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終身雇用、年功序列は「古い」のか?

公開日:2024/09/18 更新日:2024/09/18

終身雇用や年功序列といった制度は、かつての日本的経営の基本と言われましたが、近年こうした制度は崩壊しつつあると言われています。それは、これらの制度が時代に合わなくなったからなのでしょうか?終身雇用や年功序列が定着してきた経緯やメリット・デメリットを踏まえつつ、考えてみましょう。

終身雇用、年功序列とは何か?

終身雇用制度は、日本に特有の雇用形態の一つで、いったん入社すると定年退職までの雇用が保証される仕組みのことをいいます。働く人にとっては、長期の雇用が約束され、企業が倒産するなどの事態に陥らない限り、安定した収入が保証されることになります。

基本的には年功序列型の給与体系とセットで実施され、年齢や勤続年数によって賃金が上がっていき、働き続ければ給与も上がっていくことも社員にとっての魅力となっています。

終身雇用、年功序列が日本で定着した経緯

終身雇用の制度が登場したのは、戦前・戦中時代のことだと言われています。

戦前の日本では人材の流動性は高く、とくに工場労働者は、一定期間働いて熟練工になるとより給与の高い職場へと転職することも多くありました。しかしこれでは育成する企業の負担も大きくなります。そこで企業側としても、長く働くことで有利になる年功序列的な制度を用意して労働者のつなぎとめを図ったことが、いわゆる終身雇用の原型となったようです。

その後、戦中の人手不足に対応するため国が労働統制を敷いたこと、戦後の高度成長期の企業のニーズとうまくマッチしたことなども相まって、終身雇用は長年の慣行として定着していきました。

終身雇用、年功序列が成立しにくくなった理由

日本企業で長期にわたり取り入れられていた終身雇用ですが、近年では必ずしも一般的とは言えなくなりつつあります。背景には、現在の経済事情を反映した次のような事情があります。

給与の負担の難しさ

終身雇用では年功序列型の給与体系を伴うため、勤続年数の長い従業員には、生産性の有無にかかわらず高い給与が支払われます。高度成長期には、こうした費用を負担してでも人材を確保できることに意義がありましたが、昨今の経済事情ではそれが難しくなってきています。

成果主義への移行

企業が成長を目指すためにより一層の生産性が求められる中、成果主義的考え方を導入する企業が増えました。成果や実力によって待遇が変わることは、一つの企業で働き続ける動機を弱める方向に働きます。

多様性への懸念

長期間働き続ける人が多いということは、同質性が高まりやすいということでもあります。グローバル化が進み、変革が求められる時代おいては、同質性よりも多様性が重視されるため、同質性はネガティブに受け止められやすくなっています。

終身雇用、年功序列のメリット・デメリット

こうした傾向は、終身雇用や年功序列が抱えるデメリットを反映したものと言えます。よく言及されるのは以下のような点です。

終身雇用、年功序列のデメリット

給与を柔軟に調整できない

勤続年数に応じて社員の給与が上がる年功序列型の給与体系では、社員の高齢化により人件費が高騰しがちですが、企業の業績等に応じて調整することができません。 

モチベーションが低下する

成果が上がらなくても待遇が保証されることで、挑戦が減り、生産性の低下が起こり得ます。また勤続年数が短い間は給与も低く抑えられる分、若手社員のモチベーション維持に影響が出がちです。

組織が硬直化する

人材の流動性が低いと新たな発想が生まれにくくなります。現代のように変化の激しい時代においては、環境の変化に適応したり、変革したりするのが遅れる可能性があります。

一方で、終身雇用や年功序列のシステムにはよい面もあります。以下のような点につては、現代においてもメリットと言えるでしょう。

終身雇用、年功序列のメリット

長期的な人事戦略が立てられる

長い目で見た人材育成が可能になり、幹部候補としての育成にも早い段階から行いやすくなります。一定の人材が確保できることから、将来的な人材配置についても計画しやすくなるでしょう。

採用コストが下がる

社員の在籍期間が長くなれば、その分、不足した人員を補う中途採用の必要性が下がり、時間的経済的コストが抑えられます。

 社員の帰属意識が高まる

長期に在籍することで、社員の企業理念などへの理解が深まるほか、同じ企業で働く人同士の仲間意識も醸成されやすくなります。

終身雇用、年功序列が生んだ日本の企業風土とは

終身雇用、年功序列に企業別組合を加えた3点は、日本的経営の基本的な枠組みと言われてきました。こうした枠組みから醸成されてきた、日本企業ならではの企業風土とはどのようなものだったのでしょうか。

同じメンバーで長く一緒に仕事をする環境においては、互いに仲間意識が生まれ、チームワークが生まれやすくなります。また、一つの会社でじっくりと仕事に取り組めることは、責任を持って何かをやり遂げる責任感につながり得ます。さらに、「ここで働き続けることができる」という安心感は、いわゆる心理的安全性につながります。心理的安全性の高い組織では、コミュニケーションが活発になり、生産性が向上することはよく知られた話です。

もちろん、安心感がモチベーションの低下なネガティブな結果に結びつくこともあります。しかし、ポジティブな作用も十分大きかったと考えることができ、こうした企業風土が日本企業の強みにもなっていたと言えます。

安心感の得られる環境は、日本人の気質に合っていると指摘する歴史家もいます。260年の長きにわたって続いた江戸時代は、天下泰平で、人々が安心して仕事を続けられる時代でした。その間に培われた日本人の気質が、終身雇用制度で得られる安心感に合っているというわけです。

自社の企業風土に合わせた制度設計を

終身雇用や年功序列には問題点もありますが、その枠組みを背景に培われてきた企業風土は無視できるものではありません。また、それが社員の気質に合っているのであれば、必ずしも変えることが正解だとは言えないかもしれません。

近年、その重要性が叫ばれている人的資本経営では、「戦略と企業風土を一致させること」が推奨されています。日本企業が変わっていくべき点はありますが、企業風土に合わない戦略や施策は葛藤を生みかねないことにも注意が必要です。

「今後あるべき姿」を考えることは、人材育成の分野でも欠かせませんが、あくまで自社の企業風土に合った姿であることが重要です。そのためには、過去の日本的経営のポジティブな側面にも目を向けつつ、自社の企業風土とそれに合った施策を考えるべきだと言えるでしょう。JMAソリューションでも、そのお手伝いができればと考えています。

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