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越境学習でイノベーション人材を育成する

公開日:2023/10/31 更新日:2023/10/31

社会人の学びの一ジャンルとして、「越境学習」という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。主な特徴は基本的に社外での学びであることですが、従業員が越境学習をすることで企業にどんなメリットがあるのでしょうか。今回は越境学習の意味やその効果について解説します。

越境学習とは

越境学習とは、自分が所属する組織の枠を越えて、働く意義や自分自身を学ぶことを意味します。 

経済産業省が実施する「未来の教室」事業でも、「VUCA時代の人材育成」として越境学習を推し進めています。その中で経済産業省は、越境学習の重要な要素として以下の3点を挙げています。

①社会課題の現場

日常の職場と異なる環境に身を置いて活動するため、自分の会社で経験できない体験ができる

②摩擦

他の参加者との摩擦を体験することにより、自分の軸が明確になる

③多様なステークホルダー

様々な利害関係者(ステークホルダー)の情熱に触れることができ、自分の志が磨かれる。

こうした要素により、リーダー的な立場の人は不確実な時代を切り拓くリーダーとしての成長を、リーダー以外の立場の人は、新しいものを創造して自社に変化や革新をもたらすことが期待できます。

越境学習の具体的な方法

一般的には、越境学習の具体的な手法としては以下のような活動が挙げられます。

副業、兼業副業

兼業の職場で働くことは越境学習の一種になります。本業で培ったスキルや個人的な特技を発揮することができるため、 自分の強みやスキルの改善点を知る機会ができ、本業でイノベーションが生まれやすくなります。

仕事を主とするワーケーション

職場とは違う場所で働くワーケーションも越境学習の一種といえます 。普段とは違う環境で働くことで新たな発想が生まれ、イノベーションを生む可能性があります。

異業種交流会

異なる業界の人々が集まるワークショップ、セミナー、勉強会、交流会を行うことも越境学習の一つです。 形態はさまざまで、テーマに沿っての討論、共同での新規事業の企画などの活動を通じて、他社の企業文化や働く環境を知ることができ、新たな視点を得ることができます。

大学院、ビジネススクール

社会人を対象にした大学院やビジネススクールで学ぶことも越境学習の一つといえます。業務につながる知識を得るだけでなく、異なる業種、働き方をする人同士が対等な学生として学ぶことで、さまざまな能力を磨くことができます。

プロボノ

プロボノを通した活動も越境学習になります。プロボノとは、自分が職業上持っている専門の知識や技術を無償に提供して、社会貢献に取り組むことを意味します。地域振興のプロジェクト運営、災害復興のボランティア活動などを、数日から数か月間体験するのが一般的です。課題を抱える現場に赴くことで問題解決する体験ができ、そのスキルが習得できます。

留職(りゅうしょく)

留職とは一定期間、会社を離れて異なる組織で働くことをいいます。「留学」からきた言葉で、当初は主に新興国などでの活動を指しましたが、現在は一般に、国内の他の企業で働くことも含まれます。派遣先では大勢の人たちとで協力しながら仕事をするため、幅広い考え方やリーダーシップを養うことができます。官公庁や国内外のNPO法人などが橋渡し役となって、越境学習の派遣先を紹介する仕組みもあります。

なお、JMA の「プロフェッショナル・ビジネスリーダーコース」では、研修の一種として、従業員が実際に特定の企業へ出向き、その企業がかかえている課題解決に取り組む体験ができます。

https://jma-mi.com/course/pbl/

注目される背景

越境学習が注目される背景をご紹介します。

「キャリア自律」への意識の高まり

右肩上がりの経済成長が期待できないいま、企業は従業員のキャリア形成を自社のみで主導することが難しくなってきています。従業員自らが主体的に仕事の意義を見いだし、将来の目標や計画、それを学び続ける「キャリア自律」意識が高まるにつれ、企業内だけにとどまらない学びとしての越境学習が注目されるようになりました。

中高年層活性化の必要性

日本が世界に先駆けて超高齢社会を迎えるなか、企業でも中高年層の活性化が課題となっています。中高年層が越境学習に取り組むことで、一人ひとりが将来に対する仕事の可能性を広げ、成長することができます。

VUCA環境

変動的(Volatility)で不確実(Uncertainty)、複雑性(Complexity)で曖昧(Ambiguity)と言われる現在の社会環境では、従業員一人ひとりにも成長が求められます。より一層の成長を求めて社外での能力開発を行う越境学習が注目されています。

越境学習の効果

従業員が越境学習を経験することで、企業にとってどんな効果が期待できるかを挙げてみます。

従業員自身が労働の意義を考える機会になる

参加者は越境学習を通して、自分の習得してきた専門的な知識や技術がどう役立っているのかを知ることができ、労働の意義を考えるよい機会になります。また人の役に立つ喜びを知り、自分を肯定する気持ちが高まるとも言われています。こうしたことが、各自のキャリア自律につながります。

従業員の成長につながる

越境学習には作業の手順をまとめた説明書などはありません。そのような環境で活動することで、自分の足りないところや優れているところに気づき、成長のきっかけを作ることができます。

イノベーションが生まれやすくなる

社外の事業計画に参加すると、従業員は自社の決まりごとや仕事の進め方が当たり前でなかったことに気づけます。すると自社の体質を良い方向に改善することができたり、新規事業の創出につなげるイノベーションが生まれやすくなります。

人材流出の防止につながる

自社に越境学習を体験する制度があれば、従業員は本業を続けながら本業以外で関心のあった分野を試すよい機会になります。会社側にとっても、転職という人材の流出を防ぐ効果が期待できるでしょう。

次世代リーダーの育成につながる

越境学習は将来のリーダー育成につながることも期待されています。社内では経験できないような修羅場体験を実際に経験することも多いため、参加者はそれを経験することでリーダーに必要な要素や技術が磨かれます。

成功のポイント

従業員が越境学習で得た経験を、業務に活かすために必要なことを挙げてみました。

参加する目的を明確にする

従業員に越境学習を体験させるにあたっては、目的を明確にすることが重要です。それがないまま、なんとなく参加させてしまうと、「良い経験ができた」で終わってしまう可能性があるからです。例えば、「他社のリーダー候補者たちと刺激し合う」、「国際的な市場に挑戦する」などです。

自発的に参加させる

従業員を自発的に参加させることも、越境学習の効果を得るポイントです。従業員自身が越境学習に対して強い関心を持つことができれば、いろいろな発見や気づきが得られるでしょう。

終了後は内省の場を設ける 

越境学習を終えた後は従業員に内省の場を設けることも重要です。「自分は越境学習から何を学んだのか」を言語化させることで、その後の行動促進につなげやすくなります。

まとめ

越境学習は企業外で行う人材育成の手法として注目を集めています。まだ導入している事例は多くありませんが、人材育成の一手段として活用を考えてみるのもよいでしょう。