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チームにもたらすメリットは大。「心理的安全性」のためにできること

公開日:2024/12/26 更新日:2024/12/26

チームメンバーが手を重ねている

チーム運営というテーマにおいて、今やすっかり定着した「心理的安全性」という言葉。しかし場合によっては、本来の意味が正しく理解されていないまま、イメージだけが一人歩きしてしまっていることもあります。広く知られるようになった言葉だからこそ、改めてその本来の意味を確認し、真に心理的安全性の高いチームを作るポイントを考えてみましょう。

心理的安全性とは?なぜ注目されているのか?

心理的安全性とはもともと、ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱した「サイコロジカル・セーフティ(Psychological safety)」という語を日本語に訳したものです。

心理的安全性という言葉が注目を集めるようになったきっかけは、米Google社が2012年に実施した「プロジェクト・アリストテレス」にあります。「プロジェクト・アリストテレス」は、Google社が「生産性の高いチームの条件は何か?」というテーマについて多角的に検証したリサーチプロジェクト。ちなみにプロジェクト・アリストテレス(Project Aristotle)という名称は、アリストテレスの「全体は部分の総和に勝る」という言葉にちなんで名付けられたと言われています。 

プロジェクト・アリストテレスでは、「人は単独で働くより、チームで働いた方が大きな成果を上げられる」という仮説のもと、さまざまな指標が検討され、生産性の高いチームの条件が割り出されました。結果としてわかったのが、チームの生産性を左右するのは「メンバー一人ひとりの経歴やスキル」ではなく、「メンバー同士がどのように協力し合っているか」だということでした。そして、その要素の一つとして挙げられたのが、「心理的安全性」だったのです。

誤解されがちな心理的安全性。本来の意味とは?

プロジェクト・アリストテレスでは、「心理的安全性が高いチームのほうが生産性が高い」としています。「心理的安全性が高い」とは、チーム内での衝突や、他のメンバーに非難されるといった対人関係上のリスクを恐れることなく、誰もが気兼ねなく発言し、自由に話し合える場がある、という意味です。「ネガティブに受け取られるような行動や発言をしてしまってもこの場では大丈夫だ」と信じることができれば、さまざまな意見やアイデアを口に出しやすくなるというわけです。

重要なのは、心理的安全性の高いチームがただの「居心地のよい職場」ではないということなのですが、最近はこの点が誤解されているケースも見られるようです。よくある誤解に次のようなことがあります。

誤解:心理的安全性が高いチームとは「やさしいチーム」である

「メンバー同士の仲がよい」「アットホームな雰囲気である」などの状態は、必ずしも「心理的安全性が高い」とは言えません。重要なのはチームとして新しいことに挑戦し、成長していけることであり、そうした中では、ミスやトラブル、意見の対立も当然起こります。心理的安全性が高いとは「そういったことが起こっても非難されたりしない」ということであり、「そもそも対立が起こらない」という意味ではありません。

誤解:リーダーは部下の言うことを聞き、自らは主張しない

最近は「サーバンドリーダーシップ」など、部下を信頼して支えるボトムアップ型のリーダーシップが注目されていることもあり、「リーダーは強くものを言うべきではない」と誤解されがちです。同様に心理的安全性についても、「部下の主張を何でも聞き入れる」ことだと誤解されていることがあるようですが、リーダー自身が本音を言えない状態は、リーダーにとって心理的安全性が低い状態ということになってしまいます。相手を信頼して受け入れることは必要ですが、リーダー自身も自分の考えを述べ、チームを導くことができてこそ、心理的安全性が高い状態と言えます。

そもそも心理的安全性は、「チームの生産性を上げる」ための要素として見出されたものです。既存の枠組みを超えたイノベーションを起こすためには、失敗から学び、新しい提案がなされ、またそうした多様な意見や特性を取り入れる風土があることが重要なのであり、心理的安全性はそれを支えるものだということに留意しておくべきでしょう。

心理的安全性が低いとどんなことが起こるのか?

エドモンドソン教授は、心理的安全性の低い組織でメンバーが感じる不安として、次のような内容を挙げています。

「無知だと思われるかもしれない」という不安

「こんなことも知らないのか」と言われるのを恐れる気持ちです。こうした不安があると、わからないことについても質問や確認をせず、いつまでもわからないままになりかねません。

「無能だと思われるかもしれない」という不安

「仕事ができない」と思われるのを恐れる気持ちです。ミスを隠そうとする行動につながります。 

「他の人の邪魔だと思われるかもしれない」という不安

自らの発言や行動がきっかけで結果的に業務に時間がかかるなどした際に、「迷惑がられているのではないか」と感じることです。こうした気持ちは、発言や行動を控えることにつながります。

「ネガティブだと取られるかもしれない」という不安

何らかの批判的な発言をした際に、「いつもネガティブだ」と言われることを恐れる気持ちです。これを気にしていると、肯定的な意見しか言えなくなってしまいます。

メンバーがこのようなメンバー不安にとらわれていると、ありのままの言動ができなくなり、一人ひとりが本来の力を発揮しづらくなります。結果として組織力も低下してしまうおそれがあるといえるでしょう。

心理的安全性の高いチームのメリット

反対に、心理的安全性の高いチームでは、メンバーはありのままの自分を出すことができ、互いに尊重しあえるようになります。それによってチームにもたらされるメリットを挙げてみると、次のようなことがいえるでしょう。

問題が早期に発見され、メンバーの学びに変換される

ネガティブなこともありのままに語り合うことができれば、メンバーの誰かが問題と感じたことをすぐに取り上げて議論することができ、そのことが全員にとっての学びとなります。

アイデアが共有されやすくなる

それぞれが自身の考えを「つまらないことだ」と思わず共有できるようになります。結果として、よいアイデアの発見にもつながります。

多くのトライが生まれる

対立、失敗をしても禍根を残さないという安心感があれば、難易度の近いことに挑戦する回数も自然と多くなります。

メンバーが主体的に行動できる

一人ひとりが失敗を恐れず、自分の考えたことを実行できるようになれば、自然と主体性が高まります。

エンゲージメントが高まる

対人関係への不安がなくなれば、チームへのロイヤリティも高まり、仕事に対するエンゲージメントも高くなります。エンゲージメントの向上は、生産性の向上や離職率の低下につながります。

ダイバーシティが高まる

心理的安全性の高い職場は、個人が否定されない職場ということもできます。そうした職場だということが伝われば、より多様な人材が集まるようになるでしょう。多様性のあるチームは、より新しいアイデアを生み出す力にもつながります。

不祥事が起こりにくくなる

近年多発している企業の不祥事を見ていると、「叱責や懲罰を恐れて自分のミスを言い出せない」ことが、不正や隠ぺいなどの不祥事につながることがよく分かります。心理的安全性が高いチームでは、早い段階でミスを発見し、大きな問題になる前に解決に向かうことができます。

「心理的安全性」を高めるリーダーの行動とは

「心理的安全性」を高められるかどうかは、チームリーダーの行動に大きく左右されます。リーダーが具体的に実践できることの例を挙げてみましょう。

チームメンバーを人として尊重する

常に見下したような態度や、邪険な対応は、相手を萎縮させます。当たり前のことですが、チームでの関係性以前に、人として承認、尊重し合う姿勢が必要です。すべてのメンバー同士に言えることですが、とくに上司が部下に接する際には注意するべきです。

感情や気持ちをベースにした会話も排除しない

論理的に考え、話すことは重要ですが、それ以外の内容を排除してしまうと、思ったことが自由に言えない状態に陥りかねません。最近はいわゆる「雑談」が見直される傾向も見られ、心理的安全性を高める意味でも重要といえます。1on1ミーティングなどで意識するのもよいでしょう。

「知らない」ことを認める

リーダーとして「間違った」「知らない」と言うのを怖れる人もいるかもしれませんが、リーダーが弱みを見せることでメンバーも「自分も弱みを見せても大丈夫だ」と感じることができます。リーダー自身の心理的安全性も高まります。

心理的安全性を高めるための具体的な施策例

心理的安全性を高めるための具体的な施策として、次のようなことに取り組んでみるのもよいでしょう。

業務外の会話の場を設ける(1on1、サークル活動など)

心理的に安全と感じる関係を作るには、お互いのことをよりよく知ることも有効です。プライベートでの趣味など、業務に関するやり取りだけでは知り得なかった一面を知ることで関係に厚みができ、業務上の対立などを相対的に小さな問題にできるからです。上司と部下の1on1ミーティングは、こうした業務外の会話に活用しやすい施策です。その他、強制を伴わない範囲でチーム単位での食事会やサークル活動などを行うことが、関係づくりに寄与している例も多くあります。 

ピアラーニングを取り入れる

ピアラーニングとは、お互いに教え合いながら学ぶことです。何かを学ぶ際、学習者同士で分からないところを教え合い、助け合いながら学習を進めることは、自然なコミュニケーションと連帯感を生み、何でも話せる関係性を築くことに繋がります。たとえば、研修を実施する際、社内SNSを設置するなどして、学習者同士が教え合う仕組みを作ることが、心理的安全性の醸成にも寄与するというわけです。

まとめ

冒頭で紹介したエドモンドソン教授は、TEDでの講演の中で「謙虚さと好奇心が組み合わさると 心理的安全性が生み出される」と述べています。

組織を率いるリーダーが、正解がわからないことを自覚する謙虚さと、多様なアイデアに対する好奇心を持って向き合えば、メンバーは自然と心理的安全性を感じることができるもの。そのような意味でも、まずはリーダーの立場にある人から、意識的に行動していくべきだと言えるでしょう。その上で、対話の質、関係の質を上げることを意識した取り組みを続けていくことが、心理的安全性の高い職場を作るのです。

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