未来予測が求められる経営環境|未来を洞察する時代Vol.1
『未来を予測する』という活動は、日本企業にとってどれほど重要性・緊急性を増し、またこれから私たちは「未来予測」をどのように進めていったらいいのか。
JMA主催「日本CTOフォーラム」でのファシリテーターをお務めいただいたり、「未来予測」「未来洞察」の第一人者として研究・講演活動をされている富士通総研特任研究員 安部忠彦氏にお話を伺いました。
経営のやり方が未来志向に変わった
近年企業の経営層の方とお話すると、経営のやり方が変わってきたことを実感します。変わった点がいくつかある中で、未来を読んだ経営が必要になってきているという点があります。もちろん未来は読みにくいし、正確に読むことはできないので、経営環境が変化したのを確認した後で、対応の瞬発力を高めるというやり方も重要でしょう。しかし行き当たりばったりの経営や、重要な顧客の指導や指導官庁の方向指示のままに動くという従来型の経営では行き詰まってしまうという認識は強い。
実際2014年に、日本能率協会と私が企業のCTO対応の方を対象に実施したアンケート調査でも、未来予測(以下、未来洞察を含めて未来予測とします)を全社でも部門でも全く行っていないという回答は9%と少ない結果でした。やり方や程度に違いはあっても、ほとんどの企業が自ら未来予測を行い、それをベースに経営を行うようになっています。
従来未来を読むという作業は、自社の何周年記念時に向けてや長期ビジョン作成時にイベント的に行われることが多かったのですが、近年は日常的に行われる傾向が強くなりました。また従来は社外のコンサルタントなどに依頼したり協力して行うやり方が主でしたが、近年はそれに加えて、自社内に未来を読むことを専門にした組織を作る事例が増えるなど、未来を読み戦略に結び付ける取り組みが一層重要な業務とみなされてきています。
なぜ未来予測が必要になったのか
企業を取り巻く経営環境というのは、いつの時代でも、その中にあって生きている企業にとっては平穏ということはなく、変化が激しく複雑と感じられてきたと思います。しかしそうであってもやはり現状での経営環境の変化は非常に大きく、大げさに言えば、パラダイム的な変化の連続のようにさえ感じられます。そのため従来の延長のままで経営を行えなくなっています。そのことが、未来を読んだ経営が不可欠と認識されている大きな理由でしょう。
なぜ従来にもまして現状の経営環境の変化が激しいかといえば、それはICTを中心にした科学技術面での変化が指数関数的に大きくなっており、そのICTの変化が社会や経済、産業、製品・サービス、政策面に大きな影響を与えている要因が大きいと考えられます。ICTとは距離があったと見られている産業でもその影響を免れない。変化のスピードはICTの変化に同期して変わってゆくので、先読みした経営をやらないと、一気に経営環境が変化した中で、無防備で戦わないといけなくなるリスクが高まっているのです。
ICTの影響は大きく、従来の産業の壁を崩し、思いもしない企業が競合企業として襲ってくるのは日常になっています。
こうして経営・事業リスクが格段に高まるなかで、従来は見られたとされる「試行錯誤的、行き当たりばったり式」の経営・事業では成功確率が低くなっています。既存事業の行く末や、未来の新規の事業候補が今後本当に事業化できる確実性、合理性があるかどうかを見極めリスクを低減するため、未来予測を行う必要が高まっています。
また特にB2B企業においては、従来は顧客企業が今後の需要やニーズを供給側企業に明示し導いてくれていました。しかし近年は、不確実性が高まり、顧客企業自身さえもそれを語れなくなる傾向が強まり、自社自身で未来を読み、同時にありたい未来を明確にする必要性が高まっているのです。「顧客から聞くマーケテイング」から「自ら見出すマーケティング」への転換であり、自らの判断で未知の領域に出るために未来予測が今まで以上に必要になっています。
さらに、従来のようには、技術単独では競争に勝てなくなったこともあります。勝つためには社会変化や顧客の価値変化等多くの要素を全社レベルで時間軸で一体的に把握し、社内の事業・製品開発と技術開発とを同期・連動させる必要性が高まっている。すなわちロードマップ経営が重要になり、そのため、未来に向けた全社共通の情報基盤としての未来予測が不可欠になっています。
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安部 忠彦(あべ ただひこ)株式会社富士通総研 経済研究所 特任研究員
【専門領域】
産業構造変化、競争力、技術政策、サービス・サイエンス、サービス・イノベーション、技術経営(MOT)
【最近の研究テーマ】
•日本のICT投資を経済成長に繋ぐには
•グローバルICTガバナンスの在り方
•産学連携を成功させるために
•日本の技術経営におけるCTOの果たす役割り
•オープンイノベーションの在り方