)
まず、今村さんの現在のお立場、役割について教えてください。
(今村)
当社はニッポンハムグループの採用と教育に特化した会社で、ニッポンハムグループで企画した事業、もしくは弊社と一緒に企画したものを運営しています。現在私が代表取締役社長を務めさせていただいております。
(水沼)
JMAが支援させていただいています経営者育成について、企画された背景等、お聞かせいただけますでしょうか。
(今村)
当時の経営層の課題認識として、次期経営者を計画的に意図的に育成をする必要があると考えたことが背景にありました。
ニッポンハムグループは事業部制の会社です。例えば加工品を扱うセクション、お肉を扱うセクションという感じに各事業が成り立っています。お肉関連以外にもお魚やチーズを取り扱う会社もあります。普段はそれぞれが専門特化し、スペシャリストとして会社が大きくなっていますし、人財もスペシャリストとして成長をしてきています。
しかし、経営者となると、それだけでは駄目で、広くグループ内外のことを理解していないと、最適な意思決定はできないと私は思っています。
普段はそれぞれの専門分野のお仕事がメインですが、経営者育成の取り組みではトータルに経営者としての考え方やマインドを身に着けてもらえるような内容にしています。
経営者が何らの事情で交代する時、次にその役割を担ってもらう人財がいるか?かということを真剣に考えたのがきっかけです。それまではあまり考えておらず、各部門で専門特化したことをやっていたので、全体感を持った経営人財が育っていなかった。そういう危機感もあったのだと思います。
(水沼)
貴グループにおける経営者育成に関する取り組みを教えていただけますか。
(今村)
階層ごとに選抜型の研修を実施しています。
次期役員クラスを担う部長クラスに対する「経営セミナー」、課長クラスに対する「ビジネスリーダーコース」係長クラスには「ビジネスカレッジ」「ミッションチャレンジ」、若手層には「ミッションチャレンジ」という、主に4つで構成されています。
(水沼)
JMAは「経営セミナー」をご支援させていただいていますが、今村さんがこのセミナーをご担当されたのは5年前ですよね?その前は、今村さんはどんなお仕事をされていたのですか。
(今村)
私は食肉事業本部というところで、営業を担当していました。
(水沼)
経営セミナーを担当することになって、最初はどう思いましたか?また、一番苦労したことをお聞かせください。
(今村)
経営セミナーはグループの一番上位の選抜型研修だということは知っていたので、そこに携わるのは大変だなあ、という思いがありました。グループ企業の役員も参加しますが、経営セミナーでは、立場の異なる共同作業者という前提で、役員クラスの方々への連絡や、研修の中身を伝えて、理解・協力してもらうというのが大変でした。
経営者に必要な人間力
(水沼)
経営セミナーは、どのような内容なのでしょうか?
(今村)
経営セミナーは1年間かけてグループの経営陣へ提言をする、というプログラムです。
前半はアカウンティングやファイナンス、ビジネスモデル等の経営知識のインプットと、人間力・リベラルアーツといったテーマについて考えていく内容です。後半は、前半でインプットした知識や考え方を活かして、経営陣に向けた提言をグループで作り上げていきます。
(水沼)
JMAが永らく支援をさせていただいていますが、毎年ブラッシュアップしながら内容や進め方を変えていっています。今村さんが重視するのはどのような点ですか?
(今村)
私は、経営者になるためには人間力がとても重要だと思っています。そういう意味でリベラルアーツなどを扱う比重をもう少し上げていきたいなと考えています。というのも、経営知識等は極端な話、自分で分からなくても部下に担ってもらい、経営者はそれを基に決断すれば良い、決断する力こそが肝要だと考えています。
その判断をする人間として、まずは組織を束ね、活性化する。というときに、人間力が大切だと考えています。私は人間的な魅力がある人が上に就かないと、結局部下は動かないような気がしています。もちろん経営の基礎知識も大切ですが。
また、セミナーの中の仕掛けの一つで、私が良いと思っているのは、多面観察です。上司や部下、同僚が、被評価者(受講生)をどう思っているかが分かるというのは、非常に大きな気づきと刺激になっています。
(水沼)
今、人間力が大事だというお話をいただき、僕も非常に共感するのですが、今村さんにとって、人間力のある人、人間的魅力がある人とはどんな人ですか。
(今村)
難しい質問ですが、最終的に責任を取れる人が、部下がついていく人だなと感じています。
細かい指示ができる・できないなどは置いておいて、最終的にはエンパワーメントしてくれて、部下が働きやすいように調整してくれる人。そして、進む方向の大きな舵取り、「こうやるぞ」というのを決めてくれる。僕としては一番大切なのは人間的な魅力、部下がついてこられるような人が「人間力がある人」だと思っています。
言葉にできないけれど、この人の為に頑張ろうとか、ついていきたい、思わせる人がベストだと思います。
また、何かあったときに、素直に「失敗しました」や「申し訳ございません」などが素直に言える。そういう経営者のほうが、人間味があって良いのではないかと考えています。特に役職が上の人は、自分がやったほうが早いというような感覚はあるのでしょうが、皆の成長の為にそれを我慢する。結局1人でできないのですから。
(水沼)
多面観察の話がありましが、毎年、結果を受講者にフィードバックした際、ショックを受けている方も多いですよね。
(今村)
そうですね。それは自分が「できている」と思っていたことが、意外に部下には「できていませんよ」という評価をされるからだと思います。ある程度の役職になれば、マネジメントの勉強や経験もしてきているので、受講生はある程度の自信を持っているのでしょうが、多面観察の結果から、「実はできていませんよ」ということを客観的に指摘されてしまう。
そこに驚きショックを受けていますが、フィードバックセッションで、結果をじっくりと読み込み、自分の課題を考える時間を取っていますので、ショックだけで終わらずに、良い気づきに繋がっていると思います。上司から面接で「あなたはできていないよ」と10回指導されるより、その多面観察ワイパーの結果を見たほうが、一発で心に響くと思います。
(水沼)
毎年、研修の実施→結果報告→改善というサイクルを回していますが、一番苦労するのはどのあたりでしょうか?
(今村)
研修の細かい内容については、時流によって変えていきます。そこはとてもスムーズに貴会と連携して実施できています。ただし、後半に行う経営陣への提言については、実際の経営にインパクトを与えていないことは、課題と捉えています。
過去に提言の一部が中期経営計画に採用されたこともあるのですが、多くは実際の経営に影響を与えていない、という現実があります。研修に参加して、提言を行った人たちの中には、その提言を頑張って実行したいと思っている人もいます。
今後は提言を、実際の経営にインパクトを与えられるものにできるよう、仕組みや仕掛けを事務局として改善していきたいと考えています。
その改善策の1つとして、今年は経営企画部が研修プログラムの中にしっかり入ってセッションの時間を持ちます。現在進行中の中期経営計画と、10年先の最終経営提言の整合性をとる為です。
(水沼)
提言に関して、こういうテーマやこういう内容の提言をしてくれたら良いなという今村さんの理想はありますか。
(今村)
難易度は高いと思いますが。私たちはグループ経営をしていますので、自分の事業部や自分の会社のことではない、全社的な提言を期待しています。それには先ほど言った中期経営計画を踏まえたものである必要があります。そのうえで、今までの仕事の延長線上のではない提案やアイデアの着想などがあると良いと考えています。
その為にはこの経営セミナーだけではなくて、実は主任、係長のもう少し頭の柔らかい世代から、アイデア着想等を鍛える必要があるかもしれません。階層別の研修などで、基礎的なアイデア発想の勉強をもう少し積んでも良いかもしれません。
最初に戻りますが、本来会社が小さいときは、全て自分で考えて、自分で決断して、自分で回していっていたはずですから。
JMAを選び続ける理由
(水沼)
事業部で営業をやられていたときと現在の社長という立場で、見える景色やご自身の覚悟などは、変わるのでしょうか。
(今村)
見え方は全然違います。事業部では予算があって、収支利益を出して、自分の部下を育成するという明確な責任の範囲があります。つまり、その事業の成長だけ考えておけば良いですが、本来はその周りに色々な仕事があります。例えば経理や人事の仕事などですが、それは専門のセクションに任せています。
ですが小さいながら経営者となると、全て自分でしなければならない。税金を納めに行ったり、人事制度を整えたり、給料を決めたり。
今はいろいろな仕事を全て自分でせざるを得ない。それが新鮮でもあります。
(水沼)
意思決定をする事象の質が違いますよね。
(今村)
そうです。大変さはどちらも同じです。ただ、全てを考えるのが楽しいことでもあるし、責任も感じますね。
(水沼)
少し話が変わりますが、経営者セミナーの支援パートナーとして、永らくJMAを選んでいただいている理由はどのあたりにありますか?
(今村)
本音をいうと、もう長年支援していただいている実績があるので、安心・安全というのはありました。それと、私と日本ハムの人事部長が決めた一つの大きな要因はプログラムの中身です。50歳前後の方々に詰め込み型の勉強を押し付けても無理でしょうと。
地位もあるし、忙しさもあるでしょうし、柔らかい頭ではなくなっているのもあるでしょうし。ですから、そこをあまりにも詰め込んだりするような中身だと厳しいかとは思いました。もちろん、経営者としてはある程度の知識は必要です。ですが、先ほどお話ししたように、そこは長けている人に任せたら良いと思うのです。どちらかというと経営者は人間力や決断力が大切だと考えます。意思決定するのは孤独です。判断ではなく、決断しなければいけない。
JMAさんに提供いただいているプログラムは、知識と人間力の両面があります。また、研修のスタイルも評価しています。コーディネートする講師を立てて、ずっと一緒にトレーニングするような感じですね。コーディネーターの影響は大きいと思います。
あとは、JMAの担当者の方との距離の近さといいますか。皆さんとフランクに話せる雰囲気は大きいですね。親身になって研修のことを考えてもらえていると感じますし、レスポンスも早いし、簡単なことはもちろん、難しいオーダーにも、なんとか答えようとしてくれます。
(水沼)
ありがとうございます。
では、研修の効果といいますか、研修実施後の会社・グループ内の変化について、今村さんが感じているところをお伺いしたいのですが。
(今村)
まず目に見えて分かるのは、受講者同士のネットワークが充実しました。1年間同じ釜の飯を食っているので、グループや部長級のクラスにとって非常に良いことだと思います。また、受講者の皆さんの考え方も変わっていることも実感しています。
それは事後レポートなどでわかります。例えば、「今までのアカウンティングは嫌だったけれど、研修を受けて数字の見方が変わり、経営にとって重要であることが認識できた」というような感想などがありました。
(水沼)
「あの人、こういうふうに変わりましたよね」のような話を、今村さんが耳にしたことはありますか?
(今村)
具体的にはありませんが、研修とはいえ、経営陣に対して提言をするわけですから、皆そういう覚悟や自負、思いなどは絶対に大きくなっていると思います。
以前ですが、受講生から「(自分たちが提言したことを)何でやらせてくれないのですか」と電話が来たこともありました。もともとこのセミナーは「学び」に軸を置いていますが、やはり忙しい中で仲間と真剣に取り組むわけですから。
(水沼)
今村さんが5年間経営セミナーを担当されて会社の雰囲気が変わったと感じるところはありますか?
(今村)
難しい質問ですね。経営セミナー以外の影響などもあるので、はっきりと経営セミナーがきっかけで、と言えるかわかりませんが、去年の経営セミナーの提言したテーマが、経営の中で話題にあがることは多くなってきていると感じます。その意味で経営にインパクトを与えるようなセミナーになってきているのではと思います。
今後の人財育成における展望
(水沼)
今村さんが考える、経営セミナーの今後の展望をお聞かせください。
(今村)
今会社の中でも、「経営セミナーは選ばれた人が受ける」いう認知があります。経営者を育成するという目的からして、これからも受講生の中からどんどん役員を輩出していきたいと考えています。
(水沼)
なるほど、目的はそこですものね。実際たくさんの役員が生まれていることは、成果がでていると評価できるのではないでしょうか。では、経営セミナーに限らず、人財育成上の課題をどう捉えていますか?聞かせてください。
(今村)
まず、若い層には「前に踏み出す力」を身につけてほしいと感じます。これは経済産業省の提唱する『人生100年時代の社会人基礎力』と同じです。元来、前に踏み出す力を持っている人は良いのですが、最近の若い層では、それが少なくなっていると感じています。どちらかというと横並びで「誰か出たら僕も出る」のような、「一緒に」というマインドが多いと感じています。前に踏み出す力を鍛えないと、日本人は世界では遅れていくのかなと、漠然と考えています。
そして、若年層に限らず、先ほど言った人間力が重要だと感じます。「失敗したらごめんなさい」など、すぐ言える人が素直さと、前に踏み出す力を併せ持つ人財を育成したいと考えています。幹部の育成に視点を移しても、「素直」はキーワードかもしれません。加齢と共に皆プライドが出てきますよね。良いプライドだったら良いのですが、若干偏屈なプライドもあったりする、そういったものが出てこないような人財を育成したいです。
私達は採用業務も手掛けていますが、やはり謝れない人はいます。若いときから変なプライドがある人はいます。「すみません」と言ったら済むものを、他責にして責任転嫁をしてしまう。自責で考えれば「何が悪かったんだろう」と考えることで成長することができます。
(水沼)
「いかに自責で考えられるか」、重要なキーワードですね。
(今村)
基本はそうだと思います。良い人間性がなければ、良い経営ができないと考えています。
変わり者が歴史をつくるなどとよく言われます。他社の経営者も若干いびつな人が多いかもしれません。しかし、よくよく見ると、経営者には人間力が備わっていると感じています。後はスピード感。
この立場になって一番私自身が変わったと思うのは、せっかちになったことです。多くの事を決断しなければならないし、色々な情報を早く知りたいと思うことが多くなりました。
(水沼)
決断する事案が増えれば、一つにかける意思決定の時間を短くすることが必要ですよね。
(今村)
ある経営者の受け売りですが、「6割できたらGo」です。
若い層が顕著なのですが、怒られたくもないし、人に良く見られたいから、資料を作る際は細かいところまで作り込んできます。しかし、あまり作り込んでも、読める時間は限られていますし、あまり細かいと見たくなくなってきます。ですから6割ぐらいでよいと考えています。結果にあまり遜色ありません。正直、上司も忙しいので、たくさんは読めませんから。
(水沼)
最後に今村さんの人財育成のポリシーを教えてくださいという質問をしようとしたのですが、ここまでのお話の中に全て含まれているという感じですね。
(今村)
概ねそうですね。
僕は、リーダーシップには色々な形があると考えています。高度成長期には「俺についてこい」のようなトップダウン型のリーダーシップが多かったかもしれませんが、今はダイバーシティというほどですから、人それぞれ違ったリーダーシップの発揮の仕方があると思います。ですから、自分の強みを認識して、自分に合ったリーダーシップを発揮すれば良いと考えています。
色々なタイプの経営者がいて良いと思いますが、最終的には、やはり部下が「ついていこう」と思えるリーダーであることが重要だと考えます。「やってあげたいな」「一緒にやりたいな」等、最終的にそこに結び付ければ良いのでしょうね。
(水沼)
経営者はこうだというのではなくて、いろいろなタイプの経営者を育成しいということですよね。
(今村)
そうです。全てが怖い経営者だったら、辛いでしょう。
そういうのが私も嫌いだし、そうはできません。うちの会社は私が使い走り(ぱしり)のようなことをやっていますよ。朝机を拭いたりしています。やめては負けだと思って継続していたら、最近机をふく人が増えてきました。
(水沼)
素晴らしい。行動についてきていますよね。
(今村)
やり方は色々あります。強要はしていません。「凡事徹底」。1回決めたらずっとやりましょうと。人知れず、朝机を拭いていたら、誰かがそっと見ているかもしれませんね。そういうことは続けたいと思っています。
(水沼)
今村さんらしいリーダーシップの発揮の仕方ですね。
本日はありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。