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公開日 : 更新日 : 戦略人事を実現する新たな専門職、HRBPとは?

近年、企業の経営戦略と人事戦略を密接に連携させる「戦略人事」の重要性が高まっています。その中で注目されているのがHRBP(Human Resource Business Partner)、またはHRビジネスパートナーと呼ばれる役割です。本コラムでは、HRBPとは何か、従来の人事担当者やCHROとの違いを踏まえつつ、HRBPがうまく機能するために必要なことを考えます。

HRBPとは何か

「HRBP(Human Resource Business Partner)」、または「HRビジネスパートナー」とは、企業の事業部門と人事部門の橋渡し役となり、人事戦略の立案・実行をサポートする人事のプロフェッショナルを指します。こうした概念は、1990年代、アメリカの経済学者、デイビッド・ウルリッチ氏が戦略人事の重要性を説く中で提唱したものです。

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HRBPは経営者や事業責任者のパートナーとして、人事面から事業部門を支援する役割を担います。具体的には、経営戦略の実現に向けた人材の配置や育成、組織開発を行います。従来の人事担当者が、主に採用・研修・労務管理などの業務を遂行する「管理型」の役割を担っていたとすれば、HRBPの役割は「戦略型」といえるでしょう。そのポイントは、次のような点にあります。

  • 事業部門のパートナーとして、人事戦略を立案・実行する
  • 経営課題を理解し、人材・組織の側面から解決策を提案する
  • 経営と現場の両方に寄り添い、戦略と実行のバランスを取る

つまり、戦略的人事を実行するための専門職がHRBPであるということもできます。

HRBP CHROの違い

HRBPとCHRO(Chief Human Resources Officer)は、どちらも戦略人事に関わる役職です。「戦略的な人事を担う」という共通点があるため、混同されることもあるようですが、その役割や責任範囲には明確な違いがあります。

CHROとは

企業全体の人事戦略を策定し、CEOや取締役会と連携する「経営レベルの戦略人事」の担い手です。

企業の最高人事責任者であり、経営陣の一員として、企業全体の人事戦略を策定し、推進する役割を担います。具体的には、企業全体の人事戦略を統括・決定するのが主な役割であり、経営レベルでの人材戦略を立案し、組織全体に適用する立場です。

HRBPとは

特定の事業部門に寄り添い、人事戦略を実行する「現場に密着した戦略人事」の担い手です。

特定の事業部門と密接に連携し、人事戦略を実行する役職といえます。事業部門のパートナーとして、CHROの決定した全社的な人事戦略を各事業部門に適用し、事業部の成長を支援します。

HRBPが必要とされる背景

現代のビジネス環境は、グローバル化や技術革新、労働市場の変化など、急速に変わり続けています。このような状況下で、企業が競争力を維持・向上させるためには、経営戦略と人事戦略の緊密な連携が不可欠であり、このことがHRBPへのニーズを高めています。以下、そうした背景と、そのためにりなぜHRBPが必要なのかを見てみましょう。

1.ビジネスを巡る急速な環境変化

デジタル技術の進化、グローバル競争、少子高齢化による労働市場の変化などにより、ビジネスをめぐる環境はかつてないほど急速に変化しています。この変化に対応するためには、単に人材を採用・育成するだけでなく、人事が経営戦略と連携し、戦略に合わせて組織を適応させることが必要になってきます。HRBPはこうした変化を見極め、機動的に人事施策を提案する役割を担うために必要とされています。

2.上記に対応するにあたっての従来の人事部門の限界

これまでの人事部門はどちらかというと、全社的な労務管理や規程整備、定型的な採用・研修業務などの管理業務を中心に担ってきました。しかし、「事業に貢献する人事」であるためには、個々の事業部門の課題や変化に応じた柔軟な対応も必要です、そのために、より戦略的な役割を担うHRBPのニーズが高まっています。

3.経営と現場のギャップ

たとえば経営陣が「組織の生産性を向上させたい」と考えていたとしても、現場レベルでは「日々の業務が忙しくて人材育成が後回しになっている」といった課題を抱えているかもしれません。HRBPは、こうしたギャップを埋める役割を果たします。

例えば、ある事業部門が「新規事業を拡大するためにデータアナリストを増やしたい」と考えているとします。こうしたときに「採用計画を立て、募集をかける」といった対応だけでなく、「データアナリストの定着率を上げるため、報酬体系を見直すべきではないか」といった深い課題分析を行い、より本質的な解決策を提案することがHRBPに期待されています。

HRBPの主な役割

HRBPの主な役割としては以下のようなことが挙げられます。

  • 人事戦略の設計・実行

事業部門の目標や課題を理解し、それに即した人事戦略を立案・実行します。

  • 組織開発

組織の構造や文化を見直し、変革を推進します。

  • 人材育成

必要なスキルや能力を持つ人材の育成計画を策定し、実施します。

  • パフォーマンス管理

従業員の業績評価やフィードバックを行い、パフォーマンスの向上を支援します。

  • 労務問題の解決

労働関連の問題や紛争の解決に向けた対応を行います。

HRBPに求められるスキル

HRBPは人事のプロフェッショナルである以外にも幅広いスキルが求められます。以下にHRBPに求められるスキルをまとめます。

  • 人事領域での高い専門性

さまざま角度から最適な施策を探るために、採用、育成、評価、労務管理など、人事に関する幅広い知識と経験が求められます。

  • 経営視点の理解

HRBPは、経営戦略や事業部門の目標を深く理解し、人事施策に反映させる必要があります。

  • コミュニケーション能力

事業部門の責任者や従業員とコミュニケーションを取り、パートナーとしての信頼関係を築くスキルが必要です。

  • データ活用能力

エビデンスに基づいた意思決定を行うため、人事関連のデータを分析、活用するスキルが求められます。

  • 柔軟性と適応力

ビジネス環境の変化に対応し、柔軟に人事施策を見直す姿勢が必要です。

HRBPが機能するために必要な環境

HRBP本人の能力とは別に、HRBPがうまく機能するための環境についても整備する必要があります。たとえば以下のような点が考えられます。

本社人事から独立していること

単に本社の人事が策定した施策を実行するのではなく、現場の状況を反映した施策立案や提案を行うのがHRBPの役割です。そのためには、本社人事からはある程度独立していることも必要になります。

経営陣、事業部双方からの理解

信頼関係の構築は、HRBPにも求められることですが、経営陣、事業部側の理解も必要です。HRBPが従来の単なる人事担当者とは異なり、事業戦略のパートナーであるというに認識があることで、HRBPも動きやすくなるでしょう。

まとめ

HRBPは、戦略人事を実現するためのキーパーソンとして、企業の成長と競争力強化に大きく貢献します。そのためには、経営と人事の橋渡し役としての役割を十分に果たし、組織全体の目標達成に向けて積極的に取り組むことが求められます。

HRBPの活用によって、単なる人事業務の効率化ではなく、企業の成長と競争力の強化が可能になります。今後、人事の役割はますます「戦略的パートナー」へとシフトしていくことになることを考えると、HRBPの育成も喫緊の課題と言えるかもしれません。

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HRBPとしてのあるべき姿を学び、自社でのあり方を考える実践的プログラム

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