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VUCAを生きる企業人に欠かせない「戦略思考」を学ぶ(3)

公開日:2023/05/15 更新日:2023/05/15

研修の最前線で活躍する講師に、いま注目のテーマについて聞き、人材育成について考えるインタビュー。最終回の今回は、田村健二氏が語る「戦略思考」論の総括として、社員が戦略思考を身につけるために欠かせない、企業としての環境づくりを中心にうかがいます。


大企業?中小企業?戦略思考を学ぶべきは誰か

田村 健二氏

 戦略思考を学ぶことをとくにお勧めしたいのは、まず大企業の皆さんです。大企業では、業務が肥大化、細分化している分、社員が自ら意思決定することなく、求められる仕事を着々と進めることに終始してしまっているケースが多いからです。またそういうカルチャーは根強く、トップダウンではなかなか変われません。だからこそ、外部から強制的に働きかける意味があるのです。

 なかでも誰が戦略思考を身につけるべきか。従来から言われている主な対象は、意思決定の必要な、いわゆる上級管理職の皆さんです。しかし、現代のビジネス環境においては、その必要性はミドルクラスの方々にまで広がっています。

 以前であれば、トップが戦略を示して計画を立て、3年くらいのスパンで実行していく、という形が一般的だったかもしれません。しかし、VUCAと呼ばれる現在の環境においてはそれでは遅すぎます。今はもっと早くサイクルを回していくことが求められていて、そのためには自律分散型の組織で、ミドルクラスのメンバーが自ら微調整しながら進める必要がある。そのポジションに、「自分から考え行動する人材」が必要なのです。

 大企業だけでなく中小企業でも、組織として成り立っている規模感の組織であればやはり戦略思考が必要だと思います。こうした企業では今、次世代の育成が大きな課題となっていますが、社員に戦略思考を身につけてもらうことは、次の経営層の育成にもつながるでしょう。

戦略思考を本当に身につけてもらうために、企業がするべきこととは

 戦略思考力は、きちんとステップを踏んで継続すれば誰でも身につけられるものです。しかし、戦略思考の育成に成功している企業はまだ決して多いとはいえません。理由は「継続できていない」からです。

 「きちんとステップを踏めば」と言いましたが、残念ながら戦略思考力は、2日間の研修で身につくといった種類のものではありません。最も重要な「実践」については、実際ビジネスで修羅場を経験し、修正していくプロセスが不可欠で、そのためには本当は15年くらいの時間がかかります。そう考えると、40歳、50歳になってから学び始めるのでは遅く、できれば20代後半くらいからの育成が必要ということになります。もちろん、ここまでにも何度かお話しているように、企業が戦略思考力を発揮する場を作ることも必要です。こうしたことを実現しようと思えば、人事の側にも戦略的に人材を育てる考えが必要です。そうでなければ事業側に負けてしまい、実行は難しくなってしまうでしょう。

 本来、長期に渡って人材を育成するということは日本企業のよさでもあります。現に東南アジアなどでは、「きちんと育成してくれる」という点で就職先に日本企業を選ぶ人も多いほどです。改めてその原点に立ち返り、じっくり人を育てることを考えるのも大切なことなのではないでしょうか。

社内に学ぶ人が増えれば、共通言語となり、定着する

 戦略思考には、何か唯一正しい考え方があるわけではありません。思考のためのフレームはありますが、それも「こう考えるのがよいのではないか?」というツールの一つに過ぎません。だから講師としても、「自分の考えを伝えるから、あなたの考えを見つけてほしい」と伝えています。そして自分で考えてもらいたいからこそ、一人ひとりの腹落ちを大切にしながら、次々に問を投げ聞けていきます。本気で学んだ方からは、「何年かぶりに頭を使った!」という感想をいただくことが多いですね。

 私は企業の中期計画立案の支援もしているのですが、1年前に戦略思考を学んだ方と一緒にその作業を進めることもあります。そうした場でその方が、「自分ごと」として考えた戦略を計画に落とし込む姿を見るのはとても嬉しいことです。

 学び始めるときには、「どうせうまくいかない」と思われる方も多いかもしれません。しかし企業全体で戦略思考に取り組む人が増えれば、それは共通言語化され、「今私も学んでいるんですよ」と口にする人が増えてきます。いずれは過去に上司が学んだことを部下も学ぶようになり、そうなってくれば、指導するのも講師ではなく上司になり、本当の意味で戦略思考が定着することになります。最終的には日本の企業がそのように変わってくれることが私の願いでもあるのです。


● 関連プログラム
JMAは、戦略思考力強化をご支援する4つのサービス群から成る「戦略思考力強化シリーズ」をご提供しています。
今回インタビューさせていただいた田村氏にアセッサー・講師をお努めいただいています。
ニーズや課題に応じて組み合わせが自由です。

戦略思考力シリーズ(https://solution.jma.or.jp/strategicthinking/


● 講師プロフィール

田村 健二(たむら けんじ)氏
株式会社経営革新ラボ 代表取締役

1995年 早稲田大学理工学部卒業後、日本道路公団(現NEXCO)に入職。1998年より株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて経営コンサルタントの経験を積み、2018年より現職。中堅企業の経営者の参謀役として多面的な支援を行い、コスト削減、売上拡大の実成果を上げることを得意とする一方、上場企業におけるビジネスリーダー育成にも力を入れている。主な支援範囲はビジョンや中期経営計画の策定、マーケティング戦略立案、戦略実行のためのマネジメント体制構築、人事制度構築、開発・製造・営業機能のマネジメント改革等。ボンド大学経営学修士(MBA)。