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企業が行うべきカスタマーハラスメント対策

公開日:2024/10/03 更新日:2024/10/03

さまざまなハラスメントが問題視される中、社会問題化しているのがカスタマーハラスメント(カスハラ)です。厚生労働省は、労働施策総合推進法改正による対策強化を模索し、従業員を保護する対策を企業に義務づける検討に入っています。こうした動きを踏まえ、企業が早期に行うべきカスハラ対策を紹介します。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?

厚生労働省の「スタマーハラスメント企業マニュアル」によると、カスハラは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とされています。

(厚生労働省 カスタマーハラスメント企業マニュアルより抜粋)

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

具体的には、顧客が企業に対して威嚇や恐喝などの理不尽なクレームや妥当性を欠いた要求を突きつけ、それによって従業員の就業環境が害されることを指します。

近年のカスハラの社会問題化に伴い、20245月には厚生労働省が労働施策総合推進法を改正。従業員を守るための対策を企業に義務づける検討に入ったことも話題になりました。

カスハラと正当なクレームとの違い

カスハラとクレームの境界線は曖昧なため、クレームの種類を知った上で違いを理解しておくとよいでしょう。

一般的にクレームとは、「顧客からの不満などの意見」のことです。「顧客の言動の根底にある悪意」の有無によって、正当なクレームかカスハラかに分けられます。

悪意のない正当なクレームには、「接客態度が悪い」「商品を改善してほしい」「商品の使い方がわからない」「間違った商品が届いた」など、不満だけでなく問い合わせや提案なども含まれます。一方で「土下座して謝罪しろ」「SNSに悪評を書かれたくなければ誠意を見せろ」といった悪意のあるクレームや金銭の要求はカスハラに当たります。正当なクレームは「商品やサービスの価値向上」を目的としますが、カスハラは「嫌がらせ」が主だということもできます。

厚生労働省が行った調査によると、カスハラを受けたことがある経験者は15%。この数字を見ても、カスハラは企業にとっても早急に対策が必要な課題と言えるでしょう。

なぜカスハラが注目されるようになったか

カスハラが注目されるようになった背景には大きく2つの要因があると考えられます。

SNSで顧客側の発言力が増した

SNSの普及によって顧客側の発言力が増大しています。顧客は企業を容易に批判でき、企業はその発言に屈してしまうという流れが、カスハラを加速したと考えられます。

「ハラスメント」全般への関心が高まった

さまざまな「ハラスメント」を問題視する近年の風潮も影響していると考えられます。以前からカスハラに相当する行為はありましたが、新たなハラスメントの1つとして注目されるようになったというわけです。

カスタマーハラスメントによる影響

カスハラは企業に以下のような悪影響を与えます。

従業員への影響

業務効率やパフォーマンスの低下

従業員がカスハラを受けることでストレスを感じ、業務効率やパフォーマンスの低下につながります。

心身への影響

不安な気持ちやストレスが長期間続くと、意欲減退、精神疾患など心身に影響が与え、通院・服薬が必要になる場合もあります。

休職、退職

カスハラを体験した同じ仕事内容に対して恐怖が生まれ、配置転換が必要になる場合があります。それでも解消されない場合は休職・退職にもつながります。

企業への影響

通常業務への支障

カスハラ対応に時間を割かれると、通常業務が滞ってしまいます。これにより時間外労働が発生することもあります。

従業員の離職による採用コスト増加

従業員の労働意欲の低下から離職につながると、新規採用や教育コストなど採用コストが増加します。

ブランドイメージの低下

SNSに書かれた悪評は他の顧客等に対しても、悪影響を与えます。対応によっては、カスハラを拒絶できない企業という評判が定着し、ブランドイメージを低下させかねません。

訴訟リスク

カスハラの被害により従業員が精神疾患に罹患した場合、労災として認定されるケースがあります。また、カスハラの被害を受けた従業員に対して安全配慮義務違反とみなされると、企業が損害賠償責任を負うなどの訴訟リスクも発生します。

他の顧客への影響

サービス提供の遅延

カスハラ対応に時間を割くことにより、他の顧客へサービスの質の低下や提供の遅延など悪影響を及ぼすことがあります。

利用環境の悪化

他の顧客がカスハラ対応中の現場に居合わせた場合、気分を害することもあり得ます。

どんな対応が考えられるか

カスハラによる悪影響を避けるために、まずは現場での適切な対処例を知っておきましょう。

長時間に渡るカスハラ対応により、通常業務が滞ってしまう場合

顧客に対応できない理由を説明しても聞き入れてもらえず、長時間に渡り従業員を拘束したり、繰り返し問い合わせをしたりしてくることがあります。一定時間を超える場合は、お引き取りをお願いしたり、これ以上対応できないことを毅然とした態度で伝えます。この際トラブルを生まないよう、曖昧や適当な回答は避けましょう。状況に応じて弁護士への相談や警察への通報も検討します。

顧客が大きな怒鳴り声や暴言を吐く場合

周囲の迷惑になるため、やめるように伝え、ひどい時には退去を求めます。人格の否定や名誉毀損する発言に対しては、事実確認ができるように録音をしておきましょう。

SNSやインターネット上で誹謗中傷された場合

管理人に削除を求めます。投稿者に対して、名誉毀損等の処罰や損害賠償の請求をしたい場合は、弁護士や警察に相談しながら進めましょう。

企業にはどんな備えが必要か?

現場の対応とは別に、企業として次のような対策も求められます。

基本方針の策定

カスハラに対しては「組織としての回答」が必要です。そのために、企業としての基本方針を策定、公表しし、従業員にも周知していきましょう。カスハラに対する企業の基本方針が明確になることで、従業員も安心して働けるようになります。

相談体制の整備

従業員がカスハラに対して幅広く相談できる体制を作りましょう。カスハラに直面したケースだけでなく、発生のおそれがある場合やカスハラに該当するか判断つかない場合も含めて対応します。人事労務部門、法務部門や弁護士等の外部関係機関と連携できるような体制が有効で、相談体制が整うことで従業員の心理的負担が解消されるでしょう。カスハラによって被害を受けた従業員に対しては、精神面の配慮や安全の確保など適切な配慮を行う体制も必要です。

マニュアルの策定

カスハラと正当なクレームの違いの見極めや適切な対応のためのマニュアルを作成しましょう。これまであった事例や発生しそうなカスハラを事例としてあげ、それに対する対処法をマニュアル化します。

教育・研修

実際に現場で対処できるようにするには、マニュアル作成だけではなく、ロールプレイングなどの研修を通じて対応策を身につけておく必要があります。現場の担当者だけでなく、相談を受ける窓口の担当者も適切に対処や外部へ連携などができるよう、教育を受けることが有効です。

 

カスハラ対応は従業員だけの問題ではありません。カスハラ対策は従業員を守るだけでなく企業全体を守ることにつながります。早めに対策を実施していきましょう。