VUCAを生きる企業人に欠かせない「戦略思考」を学ぶ(2)
研修の最前線で活躍する講師に、いま注目のテーマについて聞き、人材育成について考えるインタビュー。今回は経営コンサルタントでもある田村健二氏が語る「戦略思考」論の第2回として、「どうすれば戦略思考力が身につくのか」をお聞きします。
戦略思考を身につけるのに「勉強ができる」必要はない
戦略思考を身につけると、まず行動が目的志向になります。多くの場合、人は「何かをやること」目的になっているのですが、戦略思考で考えると、目的のためには「やること」の方を変えたほうがよいのでは?という考え方ができるようになる。その結果、組織としては目的に近づけることになります。発想が自由になり、タブーや暗黙の了解から離れられるのも「変革」に向けての大きなメリットです。さらに、決断ができるようになるので行動が早くなる。これは、失敗したときの見直しが早くなるということでもあり、環境の変化に素早くついていくことにつながります。
こうした思考力が自然に身についている人というのはもちろんいます。しかし戦略思考は決して一部の「勉強ができる」人だけのものではなく、正しいステップを踏めば誰もが身につけられるものです。そもそも「勉強ができる」とは「整理ができる」というだけのこと。戦略思考に必要なのは、自発的に考えて意思決定ができることであり、全く別のものなんですね。むしろ、今まで壁に当たったことのある人、不遇に遭ったことのある人のほうが、自然と戦略思考が身についていることが多く、さらにそういう人に体系的に知識をインプットすることで羽ばたくように伸びていったりもします。
むしろ戦略思考ができない理由があるとすれば、先ほどもお話したような「仕組み」のせいです。敷かれたレールがあり「この通りにやりなさい」と言われたことをやり続けてきた人にとって、自らの意志を必要とする戦略思考は難しい。でも、考えさせればできるはずなんです。
そもそも意志の種類も重要で、「うまくやろう」という意志は多くの人が持っているのですが、戦略思考に必要なのは「自分の思い通りにやろう」とか「自分の考えを発信しよう」という意志。回りの顔色を伺うのではない、自由な意志が必要なので、私はいつも「4歳児になりなさい」と言っています(笑)。
基本の学習ステップは自己認識→知識のインプット→実践の3段階
戦略思考の基本的な学習ステップは、正しい自己認識から始まります。
自己認識のために役立つのが個人を対象としたアセスメントです。たとえば戦略思考力は「ビジョン思考」「多面思考」など6つのスキルに分解できるのですが、アセスメントを実施することで、それぞれについてどこが足りないのかを把握し、学習内容をパーソナライズすることができます。
次のステップは、知識を得ることです。 戦略思考はディスカッションによって広がりますが、ディスカッションする仲間同士にも共通言語が必要なので、そのためのインプットをまず行う必要があるのです。アセスメントで判明した弱点を補う学びができればよく、純粋なインプットであるため、オンデマンド学習で効率的に学ぶことも可能です。
ただし、ここまでは野球でいえば「バットの振り方を覚える」程度のこと。重要なのは実際にやってみることです。とはいえビジネスの場で実践に入る前にも練習が必要。まずは「バットにボールを当てる練習」として簡単なケースを使って戦略を立てることに挑戦し、次に「練習試合」として、複数のスキル領域を統合しながら架空の企業、あるいは自社のケースで実際に戦略を考える、というようにステップアップしていきます。
思い切って権限を与えることが社員の戦略思考力を育てる
しかしやはり最も重要なのは、「試合」、つまりビジネスの場で実践し続けることです。戦略思考力を身につけるには、うまくいかない経験をして、自分なりに修正していく経験が欠かせないのです。そのためには個人の努力だけでなく企業側の環境作りも必要。「思い切って権限を与えてやらせてみる」環境を、ぜひ企業としても作っていただきたいと思います。
もちろん、やらせてみて思考が行き詰まってしまう場合もあるでしょう。そんなときに頼っていただきたいのが我々外部の講師です。利害関係やしがらみのない相手の話のほうが素直に聞けるということもありますが、上司などが対応すると企業の方針に沿った指示になってしまい、結局は「敷かれたレール」になってしまう恐れがあるからです。それはもはや戦略思考ではありません。