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ハラスメントじゃないからいい?「インシビリティ」の問題点
最近では、ハラスメントについて意識しない人はいないというくらい、ハラスメント防止の意識は高まっています。そんな中で新たな問題として浮上しているのが、ハラスメントの手前の状態にあたる「インシビリティ」。ここでは、インシビリティが及ぼす影響や、その解決法などを解説します。
インシビリティとは何か?
インシビリティとは、積極的に相手を傷つけようとする意志は明確ではないものの、他人に対する配慮を欠いた失礼で無作法な言動のことを指します。相手に対する丁寧さ、礼儀正しさという意味を持つ「シビリティ」の対概念にあたります。
インシビリティが頻発している企業では、職場がギスギスし従業員のモチベーション低下や生産性が落ちるなど悪影響を及ぼすこともわかっています。
具体例としては以下のような言動があります。
「冷たい対応」
- すれ違った時に嫌悪感に満ちた表情で見る
- 他の人には「さん」付けで呼んでいるのに、特定の人だけ「おまえ」と呼ぶ
- 部下が質問してきても「それくらいわかるでしょう」と突き放した言動をする
「やらない(不作為)行為」
- 仕事を手伝ってもらっても感謝の言葉を言わない
- 会議までに読んでおいてほしいと伝えた資料に目を通さず会議に参加する
- 質問や投げかけに対して、返答をしない
その他、以下のような態度もインシビリティの一種と言えます。
- 他人の話を遮って自分の意見を述べる
- 皆に挨拶しても特定の人だけ無視をする
- 自分の仕事を無理やり他人に押し付ける
さらに「インシビリティ」はリモート環境で増幅される傾向にあると言います。リモート環境では、対面の場合にはある「元気な挨拶」や「目を見て話す」などの行動も省略されやすいからです。対面と比較して物理的な距離ができるため、前述に挙げたインシビリティの具体例が目に見えにくいという特徴もあります。そのため、オンラインミーティングで「チャットにコメントしても誰も反応がない」「意見を言っても誰も反応してくれない」などの出来事が起こっても、問題視されにくく、放置されがちです。
企業にはハラスメント対策が義務付けられているため、明確なハラスメント事案であればしかるべき対策を取ることもできます。しかし、インシビリティはハラスメントの定義に該当せず、問題化しにくいのが特徴です。そうは言っても、インシビリティが発生すると受けた側のストレスは大きく、職場全体の雰囲気を悪化させ生産性を低下させます。「ハラスメントの手前」とはいえ、インシビリティの問題が隠れているケースは実は多いのです。
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インシビリティの影響とは?
人事担当者は、インシビリティが個人、組織にもたらす悪影響を知っておきましょう。最終的には個人→組織→企業全体の業績へと悪影響を及ぼす可能性があります。
個人への影響
- 心理的ストレスにより精神的な負担が増す
- 仕事への意欲が低下する
- パフォーマンスが下がる
- 退職につながる
組織への影響
- 従業員同士の信頼関係が崩れ、協力体制が弱まる
- 組織全体の生産性が低下する
- ワークエンゲージメントの低下につながる
インシビリティな人の特性
インシビリティな態度を取る人には以下の3つの特性があると言われます。
性格特性
他者への共感力が低い場合、「自分の言動が相手にどんな気持ちにさせるか」を想像しないため、無自覚にインシビリティにあたる言動をしているケースがあります。
生育特性
「インシビリティが当たり前に起こる環境」で育った場合、他者にとってはストレスを感じるような言動も「当たり前」「普通」のことであるため、気にしないで行ってしまうケースです。
価値観
「残業してでも仕事は終わらすべきだ」「管理職はこうあるべきだ」など個人の偏った価値観がある場合、他人に対しても自分の価値観によって冷たい態度をとってしまうケースもあります。
また「忙しく心に余裕がない」「不安や悩みがある」「緊張感がない」「相手よりも立場が優位にある」「自分は悪くないと思っている」といったことが原因となるケースもあります。先述の3つの特性に当てはまらない場合であっても、誰でもインシビリティをしてしまう可能性があると思っておいた方がよいでしょう。
インシビリティをどう解決するか
インシビリティを解決するには次のような方法があると言われています。
行動を振り返り、行動を変える
各自がインシビリティをしていないか振り返る
インシビリティは本人が無自覚であるケースも多いため、研修やe-ラーニングなどを利用してインシビリティとは何かを知り、自分の行動を振り返ることが大事です。
自らの行動を変える
インシビリティを自覚したら、価値観ではなく「行動」を変えることが重要です。もしも従業員が次のような考え方の癖に気づいたら、「そのように考えない」のではなく「考え続けることを止める」ことを意識します。
- 自分の考えは正しい
- 自分は嫌われている
- 最近の若い社員は〜
- みんなそうしている など
「忙しい時はまわりに挨拶をしていない自分」に気づいたなら、意識して挨拶をするというように行動を変えることで、シビリティな行動に置き換えることができるでしょう。
無作法な言動が起きないためのルールを作る
他人に対する配慮を欠いた失礼で無作法な言動が起きないように、組織として以下のようなルール作りをするのも有効です。
- ミーティングでは人の話を遮らない
- オンラインミーティングでは顔を出す
- 会議には事前に資料を読んでから参加する など
ハラスメントについてさまざまな対策をしているのに効果が現れていないと感じる場合、インシビリティが問題となっているケースもあります。インシビリティの解決には、従業員の行動変容がポイントとなるため、ここに挙げたようなポイントを意識するほか、ロールプレイを取り入れた研修などの場を設けるのもよい対策となるでしょう。