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「ワーケーション」との違いは何?「ブリージャー」という新しい働き方
日本でもテレワークなど新しい働き方が浸透していますが、海外では数年前から「ブリージャー」という新しい勤務スタイルに注目が集まっています。そこで本コラムでは、日本企業におけるブリージャー導入について考えてみましょう。
ブリージャーの定義
ブリージャーとは、ビジネス(business)とレジャー(leisure)を組み合わせた造語で、日本語にするなら「出張休暇」といった意味になります。仕事と休暇を組み合わせる点では「ワーケーション」と似ていますが、ワーケーションが休暇で訪れた場所で休暇をとりながら働く働き方であるのに対し、ブリージャーは、出張の前後に数日休暇をとり、出張先で観光や休息を楽しむ働き方である点が違います。仕事が目的で行く遠方への出張に、旅行や観光の日程を追加する過ごし方とも言えます。
コロナ禍以前に見られた、世界での盛り上がり
ブリージャーは欧米ではすでに広がっており、ドイツの基幹システム最大手SAPの子会社である旅費精算ソリューションのSAP Concurの報告では、2017年の1年間において全世界で220万件以上のブリージャーが行われたと発表しています。
また、2019年にはドイツの旅行協会による「ChefsacheBusiness Travel 2019」の調査ではビジネス出張者の約4分の3が「ブリージャーを利用した」と回答しています。このように世界では、出張を利用して旅行を楽しむという働き方が盛り上がりをみせていました。
一方、これまでの日本では「企業が出張先への交通費を負担しているため、日程を追加して旅行を楽しむことは公私混同にあたる」と考える傾向があり、ブリージャーを導入する企業はあまりありませんでした。しかし、昨今、働き方が多様化する中で、企業側にも導入のメリットがあることから、徐々にブリージャーを認める企業が増えています。
また、日本の観光庁、経済界などが2020年に検討委員会を設置し、ワーケーションやブリージャーなど「新たな旅スタイル」の普及・促進に向けて動き出しています。これには、テレワークなどによる働き方の多様化を、より多くの旅行機会の創出や観光需要の平準化に繋げる狙いがあります。
現在のコロナ禍においては、移動そのものが制限されているため、世界のブリージャー需要は落ち込んでいます。しかし将来的には、コロナ禍以前よりも盛り上がっていくだろうと予想されています。
ブリージャーを導入するメリット
ブリージャーの導入は企業だけでなく、従業員、出張先の地域に対してもメリットがあります。それぞれの立場におけるメリットを見ておきましょう。
企業のメリット
- 有給休暇取得率の向上
働き方改革によって、企業は従業員に対して有休消化させることが義務付けられました。日本は有休取得率の低い傾向がありますが、ブリージャーによって有給休暇取得の促進につなげることができるでしょう。 - 従業員の満足度の向上
休みやすい組織文化や自由な組織風土は従業員の満足度につながります。働きやすい組織として、人事採用にもプラスの影響をもたらすでしょう。 - 出張経費の抑制
航空運賃の場合、たとえば週末前の金曜夜に出張から帰る運賃よりも、ブリージャーで曜日をずらして帰る運賃の方が出張経費を抑えられる場合があります。 - 従業員のモチベーションの向上
休暇を取得することで従業員の心身のリフレッシュになり、出張先での仕事に関するモチベーション向上につながります。
従業員のメリット
- 仕事のパフォーマンスの向上
ブリージャーによって時間に追われることなく、気持ち的にも余裕を持って商談に臨めるでしょう。また、出張先の地域のことを知ることで顧客の地域文化を理解でき、商談に生かすこともできます。結果的に商談がうまく進む可能性も高まるかもしれません。 - 旅費の軽減
出張としての交通費は企業負担になるため、自ら全ての旅費を負担する旅行と比べて旅費を軽減することができます。また、日本では大型連休に一斉に長期休暇をとることが一般的ですが、ブリージャーなら繁忙期の混雑を避けることができ、そのことによる旅費の軽減にも繋がります。
出張先地域のメリット
- 平日の需要創出
一般的に旅行は土日中心になりがちですが、出張者が出張先に長期間滞在することで平日の需要創出につながります。 - 地域消費の増加
出張者が出張先で過ごす時間が長くなると、観光はもちろん地域の商店などでも需要が起こるなど、活性化につながります。
実施する際の企業の課題
ブリージャーを導入することによって、企業、従業員、出張先それぞれのメリットがありますが、実施する際には複数の課題が想定されます。そこで企業が取り組んでおく方がよい事前の準備について紹介します。
- 労災認定は業務中のみであることを明確にする
出張中の従業員の安全を守ることは企業の義務の一つです。そのため、仕事中に発生したケガであれば労災が適用されます。ブリージャーの休暇部分で起こった事故やケガに対しては、予め労災の対象外になることを明確に示しておきましょう。どこからどこまでを業務時間とするかについても規定が必要です。また、休暇中とは言え、従業員は安全に過ごす必要があります。ブリージャー中は危険を伴うような活動を控えたり、緊急事態時には連絡を取れるようにするなど、予め企業が定めたガイドラインを従業員に伝えておきましょう。
- 出張旅費規定を確認する
ブリージャー中の往復の交通費は基本会社負担となりますが、休暇中にかかった費用は従業員持ちです。経費精算の仕方、どこまでが出張旅費に含まれるかなど事前に経費担当含めて取り決めを行っておきましょう。 - 個人情報の管理について明確にする
会社のデータを持ち歩くため、個人情報の取り扱いには十分に注意が必要です。休暇中は気持ちが緩みがちになるため、個人情報の管理には企業レベルで情報はすべてクラウド上に保管するなど対策を立てておきましょう。
今後は日本でも、働き方の多様化の進展に伴い、ブリージャーを含めた新しい働き方が広がっていくことが予想されます。多様化する働き方の一つの手段として、ブリージャー制度を検討してみるのもよいかもしれません。
大事なことは、多様な働き方の実現には一人ひとりが自律的に考え、行動できる組織であることが欠かせない条件であるということです。
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