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働く意欲が低下する「ボアアウト」に注意! どう防ぐかを解説

公開日:2023/05/31 更新日:2023/09/13

リモート環境下では、仕事量の減少やコミュニケーションの低下などが指摘されるなか、働く人の意欲が低下する「ボアアウト」という現象が注目されています。「ボアアウト」とは何か、どのように防ぐかなどについて解説します。

ボアアウトとはどういう状態のことか?

ボアアウトとは、2007年スイスのビジネスコンサルタント、ピーター・ワルデルとフィリップ・ロスリンの著書で登場した言葉です。英語のboring(退屈)を語源とし、日本語では「退屈症候群」と呼ばれています。

ボアアウトとは、仕事に対して物足りなさややりがいのなさを感じながら「退屈な状態」を過ごすことで、気力の低下を感じる状態のことです。さらにこうした状態が続くと、ストレスやフラストレーションが溜まり、長く続くと自己評価の低下、不眠やうつ状態に至るともいわれています。

 ボアアウトと対比されるのがバーンアウト(燃え尽き症候群)です。バーンアウトは、それまで意欲的だった人が、心身の疲労により燃え尽きたかのように意欲をなくし、社会的に適応できなくなってしまう状態を表します。バーンアウトの原因は業務量の多さや難易度の高い業務による「働きすぎ」である点がボアアウトとは対照的ですが、引き起こされる状態は似ているとも言えます。

働く人の理想的な状態を表すワーク・エンゲイジメントという言葉がありますが、ワーク・エンゲイジメントが高い状態とは、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ていきいきとしている状態を指します。ボアアウトはいわばこの対極にあたる状態であり、バーンアウトとともに防ぐべき状態と言えるでしょう。

なぜ今注目されているのか?

ボアアウトという言葉が注目を浴びたきっかけは、フランスの裁判で従業員が「退屈な仕事がメンタルヘルスを害した」として企業を訴えた結果、「ボアアウトがモラルハラスメントに値する」と企業の責任を認める判決が下ったことでした。

その後、パンデミックによる仕事環境の変化により、仕事量の減少や、リモートワークによって引き起こされたコミュニケーションの低下が「ボアアウト」を引き起こしているのではないかと懸念されるようになっています。

ボアアウトの原因とよくある症状

今までまったく支障なく仕事をしていた人でも、環境や就労状況が変化することでボアアウトに陥る可能性があると言われます。その原因や症状には次のようなものがあります。

 仕事が単調、簡単すぎるという感覚

仕事が単調であったり、簡単すぎると退屈に感じ、仕事への意欲を失ってしまいます。何もしないで過ごす時間が増えると時間感覚の欠如も引き起こします。

同僚とのやりとりがほとんどない環境

コミュニケーションが少ないことで、不安を一人で抱えることになりモチベーションが低下します。不安や悲しみを感じるといったメンタルヘルスの悪化にもつながります。

過小評価されているという感覚

仕事に対する物足りなさややりがいのなさは、自分の能力が過小評価されているという感覚につながります。仕事への意欲の喪失や自分の成長に対しての危機意識から不安を引き起こすこともあります。

 プライベートと仕事の境界の曖昧さ

自宅で仕事をすることでプライベートと仕事の切り替えが曖昧になると、仕事のパフォーマンス低下につながることもあります。

ボアアウトをどう防ぐか?

従業員の生産性やモチベーションを保つためには、ボアアウトを防ぐことが必要です。

先ほども触れたように、ワーク・エンゲイジメントが高い状態とボアアウトは対極の関係にあります。つまり、ワーク・エンゲイジメントを高めることが、ボアアウトを防ぐことにつながるといえます。

厚生労働省が集計した「ワーク・エンゲイジメントの高い者の勤め先企業で実施されている 雇用管理の取組内容」(実施率)の調査によると、「ワーク・エンゲイジメントの高い労働者」が働く企業の環境づくりには、以下の雇用管理が寄与しているという結果になりました。 

  • 「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」
  • 「労働時間の短縮や働き方の柔軟化」
  • 「業務遂行に伴う裁量権の拡大」

出典:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1-2-3_03.pdf 

厚生労働省が集計した(独)労働政策研究・研修機構「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」(2019年)より(213ページ)

また、育成面では「指導役や教育係の配置(メンター制度等)」「キャリアコンサルティング等による将来展望の明確化」「企業としての人材育成方針・計画の策定」などといった人材育成の実施率が高い企業において、ワーク・エンゲイジメントが高いという結果が出ています。

上記の結果からも、従業員が働きやすい環境作りや、成長できる人材育成の機会を提供することで、ワーク・エンゲイジメントを上がり、従業員のボアアウト防止につながるといえるでしょう。

また、日々の仕事に対する「小さな目標設定」や「長期目標の見直し」などもボアアウト防止に効果的です。従業員が仕事の面白さを再認識したり、目標の達成感を味わったりすることは、モチベーションアップにもつながります。コミュニケーションもボアアウト防止に有効なため、まわりに相談しやすい環境づくりも大切です。

 リモートワーク等により働く環境が変化する中で従業員の生産性を高めるためには、ボアアウトのような現象を防止することも重要な課題です。働きやすい環境作りや人材育成の強化でワーク・エンゲイジメントを高めるよう、改めて意識してみるとよいかもしれません。